第九話 ざまぁ



ブレイブside


  

 無事、魔物との防衛戦が終わると、街の不安に満ちた雰囲気は一気に吹き飛んだのか、すぐさま軽いお祭り騒ぎになった。街の人達は、今回も魔物という脅威を無事乗り越えれたということで、肩を組み合ったり等、一見して喜んでいると分かる行動をとって騒いでいる。

 

 そんな人達を横目でちらちら見ながら道を歩き、冒険者ギルドの酒場まで戻ってみれば、他の冒険者達もそれなりに帰ってきていた。

 その中には、グレッグさん達もいる。お互い無事で何よりだ。

 こちらが気付いた少し後に、向こうも俺がいることに気付いた様で、 


「おーい、ブレイブ!

 お前もこっち来い、席空いてるぞ! 」


「飯ならいっぱいある、食え! 奢るぞ!」


「そもそもギルドが用意してるから、お前が払ってる訳じゃねーだろ!

 タダ飯って奴だ! ガハハ!」


 と、先輩達が俺を呼んだ。 

 彼等の前にはご馳走がある。またご馳走にありつけれるな、と少しばかり嬉しくなった。でも、そこまでの驚きは無い。

 これは今回だけのことに限ったことじゃないからだ。 

 この街に来てから、何度も魔物が襲ってきたことがあったが、撃退後は毎回こんな調子だ。

 体を張って街を守った冒険者に英気を養わせる為に、ご馳走が振る舞われる。

 飯で釣って冒険者達のモチベーションをアップさせるという策が見え見えだ。まぁ、それでも食べるんですけどね……。

 ……というか、タダ飯を食わせることを奢るって言うんだろうか?

 まぁ、いっか。呼ばれてるし行こう。

 

「……タダ飯って最高ですね! すぐ行きまーす!」



 


 

 楽しい食事は続いていく。

 話題は主にグレッグさんの今回の活躍について。グレッグさんはCランク冒険者。一応、前線に出て、魔物と戦った様だが……

  

「――――そこで俺はよぉ! オークの棍棒の振り下ろしを華麗にひらりとかわして、隙まみれだった奴に逆にトドメの一撃をくらわせてやったんだ!」


「すっげぇーー!!」


「さすがグレッグさんだ! 俺も早くCランク冒険者になれるぐらい強くなりたいぜ!」


 なんかオークとの激戦を熱く語ってた。オーク複数体相手に大立ち回りをしたという。なにやら攻撃を全て避けきって一発もくらっていないと豪語しているが……右腕にちらっと見えた打撲傷は一体何なのだろうか……丁度、棍棒で殴られたような痕に見えるが……いや気にしないことにしよう。

 どこまでが本当なのかは分からない。だけど、一般冒険者のリアルな冒険者のようで、聞いてて楽しい時間だった。


 ……面倒な奴が来るまでは。



 


「よう、楽しそうじゃないかブレイブ」

 

 そんな軽い感じの一言と共に、面倒な奴――野生の真主人公君が現れた。

 勝手に来て、勝手に自分の戦果を自慢し始める真主人公君。 


「ん、 何だ? 今回の戦いの活躍でも語り合っているのか?

 ははっ、こんなショボい戦いでか? 楽勝に決まってるのにな、ブレイブ!」


「……そうか」


 会話をしていると、周りの冒険者達も真主人公君がいることに気付いて、何やらこそこそと称賛と誰かの陰口を言っているのが聞こえてきた。


「……王都で活躍しているパーティー、さすがの強さだな」

 

「俺もパーティーに入れてくれねぇかな……」


「女限定って聞くぜ? 男は無理らしい」


「へぇー、まぁ強いから許されるんだろーな」

 

「……実際、それに比べてうちの街の最強は情けないよなぁ」


 何だろうなこの雰囲気。誰か叩かれてる?

 それらの声が目の前の真主人公君にも聞いていた様だが、反応がおかしい。何故かニヤニヤ笑っている。しかも、「くくくっ、終わったな」って声にも出してるし。

 

 これは……もしかしてざまぁ展開?

 まさか、対象は俺か?

 ――――いや、無いな。只のDランク冒険者を比較対象にして貶して何になる?

 ざまぁものは、相手がそこそこ知名度が高くないと意味が無い。


 数少ないAランクの冒険者パーティーの~が敗北したらしいぞ、なら話題に上がる。

 だが、少し冒険者をやってればすぐに上がれるDランク冒険者のパーティーなんか、負けたりするのなんて日常茶飯事だ。

 そもそも、いくらでもいるDランク冒険者の一人をピンポイントで馬鹿にするって……有り得る筈がない。


 とはいえ、少し心配だったので、耳を周囲の声にかたむけてみた。

 そして――とうとう叩かれてる人の名前が聞き取れた。


「普通に怪我して撤退したらしいぜ、情けないよなぁ……」

「“剛腕”のガルドも所詮こんなもんか」


 “剛腕”のガルド。ブレイブでは無い。

 どうやら、“剛腕”のガルドって人がざまぁされそうになっているらしい。

 聞いたことある名前だ。たしかこの街における最強と言われるAランクの冒険者だった筈。格としては及第点かもしれない。

 その声は、目の前の真主人公君にも聞こえていた筈で、てっきりこいつの性格なら喜ぶのかなって思っていたが、


「は? “剛腕”の?誰だよ、そいつ!」


 なんかキレ始めた。知り合いじゃない?

 えぇ……意図せず、ざまぁをしてしまった感じだろうか?

 しかも特に因縁もない人を……酷い奴だな。

 

 とりあえずガルドさんについて、教えてやるか。

  

「“剛腕”のガルドさん。なんかこの街で最強の冒険者らしいぞ」


「はぁ? そんな奴知らねぇよ?

 お前じゃねぇのかよ、この街の最強は」


「あー、俺? そんな訳無いって……最近Dランク冒険者に上がれたばっかだし」


「はぁ!?」


 真主人公君は、それっきり黙ると、最初に嘲笑するような表情を浮かべたと思ったら、そこから何故か不安そうな表情へと変わっていき、


「……帰る」


 そう一言呟くと、ギルドの出口の方へと早足で向かっていった。

 今回の主役はそうして、去っていったのだった。


 何だったんだ、あいつ? 情緒不安定過ぎて怖いな。

 ってかガルドさん……ざまぁされてるんだけど大丈夫なのか()?





 


カインside



 原作において栄光の道を進んでいたブレイブが、Dランクで燻って、チンピラと連んで酒場で飲んでいる。

 見た目こそ、主人公らしい金髪のイケメンだが、そこらの冒険者と見分けがつかないぐらい馴染んでいた。

 あと、目に活力が無い。

 原作の希望に満ちたような目なんて見る影もなく。成り上がりとかの夢も希望も見ず、現状に満足している、そこらの底辺冒険者にしか見えなかった。


 本来は、向上心に満ち溢れ、鬱陶しいぐらいの正義感に満ち溢れた男がだ。

 ありえねぇ……別人なのでは、とつい思ってしまうが。転生者である俺は、バタフライエフェクトという言葉があるのを俺は知っている。

 

 俺がアリシアという友達の存在を奪ったからだろうか? 幼少期からぼっちで過ごしたから、こう歪んでしまったのか?


 嫌いな主人公が、底辺で燻っている。俺が望んでいた通りの姿だ。

 

 その筈なのに……嬉しい筈なのに……実際に目のあたりにすると……少しだけ……後悔なんかしていない筈だったのに、俺の心に不安が過る。


 ――もしかしたら、俺はとんでもないことをしてしまったのではないか、と。


 そんな気がしてならなかった。


 

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