第37話 決戦

☆☆☆戦い


さてと……後は戦うだけだ。


道場のドアを開ける。


「帰ったか。天鶴……今日は京都ちゃんも来てるか……」


「あぁ、帰ったぞ。クソ親父。京都はそうだな立会人だ」


相変わらず異常な気配を放ってるな……体格も俺より一回りでかい。こうして向かい合うだけで、逃げたくなってくる。


だけど今日の俺は違う。こんなところで逃げ出すわけにはいかない。


京都と付き合うんだ京都京都京都……


「立会人……? いったい何のだ?」


状況を理解していないはずがない。どう見ても、俺が既に臨戦態勢であることを察しているはず……


つまりこれは挑発だろう。まだまだお前は敵ですらないと……


「こういうことだよ……おらぁっ!」


普段は親父の攻撃から始まる戦いは、今日だけ俺の一撃で始まる。


全力のストレート。親父はあえて避けずに受け止めたのだろう。


かなりの距離殴り飛ばせた。もちろんこれで倒せるとは思っていない。


でも、俺の拳は親父に通用することは確定した。


「京都は下がったところから見ていてくれ。近くで見たら巻き込まれるから」


「はいっす! せんぱい。頑張ってくださいっす……」


京都が下がることを確認すると、何事もなかったかのように親父は立ち上がった。まるで効いていないようだが、手ごたえはあったはずだ。


「ほう、良い拳だ。以前より、力が増している……っふ、それでこそ我が息子だ」


「うるせぇ、だったらとっとと倒れろや」


「今日のお前は身に纏っているオーラが違う。何かしらの覚悟を持って俺の前に立っているということだ。だったらそれに応えるのが父しての務めだろう……っぐぉぉぉぉ!」


するとクソ親父は、普段来ている道着を筋肉の膨張のみで破り捨て、異質な上半身の筋肉が露になる。


「……虎徹さん。ほんと格闘漫画に出てくるキャラっすね。先輩はなんかないんすか、よくあるやつ」


「いや、そんなこと言われても俺格闘漫画そんな読まないし……あ、でも格闘漫画のつまらないシーンなら言えるぞ」


「なんすかー」


「トーナメント戦でよくある瞬殺枠だ」


「尺の都合上しかたないじゃないっすかーーー!」


「それがこの枠だよ……おらぁ!」


親父に接近し上段蹴り、しかし躱される。


「ほう、俺を瞬殺するとはよく言ったものだ……さっきのお返しだ」


親父のストレート……これを受ければ……いや、受けてやる!


「っぐぅっ!」


腕で受け止めた。骨がきしむ音がした。どう見ても熊にぶつかった時よりも重い衝撃……


くそ、受けたのは失敗だったか……いや……この程度で倒れるほど鍛えているつもりはない。


〇〇〇京都の気持ち


先輩と虎徹さんの戦いが始まったっす。正直途中何起きてるか分かんなかったっす。


パンチの威力が人間のそれじゃない気がするっす。


私だってこの道場で特訓を積んでるはずっすのに、あぁ、遊ばれてたんだなって……


本気の先輩と組手したら私は瞬殺されるっす。


先輩の本気は……動きが違う。虎徹さんと全力で戦う先輩の姿は別人っす。


遠くから見ても、私が育った道場が先輩と虎徹さんの喧嘩に耐えられるはずがなく、壊れていくっす。


と言うか、拳で床に穴開けるパンチの威力って……


「おらぁぁあぁ!」「うおおおおお!」


親子の雄たけびが道場に響くっす。互いが互いの手の内を知っているためか、途中から殴り合いへと移行したっす。


全力のストレートを互いに受け合います。恐らくプロボクサーですら、そのパンチをもろに受けてしまえばKO間違いなしの一撃。


だけど、この二人はその一撃を喰らってもなお立っているっす。


「はぁ……はぁ……埒が明かないなクソ親父」


「まさか、俺の一撃で倒れないやつがいるとは……嬉しいぞ天鶴お前がここまで育ってくれて……! 知るのだ天鶴! 力こそが全てだと!」


そう、この親子が唯一本気になれるのは、親子だけっす。現に二人はボロボロになりながらも笑っていたっす。


「俺は全く嬉しくないよ、今だって身体がずっと痛いし。骨も何本か逝ってる……でも、俺はあんたとは違う。力が全てじゃない。でも、今回ばかりは感謝している」


「ほう……?」


「あんたを倒せば……俺の最も欲しかったものが手に入るんだ。そうあいつと約束した。それだけで俺は負けないんだ」


「でもお前の身体はまだ俺に追いついていない。このまま殴り合いを続ければ俺が勝つ……」


「いいや、俺は負けない。今日だけは……絶対にだ……」


いいや、先輩は……本当は暴力は嫌いなんだ……


それでも、先輩は私と付き合うために……


ただ、私と付き合いたいだけのために、今こうして虎徹さんと戦っているんす……


「せんぱい……」


だから私も……先輩を信じないと……


「勝ってくださいっす!」



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