梨乃ちゃんの告白

 いつかに話した真理ちゃんの話を憶えていますか?


 ええ、彼女がシングルマザーになったという話です。


 好きになった年上の男性と付き合って、妊娠して結婚するけど浮気された上に捨てられたっていう……。


 どこにでもある話なのかもしれないんですけど、あたしにとっては結構身近な話というか……。うん、もうちょっと言うと、そういう感じで最終的に自殺してしまったり、精神科の閉鎖病棟に入院したっきり帰って来ない人とかが結構いたんですね。


 そういうあたしも結構年上の男性が好きになっちゃうタイプで、若い女の子が好きな男性って傾向としてクズが多いのもあり、ご多聞に漏れずあたしもハズレの人を引く傾向があったんですね。それで何回も傷付いてきた。ただ、妊娠とかまではいかなかったので、本当に痛い目に遭う前にはそういう人たちから手を引いたんです。


 亡くなったコたちはあたしと大して変わらなかったのに、ほんのちょっとの差で不幸の坂を転げ落ちていきました。あたしが今元気に生きているのなんて、ただ単に運が良かっただけの話です。


 話は逸れましたけど、そういう背景があったから真理ちゃんの人生というか、歩んできた道のりがさぞ厳しいものだったことは容易に想像出来たんです。本当に、大変だったんだろうなって思います。


 童夢さんの知らないところで、あたし達は連絡を取っていたんです。まあ、それ自体は普通なんですけどね。


 LINEの内容は好きな音楽とか、芸能人の話から始まって、そこからごく自然に真理ちゃんの子供に発展していきました。


 彼女は児童手当とか補助金をもらいながら生活しているんですけど、話を聞いているとそれだけじゃ生活なんかしていけないんですよね。ほら、子供って結構体調を崩したりするし、それが続くと収入が減ってしまうことだってあるじゃないですか。


 だから本当に生活が大変そうで……。


 ええ、そうです。彼女にお金を貸しました。無利子で。実際にはあたしのところにそんなお金はないから、あたしが借金をして貸しました。


 ……どうしてって、そうでもしないと彼女が路頭に迷うかもしれないって思ったからです。小さい子供もいるそうだし、そんな状態で放り出されたらかわいそうじゃないですか。


 あたし自身がそういう流れで不幸になっていく人たちをたくさん見てきました。彼女たちはメンタルに問題を抱えていたし色々とダメなところもありましたけど、それでもあたしにとっては友だちだったんです。


 そうやって不幸になっていく人たちを助けられなかったことは、今でも思い出すと本当にいたたまれなくなります。何度かそういうのを見てきて、もう二度とそんな思いはしたくないって思ったんですね。


 だから「助けられることならやろう」って思って、カードローンの審査を申請してみたんです。だけど審査には落ちてしまって……。


 どうしようかって思っていたら真理ちゃんに「こんなので良ければ」って紹介された業者があって、そこは審査も緩かったんですね。


 それで貸したお金が合計……180万円ですね。自分で後から計算してビックリしましたけど。はい。何回かに分けて借り入れですね。これも後から分かったんですけど、その業者の金利ってヤバいらしくて、雪だるま式に借金が膨らまないように必死で返済しているところです。


 だから、生理痛だろうが体調不良だろうが出社して働くように変わってきました。昔のあたしからすれば考えられないですけどね。生きていくためには必要なことなので。


 思えばなんでそんなに借り入れたんでしょうね。正直なところ、あたし自身もよく分からないんです。ただ、真理ちゃんを助けてあげたくて……。そう考えると、昔助けられなかった友だちの償いみたいなところもあったのかもしれません。


 理由はともかくとして、今のあたしは闇金の借金が十字架みたいにのしかかっています。あたしも不幸かもしれないけど、真理ちゃんはきっともっと不幸なんだろうし……。


 だからこそ……ごめんなさい。また感情が溢れてきて。……ふう、大丈夫です。


 それで、だからこそ真理ちゃんには幸せを掴んでほしかったんですね。


 そこに童夢さんが現れて……。なんかもう、シンデレラみたいな話だねって。……あたしも、童夢さんが好きだったんですよ。知っていましたか?


 でも、それにも勝って真理ちゃんに幸せになってほしかった。童夢さんは誠実な男性だから、きっと真理ちゃんを幸せにしてくれる――勝手かもしれませんけど、そう思ったんです。


 でもごめんなさい。覚悟していたはずなのに、時々精神のバランスが崩れるんです。どうしてあたしがこんな目に遭ってるんだろうとか、やっぱり童夢さんが好きで諦められないとか、それでも譲ったのに意味の分からない理由で真理ちゃんと童夢さんの関係が悪化したりで、さすがのあたしも気が狂いそうになりました。


 ぅう……うっぐ、えっぐ……。


 ごめんなさい。大丈夫です。……なんかあたし、今日泣いて謝ってばっかりですね。本当に。


 とりあえず、あたしの話せることは全てです。


 あと、ごめんなさい。あたし、やっぱり童夢さんが好きです。ストレートに言えばいいだけなのに、不器用をこじらせて、ついでにメンヘラみたいになって本当にごめんなさい。あたしなんかが童夢さんを好きになって本当にごめんなさい。でも、本当に好きなんです。

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