第13話

「落ち着いて聞いてね。あの後、麻生さんと卓登は、みんなの家族たちと一緒に学園内にとどまっているはずなの。何故なら危険だったから……なの……そう、ここは危険な場所……龍神を鎮めることや、時にはいざという時に戦う場所なの。そう、母から聞いたわ」


 高取は少し俯きがちだが、武をなんとか落ち着かせようと努力をしてくれていた。

 そう、この神社は遥か昔から竜宮城と深く関わる不思議な神社であった。勿論、龍神を祭り、また鎮めてもいた。雨も降らず。歴史も関係ない。

「あの龍は?」

(歯ごたえは、確かにあったけど……)


 武にその深い傷を負わしたのは、数多の龍であった。

「たんに麻生さんを庇った時に、気を失ったからわからなかった。安心して。あの後、龍から逃げながら私たちは救命具を付けて、渦潮に入ったの。命からがらね……」

「救命具? 渦潮?」

(何を言ってるんだ?)


「ええ。渦潮には、空間転移をすることができる不思議な力があるわ。そのことも私の母から聞いたの」

 高取は、武の寝ている布団の横に、ボロボロとなった救命具を指差しながら、淡々と説明している。やはり、不思議な女である。

「武の分は、私が付けた。それに、海に落とすのが大変だった。ちょっとは、軽くなる努力をしてほしい。それと、今では怪我を治すことに専念した方がいいわ。ゆっくり休んでね」


 武は幾らか落ち着いてきたようだ。いや、ただ混乱と怪我による疲労でぐったりしているのであろう。武は何気なく木枠から晴れ渡った外を覗いている。外には、海と山に囲まれたこの社に、山には宙に浮かぶ大船が幾つもあり、海の至る所にある紅い橋には、大勢の袴姿の男たちが武芸に精を出していた。

「麻生……」

(あいつは、今どうしているんだろう?)


 武は麻生の名を再三呟いていた。

 だが、麻生は無事で、武たちの方にはこの先厳しい試練が待っているのだ。

「無事って、さっき言った。みんな私たち以外は学園内にいるから。その方がここよりも遥かに安全なのよ。必ずしっかりと寝ていてね」

「水の脅威は?」

「それは……」

 高取は、傷口に新たに包帯を巻いている鬼姫に顔を向ける。その目は何やら鬼姫を観察しているかのようにも思われる。それもそのはず。ここから見ても、鬼姫は武をかなり大事にしてくれているようだ。

「初めまして、私は高取 里奈。この人は同じ学園の同級生の山門 武よ。あの……巫女さん。この世界の大雨を何とかできるのよね? どうかお願いします」

 高取は面と向かって深々と頭を下げるが、鬼姫は武の傷をよく確認してから高取にそっぽを向いて、まるで他人事のように冷たく言った。

「竜宮城の乙姫を説得するの。そのために稽古よ。あなたには不思議な力がある。その稽古。それと、武道の稽古も。武ともう一人とあなたは武道の稽古。後の三人は……わからないわ」

 あまり、高取とは距離を近づけないようにとしているかのようである。

 それと、ここには武と高取と湯築と……美鈴と河田と片岡がいるのだった。


 湯築は目を覚ました。

 やはり、辺りを見回していた。こんな状況で辺りを気にしないのは、高取だけであろう。布団越しから傍に居座る蓮姫に気が付いたようだ。

「あ、お目覚め?」

「ええ……ここって? どこなのかしら?」

 湯築は自慢の足の足首を少し怪我していた。

 救命具を付け、海へと落ちる時についたものだ。皆、龍によって、命からがら海に落ちたのだ。

「私は海神を祀る巫女の蓮姫というの。あなたの稽古役よ。みんなこれから稽古」

「みんな?」

「そう、みんな」

 湯築は驚いているようだ。

「武はいる? あの後、みんな龍から逃げるために、海に落ちて……」

 蓮姫はしっかりと頷いたようだ。

「みんないるわよ。あなたの友達の高取っていう人が率先して、全員助けたようね。彼女は地姫じきが稽古をするようね。地姫が稽古役なんて凄い友達よね」

 地姫は白蛇を祀る巫女で、この神社で随一の口寄せなどの不思議な力がある巫女なのだ。

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