1.5章

第41話 平和な境界

 フィーネ討伐を終えて、比較的平和となった魔界を俺は見ている。

 彼女にとってこの戦いは遊びでしかなかったのだろうが、意識の低さが如実に表れた戦いだったと思う。


 普通に考えて万の軍が五十名弱の集団に負けるなんて考えるまでもないはずだ。だってそうだろう。如何に一騎当千な英雄だろうが、千以上の数の暴力で圧倒されたらどうしようもない。

 守護者たちは特別、個の力が群を圧倒できるだけの能力を持っているわけでもないのだ。幹部のメンバーの能力然り、ウィル班やミスラ班のメンバー然り。


 この戦いにおけるMVPは、やはりリベラートになるのだろう。


 しかし、本当に魔物の数が減ったな。あの四種の魔物以外の種はちらほらと見受けられるが、あの四種はめっきり見なくなってしまった。


 現在でも脅威と認識されているのは空中を飛行する鳥型の魔物だけであり、南部に限った話になるが、魔界の安全性は飛躍的に上昇したと言って良いだろう。


 原作において本編よりも過去と言う物は語られなかったため、果たしてこれがバタフライエフェクトによるものなのか、それとも正史なのか判断ができない所ではあるが、まあ恐らくバタフライエフェクトなのだろうなと思う。

 これほどの規模の侵攻があったという事実が全く語られなかったというのは不自然だし、確か原作での山場はユニーク二体によるパレードだったはずなのだ。


 そう考えると、先の戦いで死傷者を出さなかったのは正に奇跡に等しいのかもしれない。まあ、俺が片っ端から回復して回ったというのも要因として挙げられると思うが。


 俺の記憶ももう錆びついてきているし、恐らく今後も蝶の羽ばたきによるハリケーンは起こり続けるのだろう。少なくとも原作通りいかないのは確かだ。


「静かな境界だね」

『クレーターができているがな』


 主に俺の横に立っている男のせいだが。


「あの戦いのせいでノース領を繋ぐ“王国の血管”は断絶。最寄りの巡守隊の駐屯地も、まあ無事だと考えるのは難しいね……」


 万の軍が侵攻してきたパレード。当然ながら周辺地域に被害が及んでいないわけでもなく、ノース領が王国との繋がりを維持するための血管は途切れてしまった。


『完全に孤立してしまったと?』

「そう。ここは王国最北端。自然と道も南から繋がっているものしかないから、正真正銘、完全なる孤立状態だね」


 まあ、今更だけど。と続けて言うリベラート。確かに今更ではある。王国の血管なんて、あってないようなものだったのだ。


『とは言え、王国の首脳部なんかはノース領が壊滅したと思うだろうな』

「それはちょっと寂しいかな」


 そんなことを言いつつもどこか晴れやかな顔をしているリベラート。

 まあ、知りもしない王国の首脳部のことを考えるよりも、この災害を乗り切れたことの方が嬉しいのだろう。


『そう言えば、今回のことは領主にはなんて説明するんだ?巡守隊が来れなくなったら王都から取り寄せている嗜好品なんかが入荷できなくなるが』

「一から十まで全部教えてやるつもりはないよ。ただ、血管が切れたと言うこととパレードが発生したってことだけ伝えておけば大丈夫さ」

『……そんなんで平気なのか?』

「ダメだけど、下手に全てを報告すると領地を広げようって話になるかもしれないだろ?」


 領地を広げる。その発想は俺にはなかった。魔物の数が激減した南部に移住区域を広げようと領主が画策するという可能性があるわけか。


『でも、それの何がいけないんだ?』

「レイを隠すのが面倒ってことが一つ。今の領地で人口が増えすぎているわけでもないのに、戦い終えた俺たちが酷使されるのは気に食わないというのが一つ」

『だが、領地が増えれば農耕地が広がって豊かになると思うが?』

「……そうなんだよねぇ。でも富裕層だけが更に豊かになるだけって可能性もあるでしょ?」

『……否定はできない』


 うんまあ、権力者がちゃんと民の貧困を憂いているのなら、全体的に豊かになるんじゃないか?独占しようと思ったらお終いだが。

 何かと前世でそういう歴史を学んできたし、そんなことはないと断言できないのがもどかしいところである。


「だけど、やっぱり俺がこの情報を秘匿するせいで本来ありつけた生活にありつけなくなる人も出てくるわけで……」


 色々と葛藤が多そうだ。リベラートは眉間に皺を寄せて、指を顎に当てている。


『守護者たちのことを第一に考えるのであれば、あまり情報を公表する必要はないな。領地を広げると言うことになった時、労力として使われるのは南部の守護者なのは確実だ』

「そうだね。彼らを休ませるのも俺の仕事。でもなー……」


 何かと気苦労が多そうな立場だ。彼自身の正義感の強さと言うのもここまで考えすぎる要因となっている。俺ならば関係のない人のことは考えずに、ここの守護者のことだけを優先するだろう。


「決めた。俺たちだけで南部を少しずつ開発しよう。俺たちの移住区域を広げるんだ」

『休ませるって話は?』

「もちろん今すぐにって話じゃないよ?ただ、今後領地が必要ってなった時のために備えておけるし、何より折角魔物がいないんだ。やっぱり広げておくことに損はなさそうだなって」


 まあ、損はないな。少なくとも南部の生活区域が広がって、農耕地も増える。豊かになるのは俺たちだけだが、まあ今回戦った報酬として頂くって思えば安いものだろう。


 戦いが終わっても、後始末と言うものは付いて回るのが世の常である。

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