第11話 上位龍討伐レイドの報せ


「ベンゼさん!果実酒お代わりお願いします。」


「あいよ、アンタそんな飲んで大丈夫かい?見た所までガキだけど?」


「これでも酒には強いので大丈夫ですよ、いざとなったら治療魔術で直せます。」


デュランとの死闘の後、1つのまぁまぁな大きさの宿屋に1ヶ月分の料金を払って荷物をまとめた。今は夜ご飯の最中だ。


女将さんとして配膳をしてくれているのは、紫色のロングヘアーを持つベンゼさんだ。見た目は凄く若いのに、喋り方がばっちゃんぽくてなんだか不思議な感覚になる。


(悪魔教がこの街にいるなんて、悪魔教も肝が座ってるなぁ。昼間に会ったハルマさんに出くわしたら絶対殺されるのに。)


果実酒をぐびぐびと飲んで、今日闘ったデュランという男を思い返す。変な喋り方とイントネーションが特徴的な奴は、さらに特徴的なフードを着ていた。


真っ黒なフードに37の数字、そして黄緑色の線。間違いなく組織での立ち位置を決めるものだと思うけど、少し悪魔についてギルドの図書室に行って調べてみようかな。


「ベンゼさん〜、この宿のご飯美味しいですね。」


「当たり前だろう?うちの主人の手作りだからね。」


「え!?ベンゼさん結婚してらっしゃるんですか!?」


「そうだよ!これでも今年で38さ!!」


「え!!??」


過去一衝撃的だ。もうメチャクチャ若く見えて普通に別嬪さんなベンゼさんが、38?いやいやマジでどういうこと?これこそ魔術だろ?


(世の中不思議なもんだな。)


僕は果実酒を飲み終えると、椅子から立ち上がる。今日はもう遅いけど、ギルドに行って調べ物もしないと行けないからギルドに向かおう。


「ベンゼさん、少し外に出てきますね。」


「早く戻っておいでよ、もう暗いからね。」


「は〜い。」


僕はベンゼさんに出ることを告げると、すたのらさっさと冒険者ギルドへと走り出すのだった。





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「お邪魔します。」


僕はもう夜で、ほとんど人の居ない冒険者ギルドの中に入る。中にいたのはピンク髪の受付嬢と他複数人の冒険者、そして異様な雰囲気を放つ黒髪ボブで、茶色の瞳の少女だった。


(うわ、あの黒髪の女の子小さいけど強いな。ハルマさんに引けを取らないレベルだ。)


僕は冒険者ギルドの2階へと続く階段を登りながら、身長が145ほどで小柄なあの女の子を観察する。もう見ただけで分かる、あの子はメチャクチャ強い。


(この街、本当に化け物みたいな人が多いな。)


今日来たってのに、ハルマさんにデュラン、それにあの女の子。恐らくまだまだ居るのだろうけど本当に強者が多い。恐れと同時に興奮も覚える。


この化け物たちと戦って、さらに実力を伸ばしたい。今の僕の実力では悪魔教の幹部やアイアンと同等の相手と戦えば瞬殺されてしまう。それは避けなければならない。


「そのためには、まずは情報収集かな。」


僕は図書室の扉を開け、膨大な量の本棚を巡る。悪魔について詳しく書かれた本を探さないとな。


「あった。」


僕は一つの本を手に取る。タイトルは『悪魔大全』、見るからに悪魔のが乗っていそうな名前だな。


「ええと、何々?」


僕は図書室の椅子に座り、1ページずつ丁寧に読み込んでいく。分厚さはかなりあって、とても詳しく記されている様だ。


そんな感じで、30分ほどの読書の末この辞書みたいな分厚さの本を読破した。そしてこの30分で恐るべき事実がわかった。


「『ソロモン72柱』、か。」


悪魔とは、悪魔界と呼ばれるこの世界では別の世界に住まう異形の怪物。その強さは人間の比にはならず、下位の悪魔でもとんでもない強さを誇る。


さらに言えば、ソロモン72柱という強力な悪魔も存在する。そしてなんの偶然か、ソロモン72柱の内37柱の悪魔の名前は《フェネクス》だった。それは、デュランの扱う悪魔術の名前と一緒である。


