第六話 ぬいぐるみは外がこわい

 マヌちゃんが一体何者なのか、その謎を探るべく、今私はマヌちゃんに猫の動画を見せていた。最近流行りの、音楽にのって猫が踊っている様子の動画だ。


「まま、これなに〜?」

「ねこちゃんだよ〜、かわいいねぇ」

「む〜、なんかいやそうだよ?」

「そうなの?」


 猫の気持ちはマヌちゃんにはわかるらしい。まあ確かに、人間のエゴで踊らされる猫が嬉しい気持ちなわけないか……なんて思いつつ、マヌちゃんににじりよる。


「マヌちゃん、こちょこちょこちょ」

「ふにゃっ」


 わしゃわしゃ、とマヌちゃんに触れると楽しそうに逃げていく。案外猫ちゃんと遊ぶ道具を買ってきたりしたら、喜ぶだろうか。

 そんなことを考えていると、マヌちゃんは少しざらざらとした壁紙で必死に爪を研ごうとしていた。が、いかんせん顔が大きく足が短い(し、そもそも爪がない)ので顔が壁にぶつかるばかりで、その前足はひょこひょこ空をかいているだけだ。ぷぷ、かわいい。

 パシャリ。写真を撮ると、音にびっくりしたのだろう。マヌちゃんが「なになに〜?」と近づいてくる。


「ほら、マヌちゃんだよ〜」

「え〜、これまぬじゃない」


 こんなにかわいいのに、マヌちゃんは何故か不服そうだ。人間も他撮りされた自分を認められないように、マヌちゃんも嫌なのだろうか。


「じゃあマヌちゃんはどんなねこちゃんなの?」


 ではマヌちゃんご自身に聞いてみようではないか。ぬいぐるみのマヌちゃんが、どんなセルフイメージを持っているのか、気になる。


「まぬはね、かっこいいの!つめでしゃーってやって、たかいところもぴょんってとぶの」

「そっっっかぁ〜!」


 マヌちゃんのお話は、とにかく可愛かった。「つめでしゃーってやって」のところでは右前脚をちょこと動かし、「たかいところもぴょんってとぶの」と言いながら、その場で一センチほどジャンプしていた。理想と現実が全く合っていないのが面白可愛い。

 マヌちゃんの中では、きっともっともっとかっこいいマヌちゃん像があるのだ。そう思いながらマヌちゃんを撫でる。どう?と聞いてくるその目はきらきらと輝いている。


「……そうだね、マヌちゃんはかっこいいもんね〜」

「うん〜!」


 そんな可愛い可愛いマヌちゃんを顔だけ出すようにして鞄に入れた私は、早速近くのペットショップに行くことにした。


「なになに?どこいくの?」

「マヌちゃん、これからお外行くからシーッだよ」

「おそと?まぬもいっていいの?」

「一緒に行こうね」


 トートバッグの中でもぞもぞ動くマヌちゃんに「外にいる間は動くのもだめだよ」と伝えてから外へ出る。外の空気が涼しい。ね、マヌちゃん。そう語りかけるも、マヌちゃんはもうかちこちになって動かなくなっていた。あれ、動いちゃダメって言ったから、守ってくれてるのかな。

 そうして私は歩いて数分の近くのペットショップで猫じゃらしやネズミの形をしたおもちゃを買い、家に帰ったのだ。だが、マヌちゃんが鞄の中から出てこなくてなってしまった。


「あれ?マヌちゃん、もう動いていいんだよ」

「……」

「マヌちゃん?出ておいで〜」

「……」

「マーヌちゃん」


 ふわっと持ち上げると、心なしかぷるぷる震えている気がする。もしかして。


「マヌちゃん、緊張してる……?」

「……にゃ〜」

「怖かったの?ごめんね」

「にゃ〜」


 か細い鳴き声が返ってきた。ごめんね、怖かったね、と宥めるようにふんわり抱きしめる。外に慣れていないのに可哀想なことをしてしまった。

 だけど、あれ?マヌちゃん、前にはお買い物に行ったと言っていたけれど、やっぱり違ったのだろうか。まあ、マヌルネコは警戒心が強いって書いていたしな。

 そうして首を捻りながらも、マヌちゃんを撫で続けるのであった。

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