第38話 各個撃破

 相性という面で能力者が魔物を圧倒するのは当然だ。だが、如何せん数が多すぎるため疲労は重なる。


『問題は?』

「いや、大分良くなった。ありがとう」


 俺は目の前で回復させた守護者にそう聞く。リベラートによって地形は変形し、魔界の真ん中は荒廃している。とは言え、魔界の全てがそうなったわけではない。一部はまだかつての街としての形を成している。大半の守護者や魔物たちはそちらを戦場として戦っているのだ。


 障害物が一切ない場所を戦場とするには相手からしたら不利すぎるのだろう。遠距離攻撃を持った守護者の格好の的であるからだ。


 俺は回復した守護者の下を離れ、俺の力を求めているであろう誰かの下へと向かう。


 次に目についたのは幹部の二人だ。アリベルトとツバキ。彼らはたった二人でユニーク個体とそれに連なる魔物たちの猛攻を捌いている。

 伸縮自在の尻尾を用いて襲ってくるリスのような魔物が四方八方から襲い掛かっている。俺はその様子を見て、彼らに能力を使用する。


「レイさん!」

「……ふむ。主だったか、助かった」

『いや、問題ない。それよりもあの魔物をどうにかするか』


 ユニーク個体を倒すことができれば指揮系統が瓦解する。何とかしてあいつを倒したいところだが、周りでうじゃうじゃと湧いてくるリスの魔物が邪魔だ。


『俺が魔法であのユニーク個体までの道を無理やりこじ開ける』

「……どのように?」

『簡単だ、土で壁を作り魔物を分断する。その隙を狙え』

「なるほど、あい分かった」


 俺はそう言ってすぐに土魔法により二つの壁を作り出した。それは一直線にユニーク個体までの道筋を示す。逃げられないように俺は魔物の周りも壁で覆う。最早袋の鼠だ。


 そして、アリベルトは一直線に魔物に向かうとその拳を一振り。彼の一撃をもろに食らった。彼の能力は『二倍』一つの概念を倍にすることができる。例えば腕力だったり、スピードだったりだ。


 その彼の一撃を食らった魔物は一瞬の内に絶命。


 これで、リスの形をした魔物はただ無秩序に俺たちを襲ってくる能無しに成り下がったことだろう。


『あとは任せる。俺はまた別の現場に行く必要があるからな』

「ああ、今回は助かった」

「ご武運を……」


 ユニーク個体が一体討伐されたことでここは彼らに任せておけば良いだろう。


 俺はすぐさま別の現場へと駆けつけるのであった。









 ユニーク個体にもばらつきがある。それを認識したのが現在だ。先ほど相手にしたリスはかなり弱い部類だったのだと今なら考えられる。

 現在エリクと共に相手をしているゴブリンは、三メートルほどの体長に筋骨隆々な体、生半な金属は通さないほどの固い皮膚を備えている。


「これオレが相手するような奴じゃねぇと思うんだがなぁ!」

『運が悪かったと諦めるしかない』

「アリベルトの仕事だろこいつは!」


 それはそうだが、運がなかっただけなのだ。諦めろエリク。

 目の前でユニークゴブリンへと攻撃をしているエリクは、能力の関係上相手からの攻撃を受けることはないが、相手の防御力が優れているため千日手となってしまっている。


「レイ!弱体化はできねぇのか!?」

『今やってる。生憎皮膚を柔らかくするような効果は期待できない』

「うん、まあそうだろうなぁ!」


 別にエリクの攻撃力が弱いとかそう言うことでは断じてないはずなのだ。エリクだって南部境界守護者の幹部。彼の攻撃力は恐らく幹部の中では上から数えた方が早いだろう。


 やはり相性というのは大事だ。これが通常のゴブリンだったなら簡単に殺せたのだが、如何せんこの個体はユニークの中でも際立っている。


『俺の能力による弱体化の影響で、まともな身体能力は有していないはずだが』

「如何せん決定打に欠けるなァ」


 エリクが繰り出す片手剣をものともしないユニークゴブリン。


『そろそろ俺も能力を使い続けるのはきついぞ』


 俺は魔物だから魔力切れは起こらないが、聖気は別だ。ちゃんと上限はあるし、消費量と回復量が釣り合っているわけでもない。俺に課せられた仕事は守護者たちの回復。これ以上ここで聖気を消費するわけにはいかないのだ。


『まあ、魔法で足止めならできるが』


 俺はゴブリンの足元の土を沼へと変化させる。

 魔物に魔法は効きにくい。だが、物理法則にはしっかりと従ってくれる。


『まあ、焼け石に水程度の時間稼ぎにしかならない上、下手したら魔力を吸収されて回復される羽目になるんだがな』


 俺が沼にした地面に含まれている魔力。魔物はそれを魔核から吸収し、沼をただの地面へと戻してしまうことができる。本来なら利敵行為もいいところだが、今求められているのは相手への時間稼ぎ。まともなダメージを与えられていないのであればこれが最適解だろう。


「はぁ……。幹部として不甲斐ないな」

『仕方ない。こればかりは相性問題だからな』


 誰に対しても百パーセントの力で戦える人間と言う者はいない。エリクで無理ならローゼもリリアも有効打を与えられなかっただろう。ツバキは微妙だ。


 俺の魔力がゴブリンに吸収され、魔法の効力が消えかけてきた。俺は間髪を入れずに地面から鎖を生成し奴の足に巻き付ける。

 地中に含まれる鉄や岩石で作った即席の鎖だ。さらに俺の魔力によって補強されているため、強度はお墨付きだ。


「えげつねぇ精度の魔法だな」

『生憎とこれしかやることがなかったのでね』


 もうこの世界に転生して何年たったのか覚えていないが、魔物になって大半は魔法と能力の研究に費やした。


『さて、増援が来たみたいだ』


 俺がそう言うと、雑魚を一掃し終えたルオがすっ飛んできた。


「中々パワーがありそうな敵だな!」


 彼はそう言って笑う。うん。これなら火力不足も解消されるだろう。透明化したエリクが牽制し、火力面でルオが叩き込む。


「少し遅くなったね」


 次いでミスラ班の二人まで合流してくれた。

 これならこの場は俺がいなくても大丈夫だろう。そう考えて、俺はミスラ班の全員に能力を使用し、この場を離れる。


『俺は次の現場へと向かう。この面子なら後れを取るなんてことはないだろうしな』

「ああ、助かった。後はオレらがどうにかする」


 その一言に俺は頷き、また別の戦場へと飛んでいく。


 

 

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