冴えない僕は吸血姫〜パッとしない学生の僕は最強美少女になって世界を変える〜

月咲 幻詠

プロローグ

第1話 僕が美少女になった日

 西暦二〇三六年五月某日。日本。


 曇り空の下、僕、来栖 優真はトラックに跳ねられて死んだ。


 今日は兼ねてより気になっていた新作ゲームの発売日だったので、ルンルン気分で家を飛び出し、近くの家電量販店へ向かう道中のことだった。青になった横断歩道を渡る途中、信号無視のトラックが突っ込んでくるのが見えた時には、体全体に衝撃が走っていて、僕は宙に舞い上がった。そしてガードレールが飛び込んできたところで、記憶が途絶えている。恐らく即死だったと思う。あまり想像したくないが、凄い勢いでガードレールに突っ込んで、頭が吹き飛んだのではなかろうか。


 これも、中学三年という受験期にゲームにかまけようとした報いか。こんなことなら真面目に勉強をしておけばよかった。死ぬのなんか嫌だ……。怖い。助けて。いやだ……!

 

——————


「母さん……!」


 と、悪夢から覚めるように飛び起きようとして何かに指をぶつけ、僕は悶絶する。


「……ッ!!」


 反射的にジタバタとしようとするが、なにかに阻まれガタガタという音だけが聞こえる。辺りは真っ暗で何も見えない。


「エレオノーラ様ー、夜ですよー。いい加減早く起きてくださいな」


 ガチャリという扉が開く音がして、聞き馴染みのない女性の声が聞こえた。エレオノーラというのは誰だろうか。


 そんな疑問が頭をよぎると共に、先程起き上がった時に聞こえた僕の声がおかしいことに気づいた。明らかに男のものではない、か細くて可愛らしい声。あれは一体なんだったのだろう?


 一旦気になりだしたら色んな疑問が一気に湧いて出た。


 そもそも僕は死んだはずではなかったか?

 この背中の明らかに自分の髪質と違う柔らかな髪の毛の感触はなんだ?

 指をぶつけて悶絶した時の腕の感触も明らかに自分のものではなかった。細くて、滑らかで、柔らかかった。


「ん、みぅ……」


 また、自分から可愛い声がする。混乱する僕はとりあえずそこにいるであろう人物に、可愛い声で助けを求めてみた。


「あ、あの、何も見えないんですけど、ここはどこですか? 助けてほしいんです」

「まだ寝ぼけてるんですかエレオノーラ様。ここは貴女の部屋で、何も見えないのは棺の中にいるからです」


 僕の混乱は加速した。この女性の口ぶりからして、どうやらエレオノーラとは自分のことらしい。


 それに、あなたの部屋と言ったか?

 ここは僕の部屋なのか?

 百歩譲ってそうだったとして、なぜ棺の中にいるんだ?


 あぁ、死んだからかそれは。いや、意味がわからない。


「開けますよ」


 女性がそう言うと、ズズズ……という重々しい音を立てながら、僕の視界は開けていく。


 目の前にはメイド服を着た気だるげな美人がこちらを覗き込んでいて、奥には豪華なシャンデリアが見える。部屋は全体的にワインレッドで染められていて、金の刺繍が美しい。はっきり言って落ち着かない部屋だった。


 僕はムクリと大義そうに高級そうな棺から上体を起こすと、自分の身体を観察する。白くきめ細やかな両手。目の前に垂れてくる黒く長いサラサラとした髪。胸の膨らみのせいで体が前に重い。


「えぇ……」


 こんな気の抜けた言葉しか出てこなかった。正直脳の処理が追いつかない。


「エレオノーラ様?」


 目の前の現状が飲み込めない僕には着替えなんてどうでもよかった。メイド服を着た女性はそんな様子の僕を怪訝そうに見ている。僕が涙目で助けを求めるように彼女を見ると、ハッとした表情になって僕を見返し言った


「あなたは誰ですか?」





 

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