第30話 感情が抑えられなかった

「お、お姉ちゃんと五月雨ちゃん⁉」


 加奈が目を見開く先には、ゴミ箱の傍で倒れる水瀬と、俺達と目が合い困惑している五月雨の姿。

 シャッター音の犯人は、このストーカー2人。


 俺の予想は見事に的中してしまった。


「これはそのっ、あのっ、私と水瀬先輩は2人と関係なしで来たというか魔が差したというか、べ、別に朝から2人をつけて写真を撮ってたわけじゃないですから!」

 問い詰める前に、テンパって自分から罪を自白する五月雨。


「バラしたらダメだってそこは……」


「わ、私まだ何にも言ってないですよ⁉」


「いやいや、全部その口から出てたよ」


「え嘘……せっかく今までバレずに後をつけれたのに……」


「ほらバラしてる」


「必死に隠れて2人を観察してたのに……全部水の泡だ……」


「ダメだこりゃ」


 早口ですべてを口にする五月雨に、水瀬も諦めてため息を吐く。

 ボロを出し過ぎだ五月雨。いくらテンパたってあそこまで普通口を滑らさない。


「あとちょっとで完全犯罪出来たのになぁ」


 悔しそうに頭を掻きながら言う水瀬。


「お姉ちゃん達……尾行なんてしてきてたの……?」


 横で静かに話を聞いていた加奈は、俯きながら言う。


「尾行っていうと聞こえが悪いから、見守ってたって言った方がいいかな」


「どっちも変わんないよ!」


「じゃぁ探偵? 写真も撮ってたし」


「もっと嫌だよ!」


「うーん、それなら偶然ってことにした方が都合がいいかも」


「もう遅いから!」


 どちらにしろ質が悪い。せっかく2人で楽しんでいたのに、最後の最後で最悪の事実を知ってしまう。ラブコメでよくある展開なのだろうが、起きて欲しくなかった。

 それに、この姉妹漫才はいつになったら終わるんだ。

 見てて飽きないが、今じゃない。


「ちなみに、どこから後を付けてたんだ」


 もう聞くのすら面倒だが、一応2人に聞いておく。


「ゲート付近でイチャイチャしてた時かな?」


「最初からじゃねーかよ」


「わ、私は止めたんですよ⁉ 1、2枚写真撮ったらすぐに帰ろうって言ったんですけど……」


「感情が抑えられなかったと」


「……すみませんでした」


「ついてくる時点で水瀬と同罪だ」


 この2人はどこまで俺達に迷惑をかけたら気が済むんだ。ただでさえ2人きりの時間が少ないというのに、これじゃ2人になったとしてもこれから気が休まらなくなる。


 ……待てよ?

 今日のことを考えるとこれまでも後をつけられていたかもしれない。

 考えれば考えるだけ問題が増えてくる。もう今は何も考えないようにしよう……


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