公僕の俺が「大正時代の沖縄」にタイムスリップした件

浮島龍美

第1話 自転車に乗ってバランスを崩したら、沖縄の原風景みたいな場所に辿り着いたんだが…


「ふわぁ~今日も仕事か~」


 ベットから起き上がった俺、香坂亮太こうさかりょうたは沖縄総合事務局に勤務する「社畜」ならぬ「公僕」だ。


 本当は航空会社で勤務している親父の影響でパイロットになりたかったが、大学時代の就職試験で複数の航空会社を受けて落ちまくったので、卒業後は塾講師のバイトをしながら公務員試験を受け、28歳でやっと「国家公務員」になった。


 あーこれで俺も永田町で働く事になるのかと思ったが、なんと小学校から高校までいた沖縄に赴任することになった。


 最初の頃は電車やセブンイレブンが無い沖縄での生活が嫌だったが、空港に関わる部署に就けたから結果オーライだったと思う。


 ってなわけで俺は朝ごはんにパンと目玉焼きを食べた後、シャツに着替えて自転車に乗って通勤する事になる。


 新年度になり、人事異動で部署を異動させられないか心配だったが、 そんな事は無かった。さっそく俺は職場に向かうために、顔を洗って歯を磨いた後、食パンを焼いて食べた。


 テレビを付けると、ニュースをやっていた。その内容は熊本地震と沖縄で多発している行方不明の事件の事件ばかりで、俺には関係のない話だった。


 朝ごはんを食べた俺はシャツとズボンに着替えた後、黒いリュックを背負ってワンルームのアパートから外に出て自転車に乗り、綺麗に整備されたおもろまちの歩道を走らせた。本当は自転車だから車道を走らないと駄目だけど、車社会の沖縄じゃ歩道で歩いている人が少ないため、東京と違って自転車を歩道で走りやすい。


 そんないつもの道を走らせていると、付近の学校に通う高校生なのか、ながらスマホをしながら俺の目の前に歩いてきた。


 俺はその高校生をいつもようによけようとすると、バランスを崩してしまい、転んでしまった。


「痛ってぇ・・転んでしまったな・・・ん?なんだ?ここは?」


 俺は起き上がると、そこはいつものおもろまちとは違い、僅かな赤瓦の民家と畑、綺麗な海が広がる竹富島や小浜島のような自然が残るのどかな風景が広がっていた。



「海が綺麗だ・・・・ここっておもろまち・・・じゃないよな・・・・」


 俺は目の前に広がる水平線を見つめながら自転車を走らせ、海岸に向かった。そこに辿り着くと、珊瑚礁とエメラルドグリーンが広がる綺麗な海だった。


「綺麗だな…写真でも撮ろう」


 俺はスマホで撮影した。撮影後、スマホを見ると、なぜか圏外になっていた。沖縄の中でも辺鄙な場所だからか?まぁどうせリュックの中にポケットWiFiがあるからそれに繋げれば大丈夫だろう。俺は撮影を終えると、リュックの外ポケットにスマホを入れて自転車を走らせた。


「にしても同じような風景ばかりだし、ここってどこなんだろう?」


 俺は見渡す限り民家とデカい墓ばかりの景色を見ながら南の方角に自転車を走らせた。


「何も無いな…」


 と思っていた矢先、赤瓦の屋根に神社の祠のような建物を見つけた。


「何だあれ、神社か?」


 俺は自転車を走らせて神社のような建物に向かった。俺はそこに入ると、そこは神社と自然が融合したような場所で、ここで野宿をしたい所だが、罰当たりになるのでそれは出来なかった。


 さらに赤瓦の屋根に木造の大きな建物のを見つけた。


「なんだありゃ…役所かなんかか?」


 俺はその建物に向かって自転車を走らせると、そこには沖縄ぽい着物(芭蕉布や琉球絣)を着た子供達が裸足で遊んでいた。


「もしかして小学校…?」


 校門を見ると、「泊尋常小学校とまりじんじょうしょうがっこう」と書かれた立て札があった。


 泊尋常小学校…俺が沖縄にいた頃に通っていた小学校の名前に似ている。その学校は俺の家族と同じように転勤族が多く、90年代の沖縄でありながら中学受験組が多かった。(俺もそのうちの1人だけど)でも、入学式や卒業式と言った式典には国旗掲揚や君が代がかからない少し変わった学校だったと思う。


 対してこっちは俺が通っていた小学校と違い、普通に日の丸がたなびいていた。


「沖縄の学校にしては珍しいな…」


 日の丸を見つめながら俺は自転車を走らせた。


(尋常小学校…俺の同僚が言っていたな、昔の小学校の呼び方だって)


 俺は歴史に詳しい同僚から昔、そんな話を聞いた。で、今の中学校から上は男女別学だと。もしかしてここは過去なのかな?と思ったが、タイムスリップなんてフィクションの範囲でしかないので、多分、俺は「琉球村」や「おきなわワールド」みたいな場所に来たのだろう。


 俺の母校に名前が似た泊尋常小学校からさらに自転車に乗って走ると、さっきの場所より人がちらほらいる感じだけど、さっき俺が見た小学生とほぼ同じような格好をしていた。俺の存在が珍しいのか皆、じろじろ見ていた。


 俺は「何見ているんだよ」と思いながら、通行人を素通りして行った。



 すると、頭に荷物を担いだおばさんが俺に声を掛けて来た。


「ぃやー大和人やまとぅんちゅやる?」


「?」


 俺はおばさんの言っている事がわからなかった。おばさんをよく見ると、胸が見えそうな着物に手に青い痣があった。








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