亡くなるまでの2週間②

それ以降、玄関でのお出迎えは無くなってしまって、庭の日向で寝ているだけになりました。

レトルトパウチの柔らかいフレークも好物で、お昼はそれをあげていたのですが、亡くなる1週間前からは、それすらほとんど口にしなくなりました。

病院に連れて行ってあげたいけど、捕まえようとしたり、箱に入れようとすると暴れてしまって、ただ様子を見るしかできませんでした。


それからは毎日、昼の仕事休憩と、仕事終わりの夜、トラの様子を見に行くことが私の日課になりました。

私が近くまで行くと、のそっと立ち上がって、頭を擦り付けてきます。ゴロゴロと喉を鳴らして。

私は、時間の許す限り撫でるしかできませんでした。

お婆ちゃん猫なのに、毛並みが良くて、カピカピになっているところなんて全然ない。だから、死なんてどこか遠くの話だと思えて仕方がなかった。


亡くなる4日前。

ついに何も食べなくなりました。下顎は赤くなっていました。

日向への移動と、水飲み場への移動だけで、あとはほとんど動かなくなりました。

つらいはずなのに、私が手を差し出すと、頭をぐいっと押し当ててくる。

痛いはずなのに、喉を鳴らしてくれる。


亡くなる3日前。

前日より、さらに衰弱してしまいました。

足取りがふらふらしていて、まともに歩けなくなりました。


亡くなる2日前。

ぺたっと横になったまま、ほとんど動かなくなりました。

水はなんとか飲んでいるようだったけど、目やにもひどくて、あまり見えなくなっていそうでした。

撫でても頭を擦り付ける力もありません。

ゴロゴロする力もない。それでも、クゥ、クゥと、必死で喉を鳴らそうとしてくれていました。

私は、「いいんだよ、ありがとう」としか言えませんでした。


亡くなる前日。

もう長くない、そう感じました。

昼間に庭に行くと、目の前に立ってもトラは反応しませんでした。

頭を撫でてやると、「来たのか」という感じで、わずかに口を開けて、声にならない鳴き声を出しました。

縁起でもないとは思いましたが、言わないと後悔する。そう思って、トラにこう伝えました。

「うちに来てくれてありがとう」


この日の夕方、外は明るいのに突然空が光って、数秒遅れてとんでもない轟音が響きました。トラの様子を見ると、屋根つきの物置で寝ていたので、ほっと安心して、その日は顔を合わせませんでした。


亡くなる当日、2024年3月21日(木)

朝から、茨城県南部を震源とする地震が起きました。

被害はなかったものの、私のところもかなり揺れました。

トラの様子を見に行くと、庭にぺたんと伏せていました。

母親が、寒いだろうからと外の箱のなかに入れてあげたものの、嫌がって出てきてしまったんだそう。日向ぼっこが好きだったから、曇り気味の空の下でも、影にならないところに行きたかったんだと思います。

昼に様子を見に行くと、やはりぺたんと伏せたまま。

私が撫でてやると、顔を必死にこちらに向けてきました。目が合いました。

伏せていたトラが身体を起こしてお座り状態になると、

「ワォーン、アォーン」

と、これまで聞いたことがないような声を出しました。

ずりずり、と後ろ足を引き摺って、庭の菜の花畑に向かっていきました。トラがよく日向ぼっこしていた場所のひとつです。


最後くらいは、好きにさせてあげよう。

私はそう思って、トラが落ち着いたのを見届け、仕事に戻りました。


その日の18:20ごろ。トラの様子を見に行きました。

ジャンバーを着ていても寒いと感じる夜風の中、小屋の下の発泡スチロールの箱になるべく温かくなるよう風よけをした中で、トラがうつ伏せで寝ていました。

私が近づいて声をかけると、わずかに首を上げて、こちらを向こうとしました。

「ありがとう、大丈夫だよ」

そう伝えて、撫でました。

寒くて冷たくなっていた私の手でもわかるくらいにトラの身体はすっかり冷えてしまっていて、お別れが近いのを感じました。

「クゥ、クゥ」

と、やはり喉を鳴らそうとしてくれていました。

私は5分ほど一緒に過ごし、「またね」といって、部屋に戻りました。


涙が溢れて止まらなかった。

どこかで、また元気になってくれると思っていた。

冬の寒さで鼻がガビガビになって、春の花粉でくしゃみばかりしていても、一昨年も、去年も、ケロッとした顔で散歩していたじゃない。

今回も、大丈夫。そう思いたかった。


だけど、ペットの葬儀屋を検索している現実的な自分がいた。

死んだあとじゃ、きっと、まともに何もできないから。


18:40ごろ。

父親が大声で母親を呼んでいました。

「トラが死んでる」

そう聞こえました。


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