第3話 学校会談(その7)

 我に帰って、ドルド丸に告げる。

「そういうことはどうでもいいから。とにかく、それを隠せ。なんならボクが預かってやる」

 右手を差し出すウツボ男に――

「わかったマル。こうするマル」

 ――ドルド丸はキーホルダーを外すと、大きく開けた口に放り込む。

 そして、ぽかんと見ているウツボ男に構わず、ごくんと大げさな嚥下音を夜の廊下に響かせてキーホルダーを飲み込んだ。

「げふ。これでキーホルダーを持ってることは誰にもばれないマル。これでいいマル?」

「うん、まあ」

 予想外の行動ではあったが、あの三人にキーホルダーの存在がわからなければそれでいい。

 ウツボ男が頷いたのと同時に、ドルド丸が一転して緊迫した声を上げた。

「ちょっと待つマル」

「どした」

「学校のセキュリティシステムがアラームを発信してるマル。自分たち以外に誰かいるマル」

「こんな夜中ジカンに?」

 半信半疑のウツボ男を置き去りに、ドルド丸はふわふわと夜の廊下を遠ざかっていく。

 その後をプリンセス・プラージュが影のように着いていく。

 取り残されたウツボ男が――

「待てよ、おい」

 ――後を追う。

 冷静に考えてみれば、追いかける必要もないのだが。


 ドルド丸がプリンセス・プラージュとウツボ男を引き連れてたどりついた先は女子トイレだった。

 きいと軋んだ音を立てて開いた扉から出てくる人影がある。

 それは、深夜の中学校、それも女子トイレから出てくるはずのない“若い男”だった。

 男は向かってくるプリンセス・プラージュとドルド丸の気配を察したらしく、その逆方向へと早足で去っていく。

「なんだ、あいつ」

 つぶやいたウツボ男がドルド丸たちを追い越して男を追う。

 非常口灯と窓からの月明かりだけの暗い廊下で、ウツボ男としての能力なのか音もなく滑るように素早く男の正面に回り込む。

 男とウツボ男の目があった。

 同時にぎくりと硬直する男へ声を掛ける。

「なにやってんだ、オマエ」

 男はその一言が引き金になったかのように、その場に意識を失い、崩れ落ちた。

 ドルド丸が声を上げる。

「警備会社のクルマが来たマル。隠れるマル」


「本当なんだよ。よく探せよ。人間サイズのでっかいヘビが話しかけてきたんだよ」

「そんなもん、いるわけねえだろ。夢でも見たんだろ」

「夢じゃねえよ。いたんだってば」

「夢の話なんかよりも夜の学校に部外者おまえがいることの方が問題なんだよ」

「夢じゃねえって。本当にいたんだ、バケモンが。オレと一緒にするな」

「じゃあ、人間サイズのしゃべるヘビがいたとして、オマエはなんなんだ」

「オレはただの人間だよ」

「ただの人間がこんな時間に学校の、それも女子トイレでなにやってたんだよ」

「カメラを仕掛けにきただけだよ。怪しいもんじゃねえよ」

「十分、怪しいだろうが」

 そんなやりとりをしながら男がパトカーに押し込まれていくのを暗闇の中で見送ったウツボ男が溜息をつく。

「やれやれ、か。……あれ? どこ行った?」

 いつのまにかドルド丸とプリンセス・プラージュの姿が消えていた。

 そこへ――

「ウツボ男、はっけーん」

 不意に投げかけられたテレインの声に目を向ける。

 暗闇の中からフィーマ、マリイ、テレインが姿を現す。

 この三人も、いきなり現れた警備会社と通報を受けた警官に、校舎の奥で身を潜めていたのだろう。

「なにがあった?」

 問い掛けるフィーマに答える。

「不審者。ていうか、変質者だ」

 答えながら、改めてドルド丸とプリンセス・プラージュを捜して周囲を見渡す。

 すでに逃げたのか、別にいいけど――そんなことを思った時、またしてもテレインが声を上げる。

「ドルド丸、みっけ」

 指差す先に、暗闇に紛れてこっそりこの場を離れようとしているドルド丸とプリンセス・プラージュの後ろ姿があった。

 フィーマが指示を出す。

「捕まえろ、ウツボ男っ」

 その声に振り向いたプリンセス・プラージュが、ウツボ男にリアクションの隙を与えず、拳を突き出して叫ぶ。

「プロミネンス・インパクトっ」

 その拳から放った火球によって、ウツボ男はまたしても炎に包まれて意識を失った。

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