【KAC20247】黄色の花に囲まれた妻

麻木香豆

前編 俺目線

 妻、詩織の葬式は家族葬であった。


 こじんまりとした部屋の中で妻は子供、孫に囲まれていた。

 俺と彼女の

 両親はとうに天国に旅立った。あ。俺もだ。俺も彼女よりも早くに死んで20年目か。


 俺の時も葬式の時、家族葬だったな。

 それに俺もあんなに早く死ぬとは思っていなかったし

 詩織には口座の暗証番号を教えていなかったから口座を下ろせたのも

 かなり後だった。親戚一同からかき集めてもよかったろうに。

 教えなかったのは意図的なものではない。ちゃんと俺は貯めていた、老後資金、学資資金。

 詩織じゃ管理できないだろうし妻の名義で資産運用もしていた。

 彼女は金の知識もなかったからな、俺が家計を守るしかなかったんだよ。

 物価高騰してるからって生活費が、食費がって。だから入れる生活費増やせって?

 そんなのその中でやりくりしろよ。

 まぁ一応増やしてやったけどまだ足りないとか言って働きだした。

 家のこともしっかりしろって思ったけどその分彼女に渡す小遣い分は投資に回せたし。

 まぁいいか。


 って、家族葬だったらこの棺も35万じゃなくてよかったんじゃないのか? 

 投資の分から出したのだろうか。



「大変お待たせしました。花の手配に遅れてしまいまして」

 全身黒色の服の女性が数人がかりで真っ黄色の花を持ってきたのだ。

 それを祭壇に飾る。これも高いんじゃないのか? ってこの花は確か……。


「ありがとうございます、わざわざ取り寄せてくださって」

 一果は頭を下げて見送っていった。


「母さんミモザの花が好きだったもんな」

 仁太、そうだそうだ。ミモザだ。


「なかなかなかったもんね。葬儀屋さんの粋な計らいで用意してもらって」

 三佳も微笑んでいる。


 詩織はあまり植物には興味を持たずいわゆる花のある暮らしは無縁だった。

 だがこの時期になるとなぜかミモザを買っては部屋の片隅に置いていた。


 黄色……。


 あぁ、俺が仕事で大きな縁談を取るときにパンツやネクタイの一部の色を黄色にしてたっけな。

 あ、そういえば結婚式の妻のドレス。

 黄色だった。

 ドレスも悩みに悩んだなぁ。

 俺は断然シックなダークグリーンやダークブルーにしろって言ったのに。母さんたちもそっちがいいって言ったのに

 全部無視して鮮やかな黄色を選んでいた。

 で、申し訳なさそうに前撮りの時は俺たちが選んだドレスを着ていたっけな。


 でも黄色、そうか。結婚式のことと俺の勝負色だから黄色なんだな。

 だから黄色が好きだったんだなぁ。

 確かに黄色の服や小物も増えて。でも年甲斐なく鮮やかすぎる色だったが。

 俺のことを思って黄色を身に着けていたんだね。ありがとう。


 きっと遺言書に

「夫の勝負色、結婚式のドレスの色の黄色の花で埋め尽くしてください」

 って書いたのだろう。

 そうかそうか。



 すると坊さんがやってきてお経を読み始める。

 家族しかいないのに……まぁ俺の時はまだ互いの両親もいたんだけどな。

 たしか会社から花も来ていた。


 そういえば詩織も友人や職場の人からも花が届いている。それらも黄色だ。

 やっぱり花の色も指定したんだろう。


 葬儀場の中は黄色だらけだ。棺桶の白色がとても映える。


 美しいよ。詩織、そして俺をいつまでも思ってくれてありがとう。

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