おのれサイキョージャー

甘宮 橙

ストーリー

 東京、お台場埠頭、コンテナ置き場の一角にその黒尽くめの集団は現れた。黒い全身タイツにドクロをイメージしたフェイスマスク。集団は興奮して皆、奇声を発している。

 そして、その集団の中心には起立型二足歩行ではあるものの、おおよそ人間とは思えない異形の生物が手足を大きく動かして暴れていた。


「ムキョキョキョキョ。俺様は怪人ドロターボ。この街を泥んこにしてやるのだ!」


 自らを怪人と名乗るゴツゴツとした土色の生物は、手を前方に差し出すと、そこからドロを噴射して高く積まれたコンテナをドロだらけにしていった。


『そうはさせるか!』


 どこからともなくその声が響き渡ると、こちらもカラフルな全身タイツにヘルメットを被った五人の男女が現れた。


「熱き炎 サイキョーレッド!」

「静かなる水 サイキョーブルー!」

「芽吹く新緑 サイキョーグリーン!」

「美しき花 サイキョーピンク!」

「ひ~ひっひっひっ サイキョ~イエロー」


『無敵戦隊サイキョージャー!』


「出たな、出たなサイキョ~……」

『サイキョーバズーカー! ロックオン! 発射!』


 怪人が喋り終わるより早く、サイキョージャーと名乗るフルフェイスの集団は、五人持ちの巨大なバズーカーを黒い集団に向け、五色のレーザー光線弾を発射した。


 ドゴーン!


 被弾し、大ダメージを負った怪人と黒尽くめの集団は、一目散に逃げ出したのだった。


「今日もあっぱれ日本晴れ。サイキョージャーの大勝利だぜ!」


 赤い全身タイツにヘルメットの男は、取ってつけたような台詞を付け加えながら勝利のポーズをとった。


*****


 富士の樹海のその地下に、宇宙より侵略に訪れた怪人たちの秘密基地があった。円卓の上座には煌びやかな黄金の鎧を纏った怪人が、そしてその周りには五人の幹部と思しき怪人たちが座っていた。


「バゴーン総帥、以上が今回の戦闘を隠し撮りした映像であります」

「おのれサイキョージャー! ぬわにが、あっぱれ日本晴れだ! マジ、めっちゃムカつくわぁ。だが、こうして幹部が集まったのだ。憎きサイキョージャーを倒すアイデアを持っている者はいないのか?」


「ブラックストーム黒き嵐こと私めにアイデアがあります」

 と黒い鎧のような生態スーツを纏った怪人が手を挙げる。


「ヤツらに対抗すべく、我々もブラックサイキョージャーを結成させるのです! ヒーローの偽物が出るのは定番中の定番。必ずや効果を発揮するでしょう」


「でも、ダメねぇ。その計画には重大な欠点があるんじゃない?」

 人間で言う女性のタイプだろうか? エスメラルダと名札をつけた妖艶な姿の怪人が割って入る。


「だって……ブラックサイキョージャーピンクとか黒なのかピンクなのか分からないじゃない」

「そこか~!」


 総帥は感心したように女幹部に指を指す。そして総帥と女幹部はキャッキャいちゃいちゃと互いを指でつつきながら談笑する。


「そこじゃねぇよ!」


 思わずツッコミを入れてしまったブラックストーム黒き嵐はすぐに後悔するが、もう遅い。バゴーン総帥の目付きが変わる。


「楽しい会話を邪魔してんじゃねぇよ!」


 右の手を開いて、ブラックストーム黒き嵐に向かって押し出す。すると、その念力で、ブラックストーム黒き嵐は壁まで吹き飛ばされ、体を思い切り強打した。


(ち、ちくしょう。パワハラで週刊誌に売りつけても、もともと悪の幹部だからノーダメージなの最悪だぜ……)


 ブラックストーム黒き嵐は気を失い、その場に崩れ落ちた。


 地球侵略の道はまだまだ遠い。

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