色彩の罪悪【KAC20247】

藤澤勇樹

第1話 色彩の誘惑

都市の中心部に佇む一風変わったアートギャラリー、「クロマティカ」。


そこは、まるで異世界への入り口のように、日常とは異なる空気に包まれていた。


ギャラリーの壁には、特定のWebカラーコードを用いた現代アートが所狭しと並べられ、訪れる者を魅了していく。


「こんなところ、初めて来たよ」


若きデザイナー、エリオット・グレイは友人に誘われ、何気なくギャラリーを訪れていた。


彼は芸術に詳しいわけではないが、色彩の持つ不思議な力に興味を惹かれていた。


「芸術ってよく分からないけど、なかなか面白そうじゃない?」


友人のジャックは、興奮気味に作品を眺めまわる。


しかしエリオットは、どこか落ち着かない気分に襲われていた。


まるで、自分の知らない世界に足を踏み入れたような感覚。


彼の目は、ふと一つの作品に釘付けになる。


◇◇◇


エリオットが見つめる作品は、一見すると幾何学模様の抽象画のように見えた。


だが、よく目を凝らすと、そこには歪んだ文字が織り込まれている。


「#BF0F1A...これは、Webカラーコードか?」


その色は、深紅と漆黒が織りなす、禍々しくも妖艶な色彩だった。


見ているだけで、胸の奥から湧き上がる衝動を感じずにはいられない。


エリオットは、その色に異常な興奮を覚えていた。


「おい、エリオット、大丈夫か?顔色が悪いぞ」


ジャックの心配そうな声も、遠くから聞こえるだけだった。


まるで、自分の魂が色に呼びかけられているような。


ギャラリーを後にした帰り道、エリオットは衝動のままにスマートフォンでその色を検索する。


するとそこには、ある都市伝説が書かれていた。


「#BF0F1Aは、見る者の心に深い罪悪感を呼び覚ます、禁断の色である」


その一文に、エリオットは震え上がった。


だが同時に、抗いがたい好奇心が胸を焦がしていく。


「そんな馬鹿げた話、本当なわけないだろ...」


否定の言葉を口にしながらも、彼の脳裏からはあの色が離れなかった。


禁断の色は、静かにエリオットを誘惑し続ける。


◇◇◇


あれから数日後、エリオットは再びギャラリーに足を運んでいた。


理性では立ち入ってはいけないと分かっていながら、彼の心はすでにあの色に取り憑かれていた。


「いったい何なんだ、この気持ちは...」


作品を前にただ佇むエリオット。


虚ろな瞳で、禁断の色を見つめ続ける。


その時、ふと視界の端に、一つの扉が映り込んだ。


「関係者以外立入禁止...?こんなところに、何があるんだ...」


まるで色に導かれるように、エリオットはその扉へと歩みを進める。


周囲に人影がないことを確認し、恐る恐る扉を開けた。


薄暗く不気味な空間が、彼の目の前に広がっていた。


壁には、見たこともないような装置が並ぶ。


エリオットは思わず息を呑む。


「まるで、秘密の研究所みたいだ...」


好奇心に駆られ、彼はさらに奥へと足を踏み入れた。


その時、不意に背後から声がかかる。


「君はここで何をしているんだ?」


驚いて振り返ったエリオット。


そこには、例の作品の前で見た見慣れぬ男が立っていた。


「君が、あの色に興味を持つとは...運命とはよくできているものだ」


男は意味ありげに微笑み、エリオットを見つめている。


「色の秘密って、一体...?」と問う彼に、男はゆっくりと語り始めた。


「我々は、色彩の力を通じて、人々の意識を操作している。そして、君もまた、その力に選ばれたのだ」


衝撃の事実を告げられ、エリオットは言葉を失った。


色彩が織りなす陰謀。


それに巻き込まれた若者の運命は、新たな局面を迎えようとしていた。


<続く>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る