第39話 ダンジョンが齎した新技術

連日、赤堀ダンジョン研究所の特番が組まれれば、嫌でも新技術とやらの内容が頭に入ってくる。


例えば、俺が前に散々取ってきた、超高エネルギーを長期間放出する『火炎石』を使った、全く新しい内燃機関。


それに、五十階層に現れる『カーバンクル』から取れる『エントロピーストーン』や、六十階層付近に現れる『ミスリルゴーレム』の『ミスリル』を組み合わせて作った擬似永久機関は、ビル一軒程度の大きさで、半永久的に発電所一つくらいの電気を生産し続ける。


七十階層付近に現れる『ツチグモ』を倒すとたまに落とす『ヒヒイロカネ』は、熱伝導率が500%の金属(熱を五倍に増幅する)だそうだ。


これを使って特殊被膜を作り、既存の火力発電所に組み込んだ所、発電効率が十倍になったとか。


四十階層付近に出る『ブラックウーズ』から取れる『ブラックラバー』は、電気を完全に通さないので、他の特殊金属などと組み合わせて電線の皮膜に使えば送電損失ゼロの電線が作れるとか。


赤堀ダンジョンにはないのだが、他のダンジョンでは、果樹が無限に実る階層や、野菜に穀物がとれるダンジョンなんかもあるらしい。


これらのダンジョンからとれる食べ物は、品種改良などと言う行為が馬鹿馬鹿しくなるほどに美味いものばかりなんだとか。


その上で、食べると何かしらの回復効果があるとも聞く。


とは言え、日本の農家の皆さんが苦しまないように、そこそこの難易度があるらしいが……、それでも、ちょっとレベルが20とか30くらいになった冒険者なら、ほぼ安全に取ってこれるくらいの難易度らしい。良調整だな。


もちろん、あり得ないくらい高性能な肥料なども作られているので、農家が特別損をするとかはない。


ミスリルは常温超伝導?とかいう性質があるらしく、量子コンピュータが作られたとか。


それを使って、また新しいスーパーコンピュータを理化学研究所が作る予定だそうだが、試算では、現在世界最高の性能がある『富嶽』という日本のスーパーコンピュータの九千兆倍くらいの演算力になるらしい。


来年には完成予定だとか。


あとは、ゴーレム系のモンスターからたまにドロップする『ゴーレムコア』を使えば、地球上のどんなロボットよりもヌルヌル動くロボットが作れる。


四十階層付近に現れる『クリスタルスラッグ』からとれる『転移石』を解析したら、時空転移技術が確立したらしく、将来的には日本各地にワープゲートを開く予定があるとか。


若返りの秘薬も公的に存在を認められて、一般販売を開始。……但し、途方もない金額でだが。


他にも、ダンジョンポイントのやり取りは、どんなものでも好きなだけ買い取ってもらえることを利用して、有害な産業廃棄物をダンジョンポイントに変換して処分する……、みたいな事業も始まっていた。既に、福島の汚染した土は全部ダンジョンに還ったし、その代わりに、ダンジョンから綺麗な土を買って埋め立てをしたとのこと。


……もちろん、土やゴミの買取価格は二束三文のポイントらしいが。そんなうまい話はないものだ。


工学的な話は良くわからないが、何かこう……、ミスリルやアダマンタイト、オリハルコンにヒヒイロカネなどを色々弄ってたら、今までの電子部品の素子の性能を十倍くらいに伸ばす?感じの技術がどうとか言って、なんかこう……、凄いらしいよ。


俺の携帯も、ダンジョン技術を使った新型に買い換えたのだが、64GBの携帯の容量が1024GBになっていた。これはパソコンくらい容量がある?みたいな話を杜和が言っていた。


そもそも、元素表がもう二、三枚埋まるほどの新元素の発見ってだけで、科学的にはとんでもない進歩なんだとか。


後で聞いた話だが、これからの日本の科学の歴史では、ダンジョン前とダンジョン後で、西暦以前以後みたいに分けて考えるのが当然となったらしい。


ダンジョンの発生は、日本科学の歴史にとってキリストの降臨だったってこった。




さて、八月後半。


夏休みが終わり、俺は杜和を伴って久々に登校する。


「にしても……、うちのお父さん、めっちゃ情けなかったっすね……」


「仕方ないだろ?今、赤堀ダンジョン研究所に睨まれたら、日本で商売なんてできなくなるからな。あのマスコミでさえ、うちには一切手出ししてこないんだぞ?権力パワーは怖いんだよ、誰だって潰されたくない」