そして、デュランのフードに刻まれていた数字は『37』。そして37柱の悪魔フェネクスは不死鳥を操る悪魔だ。デュランの扱う悪魔術のフェネクスも不死鳥だった。


「悪魔教のメンバーは、十中八九ソロモン72柱の悪魔と契約していると見て良さそうだな。」


だとしたら、かなりマズイ組織だ。本によればソロモン72柱の悪魔の強さはかなりピンキリで、フェネクスは中の下ほどの強さ。中には有名な七大罪の悪魔も存在して、奴等は世界を滅ぼしかねない強さを持つ。


「はぁ、、、とんでもない組織に手を出したかもしれない、、、」


僕はため息をつきながら、本を元の場所に戻す。取り敢えず今日はもう寝よ。何か疲れたわ。





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「いただきます。」


翌日、僕はすぐさま宿屋に戻って爆睡をかました。おかげで今の時刻は朝の8時、少し遅めの朝ご飯をベンゼさんに貰っている。もう少し早く起きろと怒られてしまった。


「なぁシオンちゃん、アンタ冒険者だね?」

 

「そうですよ、昨日登録したばかりですけどね。」


「なら気を付けな。上位龍が大迷宮から脱出してきたらしいからね。」


「上位龍、ですか。」

 

正直、僕にとって龍はそこまで恐怖の対象ではない。実質龍の頂点である龍王たちと戦った経験から恐らく出会って即死級の敵ではないからだ。まぁ龍王たちにはボッコボコにされたし、今も勝てる気はしないけど。


「分かりました、気を付けて依頼をこなしますね。」


「頼んだよ、顔見知りの冒険者が死ぬのは分かっていても来るもんがあるからね。」


ベンゼさんは少し悲しそうな顔をしてそう答えた。恐らくこの街で宿屋を営んで長いのだろう、これまでたくさんの冒険者の訃報を聞いてきたはずだ。


「ご馳走さまでした。美味しかったよ、大将。」


「、、、」


ベンゼさんの旦那さん、鬚をたくさん生やしたイケオジのサーベルさんは無言でこちらを見つめ、少し頷いた。相変わらず無愛想な人だ。


(さて、今日は初の大迷宮挑戦と行こうか。)


僕は自分の部屋へと戻り、長年の相棒である鉄槍を担いで宿屋を後にする。向かう先は冒険者ギルドだ。


10分ほど歩くと、冒険者ギルドに大分近づいてきた。僕はそこで、異変に気づく。


「なんか、冒険者が多いな。」


冒険者ギルドに近づくにつれて、冒険者の量が増えていく。しかもその誰もがピリピリしていてなんだか不穏な雰囲気だ。


「んぁ?上位龍の、討伐レイド?」


僕は冒険者ギルドの眼の前までたどり着き、ギルドの看板に貼られているポスターを読み上げた。そこには大迷宮から脱出してきた上位龍を冒険者全体で討伐するというのが記されていた。


「え?マジ?」


「大マジだよ、シオン君。」


「うわびっくりした!」


僕が困惑の声を出すと、後ろから声が聞こえて謂わず飛び上がる。そこにはもえさかるような赤い髪を持つ小柄な戦士、ハルマさんが立っていた。


「今回脱出してきた上位龍の名前は、《ハクロウ》。危険度はA級だが、S級昇格間近と言われていた期待の冒険者が殺されたことでS級への昇格が検討されているモンスターだ。それの討伐に、君も当然参加するだろう?」


「はい、強い敵との戦いをやりにこの町に僕は来てるので。」


「血気盛んで何よりだ。討伐は明日だから準備は怠らないようにね。」


ハルマは最後にそう告げると、身を翻してどこかへ行ってしまう。なんだか面白いことになってきたが、今は取り敢えず大迷宮へと向かおうかな。




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