第23話 魔法演舞予選 後☆

 決勝戦は、予選で勝ち残った者たちをタイム等でそれぞれ順位をつけ、その順位で均等に4人ずつに分けてのバトルロイヤルである。

 予選をぶっちぎりの1位で通過した芽衣は予選の8位、9位、そして16位と戦う事となった。


「芽衣、琴音先輩。どうする。同校対決だよ。」


 そう、予選最下位は繰り上げでの決勝進出となった琴音である。

 芽依が『魔法演舞』本戦へ出場するためには、琴音を倒さなくてはいけないのだ。


「どうするもこうする無いよ。そんな事を気にしてる余裕はないでしょ。芽衣ちゃんの方が格上なんだから。でも手の内を知ってるからそう簡単にはやられないつもり、まあそれは芽衣ちゃんも同じだけど。」


 琴音は、対戦相手に芽依がいる事を気にしている様子はない。

 琴音の言う通り、両者ともにある程度の人となりを知っているため、初見の相手よりはやりやすいだろう。

 しかし学校の選考会を割と簡単に突破した芽衣と違い、それなりに接戦で勝ち上がっていた琴音は、ある程度の傾向を芽衣に見せてしまっている。と琴音は思っているが、芽依が他人の模擬戦闘等に興味を持つ筈も無いので、琴音と芽依の対決は、琴音が一方的にアドバンテージを持っている状況であるのだが。


「だって芽衣」

「はぁんぇあって?」

「もうちゃんと聞いてよ。それと何食べてるの!さっき昼食食べてたでしょ。」

「んっ、これは間食、お菓子だよ。お腹すいちゃって」

「もっと緊張感を持ってよ!」

「ふふ、随分余裕そうだね。芽衣ちゃん」

「焦燥感に駆られてあせあせしてても良いこと無いですしね」

「そっか。なら、その余裕を後悔させてあげるから」

「楽しみにしてます」


 琴音はそう言い放ち、選手控え室に戻って行った。


「てか、芽依もそろそろ控え室に戻りなよ!」

「…このお菓子食べ終えたらね」

「もう!」


 やはり、芽依も、もう少し緊張感を持つべきなのかもしれない。

  

 芽衣は予選に続き決勝でも第1グループに振り分けられた。

 緊張などしない芽依は淡々と決勝のVR空間に入場する。

 フィールドの大きさは直径30メートル程の円形であり、魔法戦闘をするには少し小さめな印象であった。予選のように『箒』に乗って飛び回るスペースは無さそうだ。


(1対1じゃないから、攻撃に集中しすぎる訳にはいかないか? 予選の感じだと序盤は様子見になり…いや、柏木先輩がいるのか)


 複数人での戦闘は想定外の事が起きやすいため、芽衣は相手の出方を伺うことにする。

 試合などさっさと終わらせて、ゲームをしたいと常に考えている系女子の芽依にしては、かなり慎重な考えてある。


「それでは決勝戦、第1グループの試合を行います。」


(なんか嫌な予感がするんだよな)


 直感としか言いようが無いが、嫌な予感がした故のの慎重さなのであった。


「3、2、1、レディーゴー!」


 そして、その嫌な予感は的中する。

 開始の合図と同時に、芽衣以外の3名は一斉に芽依の方を向いた。

 全員が示し合わせたかのように、攻撃魔法を芽に向かって放とうとしたのだ。

 最初は、無難に防御魔法を発動しようとしていた芽依は3人の構えを見て防御魔法の発動を止める。


「めんどいな、『魔力を纏いて、我、戦え』」


 止めた芽衣が選択したのは、肉体強化魔法てあった。

 肉体が強化された芽衣は、3方向からの攻撃をなんとか躱すことに成功する。


(全員敵か。柏木先輩は兎も角、残り2人も私を狙うのか)


 芽衣は何故、自分が集中砲火されているのか理解出来なかったが、観客や他の選手からすれば当然の話であった。

 先の予選で芽衣は目立ちすぎたのだ。

 使他の出場者が様々な魔法を駆使して予選を突破している所に、ほぼ空間魔法という高等魔法だけで突破してしまったのだ。しかも2位以下に大差をつけて。

 そのため芽衣の実力は卓越しており、しかも他の選手よりも未知な部分が多い。

 そのため1対1になったら勝ち目が薄いと考え、芽衣を最初に狙うのは、戦術的に正解である。

 しかし芽依としては、自分がそんなに目立っていた自覚はこれっぽっちも無いのであった


(だが狙われていると分かれば対策の立てようはある)


 かといって、芽依も簡単にやられるほど優しくは無い

 芽衣はもう一度3方向から魔法が放たれるのを見計らい、魔法を発動する。


「『座標よ、換われ』」

「……え、はぁ!?」


 空間魔法、『座標交換』を発動し右方の選手と芽依の位置を入れ替える。

 可哀想な彼は自身の魔法も含む3つの魔法に突然晒されて、防ぐことも出来ず直撃し、失格となる。


「後、2人。『風刃よ、切り裂け』」


 対面の選手に風刃を放つ芽衣。それを何とか防ぐがそう長くは保たないだろう。

 それならば反撃しなければならないが、無闇に攻撃すれば『座標交換』をされて先程の二の舞となってしまうだろう。

 しかし1対1になれば勝ち目は無いと判断した琴音は、移動魔法を使って接近を試みる。


「いくよ芽衣ちゃん。『閃光よ』」

  

 接近するために琴音が選んだ戦法は、芽衣が選考会で桜宮に行った戦法であった。

 しかしそれは前提条件が間違っていた。

 接近と閃光での奇襲は、その奇襲で魔法制御が緩まる未熟者相手には有効だが、芽依のように少しの事では動じない相手には、通用しない。

 更に言えば、魔法の発動速度で劣る琴音が、閃光魔法と言う明らかなタイムロスをしている余裕など無いのだ。


「それは奇襲なら効果がありますけど、ねっ。」

「まだ!」

「『上へ』」

 

 奇襲に失敗した琴音は、諦めず追撃しようとする。しかしその瞬間、芽依の空間魔法により、上空に転移させられてしまう。

 

「『炎槍よ、敵を穿て』」

「あ、くー!」


 いきなり上空に投げ出されれば瞬時には適応できない。

 無防備な状態のまま炎槍を食らった琴音も失格となった。


「あと一人」

「ひ、ひぃ!」


 残った1人も残念ながら1対1でどうにか出来る選手でなく、芽衣に物量差でごり押しされ失格。

  終わってみれば芽衣の圧勝により『魔法演舞』本戦出場が決定するのだった。  

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