そう……、この前、杜和を娶るので、杜和の親御さんに挨拶をしに行ったのだ。


だが、親御さんは、自分の娘の結婚相手が、日本経済を支えていると言っていいこの俺であると知って、驚きのあまり倒れてしまったのだった。


まあぶっちゃけ情けない姿だったが、一般人からすれば無理もない話だと思う。


政府、資本家、自衛隊、冒険者、そして地元の人間には、俺がトップダンジョン攻略者だと知れ渡っているからな。


普段あれだけうるさい野党やマスコミも、俺には手出しできない。


彼らも、手前らのおぜぜの入りが悪くなるようなことはしないだろう。


反与党だの芸能人のスキャンダルだの、ありゃ儲かるからやってるんだ。ちょっかい出せば潰されるところにわざわざ手出しはしねーよ、そこまで馬鹿じゃない。


若返りのポーションや、どんな病気も治すポーションを齎す、金の卵を産む鳥をなぜ虐めるのか?って話だ。


むしろ、俺の靴すら喜んで舐めると思うよ。


近所付き合いも俺の財布も、全部杜和に任せているので詳しくは知らんが、この辺の田舎は近所付き合いがあってだな……。


まあ、そういう訳で、杜和の親御さんは恐縮しまくっている。


こんな言い方は悪いが、田舎の庄屋の娘が、天下一の大名に見染められた……、みたいな話だからな。


定期的にダンジョンからとれた食い物なんかを杜和に持たせているが、ご近所でどう思われているかは謎。


「うーん……、先輩はそんなみみっちいことしないんすけどねえ。権力でどうこう、なんてするくらいなら、刀一本持って殴り込むでしょ?」


「そりゃそうだ」


そうして、学校に到着すると……。


……「わ……、あれが例の?」


……「すげぇよなあ」


……「強そう……」


校内の生徒達に指をさされた。


「先輩、噂になってるっすね」


「そうだな」


「……あの、あんまり鬱陶しいようなら、自分が先生に相談するっすよ?」


「いや、構わねえよ。俺には、見られて困るようなものはないからな」


「自信家っすねー」


いや、そりゃそうだろ。


別に、不細工な訳でも、デブな訳でもないんだから、見られて恥ずかしいなどとは思わん。




杜和と別れて教室へ。


「おっすー」


「うぃー」


キチレンジャーに出迎えられる。


夏休みは、ダンジョンももちろんだが、皆で海に行ったりキャンプしたりなどもした。


我々も学生なので……。


他にも、青峯の書店の掃除を手伝ったり、赤堀ダンジョン研究所でバイトしたり、国内旅行したりなどした。


金はいくらでもあるからな、青春を楽しまねば。


「赤堀クン、最近どうなん?」


緑門がいつもの半笑いでそう聞いてくる。


「あぁ?どうもこうもねぇよ。杜和の親御さんに挨拶して、研究所で働いてる」


「はえー、親御さん、おったまげたやろなあ」


「まあな」


「まま、ええやん!高給取りの息子さんなんて、親御さんも大喜びやろ?」


「そうかねぇ……」


「実際、今月はいくら稼いだんや?おいちゃんに言うてみい?!」


あー……?


「十億を超えた辺りで、数えるのがアホらしくなってやめた」


「カーッ!聞きましたか奥さん?!これがブルジョワですよ?!」


と、緑門は、桃瀬に耳打ちした。


「あらあら、嫌ですわね〜!」


桃瀬も、それに乗って煽ってくる。


「テメェらも散々稼いでんだろうが」


「まあせやね。でも、今までのトータルで一人十億円くらいやで?一月で十億以上稼ぐトップ冒険者様と比べたら、ワイらなんて下々の民やでホンマ」


「ほざきやがれ、テメェらも最終到達層四十三階のトップ級だろうが」


「いやいや!それが違いますわ!最近、ダンジョンが稼げるって分かったから、世の中の武道家やら猟師やらって連中がこぞって冒険者始めなさって、トップ層が増えてるんよ!」


ほーん?


「そうなのか?」


「せやせや、うかうかしとると、赤堀クンも抜かされるかもしれんで〜?」


「そうだとおもしれぇんだがな」


っと、チャイムだ。






——————


https://kakuyomu.jp/works/16818093075582201166

異世界と地球を行ったり来たり 〜チートはポーション生成ではなくもっと別の何か〜

新作よシンジくん。シンジくん、読みなさい!(迫真ボイス)

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