少年と歌

シロイユキ

プロローグ

 この世界のどこにあるかもわからない、深い森のさらに奥。

 

 そこには、静かに佇む学園がひとつ。

 

 声変わりを迎える前の少年たちが集められた学園からは、今日も綺麗な歌声が響き渡る……。


 *


 遥か昔、この世界で魔法の存在が発見された頃。人々はどうにか魔法を使いこなそうと試行錯誤を繰り返していた。


 火を灯したり、水を生み出したり、植物の育成に使ってみたり……。

 簡単なものから使われていくうちに、魔法はどんどん人々にとって身近でなくてはならないものになっていた。


 そんなある日、とある魔法研究者の体の一部が変色し始め、数日後には変色部分が壊死。やがては命を落としてしまう奇妙な出来事が起こる。

 死の間際まで原因を探ったもののわからず、無念に思った彼の同僚を始めとした研究者たちが調査を続けていると、魔法の根幹かつ重要なことが判明した。


 魔法は人間が生まれた時から持っている能力のようなものではなく、世界樹という一本の木から生み出される魔力を特殊な石を介して体に取り込んで使うもの。

 そして、魔法を使うと瘴気と呼ばれる有害な空気が発生し、それを体内に蓄積しすぎて体が耐えきれなくなると魔法研究者のようなことになってしまうのだった。


 また、厄介なことに瘴気は動物を凶暴化させたり、魔法を使用しない人でも吸い込むと体に蓄積されてしまうため、使いすぎてはいけない。

 しかし、そのことが判明した時にはすでに遅く、世界は瘴気に満ちた状態となってしまっていた。


 *

 

 多くの研究者たちが長い年月をかけて瘴気を浄化する手段を探っていると、自然豊かで人の立ち入りが少ない山奥に村民全員が元気で空気の澄んだ村が発見された。


 すぐさま村についての研究をしたものの、特別な装置や伝わる魔法は存在せず。

 がっかりした研究者たちが村の外れで呆けていると、その近くで呑気に遊ぶ少年たちのまわりに放置されていた研究装置の瘴気反応が徐々に薄まっていることを目にした。


 ついに浄化の糸口を掴んだ研究者たちがすぐに少年たちの身体調査をすると、遊びながら歌っていた少年たちの歌声に浄化の力が宿っていることがわかった。


 ただし、誰でも歌を歌えば浄化できるわけではない。歌魔法の適性を持っている者のみが特別な歌を歌った場合かつ、声変わりをする前の少年たちの歌声が一番効果的だということが発覚した。


 この浄化の力を持つ歌のことを「聖歌」と呼ぶようになる。そして各国は7歳を迎える男子に魔法適性検査を必須とし、身分に関係なく該当する少年を聖歌学園に集め聖歌の歌い手教育に力を入れることにした。


 これはその聖歌学園を取り巻く、少年たちの物語。

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