第45話 ブランチダンジョン

新ダンジョンの立地を決める。


俺は特に希望はない。


何せ、家の隣にダンジョンがあるのだ。これ以上は別に要らんだろう。


なんなら国に委託しても良いんだが……。


「そんなん駄目でしょ。最終的には国に委託するとしても、こっちで主導権を握らなきゃ」


とのこと。


親父は、いつものにやけヅラから、裂けたような笑みの悪人面になる。


これを見ると、「ああ、やはり俺の親なんだな」と納得できてしまうな。


まあそもそも、『悪人じゃなきゃ御影流じゃない』し……。


まあその辺は良いや。


「で?主導権ってのはどういうことだ?」


「ンモー、策略は苦手かー?ダンジョン創造権という、地球上の誰も持っていないクソデカ利権を持っているんだから、それを使って色々と好条件を引き出すに決まってるだろ?」


策略だあ?


俺は暴力でどうにかなると思ってるからなあ。


今なら、刀一本で世界滅亡させられると思うぞ。


まあ、ダンジョンができる前なら、精々、日本転覆をできたかできないか、ってところだろうが。


にしても……。


「好条件を引き出すってのは?」


「素案としては……」


親父の話をまとめるとこうだ。


今や二千五百万人もの冒険者を抱え、ダンジョンが国家産業となった日本において、最も足りていないのはダンジョンの数。


アップデートを重ねて、ダンジョンはどんどん広くなってきているのだが、それでも手狭なんだそう。


その理由として、バッチリダンジョンで稼げる上位層、そこそこやっていける中位層、スライム潰しが精々の下位層、バイト代わりにスライム潰しやってるバイト勢……、それらが全部一箇所に集まっていることが挙げられる。


これからガチでレベルを上げていきたい奴の獲物が、下位層の日銭を稼いでいる程度の奴らに取られて、上位層が中々増えない……、みたいな問題になっているそうだ。


それに伴う冒険者同士の諍いで、暴力沙汰になったことも一度や二度ではない。


その他にも、日本に九つしかないダンジョンの周囲の地価がバブルじみて上がっていることなんかも大変な問題なんだとよ。


そんな最中に、ダンジョン……、パイそのものを増やすってのは、最適な解決策だ。


もし、ダンジョンが十個も増えれば、ダンジョンに関する問題は、実質半分になると言っても過言じゃない!……とか言ってるが過言だろう。


確かに、ダンジョンが混んでいるのは俺も感じていた。


最近は、初期の頃の試験を合格して冒険者になった俺達みたいなのを『上級冒険者』と定義されるようになっていて、上級冒険者はダンジョン入退場や素材精算などを待たなくて良いようになっている。


一方で、試験なしで冒険者になった奴らは『下級冒険者』と呼ばれ、受付ではなく、WEBでの入場予約フォームで数時間待たなきゃいけないらしい。


その辺のことについてソラに訊ねたら、『私の世界は総人口が十億人もいないから、人口一億二千万人の国でのダンジョンシステムの運営方法はちょって分からなくて手探り状態なんだよね』だとか言っていた。


ああ、なるほど。


だから今回、ダンジョン百階層クリア者にダンジョン創造権を与えようなんて言ってる訳か。


まあそんな感じで、ダンジョン創造権ってのは、ぶっちゃけると今まで俺が得てきたどんなドロップアイテムよりも高価なモンなんだと。


それをいくらで売りつけられるかは、両親の交渉によるのでウキウキなんだな。


で……、両親の案はこう。


まず、日本にあるダンジョンは全部で八つ。


東京、スカイツリー前。

 

大阪、通天閣前。

 

名古屋、名古屋城前。

 

札幌、羊ヶ丘展望台前。

 

仙台、仙台城跡前。

 

広島、原爆ドーム前。

 

福岡、太宰府天満宮前。


栃木、日光市内俺の家前。


これに付け加えて……。


神奈川、埼玉、千葉、兵庫、京都、静岡、新潟、熊本、岡山、鹿児島。これらに設置を予定しているらしい。


理由?人口の多さ。


最初は頓珍漢なところを指定して、国側が「金をやるからやめてくれ!」と言ってくるのを待つ……、みたいな悪どいことをやるらしい。


詳しい策略については知らん。


ただ、場所はほぼ本決まりだそうだが、最大階層とダンジョンコンセプトもどうやらこちらで決められるらしく、その辺りで交渉をするようだな。


例えば、『食料がたくさん出るダンジョン』『鉱物がたくさん出るダンジョン』みたいなのが選べる……、と迷宮端末には書かれている。


シミュレータのようなものが付いていて、◯◯ダンジョンを作れば、主に◯◯が得られる……、みたいなこともある程度事前に知れるみたいだ。


最初の八つのダンジョンを『オリジン・ダンジョン』、今後できるダンジョンを、分岐という意味合いから『ブランチ・ダンジョン』と呼称するとのこと。




ブランチダンジョンの設置については、一週間という、官僚組織や政治家達にしては考えられないほどの速さで決定された。


まあ、ダンジョンから得られる資源や、ダンジョン関係の技術がもたらす金は、日本のGDPのおよそ三割を占めるからな。


GDPの規模は、ダンジョン出現前と比べるとおよそ半分にまでなっている。正直に言って、国が滅ばなかったのが奇跡だと言われているくらいだ。


前に、杜和が、「外国産鶏肉の値段が倍になっていた」なんて言っていたが、物価のインフレは凄まじく、ガソリンはリッター三百円を超え、嗜好品の酒タバコの値段は三倍でもきかないくらいの有様だった。


車なんかは中古の軽でも百万を超え、駅前の有名チェーン店の支店ですら経営不振で潰れていった。


おまけに、臨時増税とか言って消費税は16%になり、生活保護費などの福祉費用も大幅に削られる有様。


今までは国家の備蓄を切り崩してなんとか保っていたが、これからは……、って話。


そんな時に、資源の宝庫たるダンジョンを十個もおかわりだ!なーんて話になると……、そりゃあ、飛びつくだろ。


日本と言えば、あらゆる手続きが書面でゆっくり行われると、ハンコだなんだとすっとろいとよく言われるが、今回ばかりは話は別。


官僚組織や政治家がやったとは思えない速度で決定された新ダンジョン案は、一週間という驚きの速さで決められ、即座に実行された。


神奈川、横浜マリンタワー前『鉱物ダンジョン』


埼玉、大宮公園前『スキルスクロールダンジョン』


千葉、千葉ポートタワー前『薬品ダンジョン』


兵庫、神戸ポートタワー前『有機素材ダンジョン』


京都、京都タワー前『魔導具ダンジョン』


静岡、浜松城前『無機素材ダンジョン』


新潟、白山公園前『食料ダンジョン』


熊本、熊本城前『原油ダンジョン』


岡山、岡山後楽園前『武具ダンジョン』


鹿児島、西郷隆盛像前『テイムモンスターダンジョン』




後の歴史書では、この十個のブランチダンジョンが実質的に日本経済を救った、などと記されることは、俺はまだ知る由もなかった。

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