039号室 温泉旅行体験 朝の過ごし方

「リオさん、おはようございます」


「おはよう、クラウディア。早いね」


 翌朝。僕が目を覚ますと、隣のベッドにクラウディアはいなかった。どうやら僕より早く目覚め、リビングにいたらしい。


「お部屋の露天風呂に入っていましたわ。あわよくば裸体でリオさんと鉢合わせを狙っていたのですが……」


「心臓に悪いからやめてくれ。ところで、風呂に入ってみた感想は?」


「浴槽は小さいですが、大浴場とは違った意味でのびのび出来ましたわ。なにせ1人だけですので」


 なるほど。やはり部屋風呂は非常に気になるし入ってみたいが、どうもクラウディアと一緒だとなかなか入りづらいんだよなぁ……。

 さて、僕達は洗面などの朝の身支度を終えると、丁度朝食が運ばれてきた。


「失礼致します。朝食をお持ちしました」


 朝食は、和朝食の定食だった。もちろん旅館の朝食なのでただの和朝食ではなく、献立の種類が多く一つ一つのクオリティが高い。

 デザートはカットフルーツを合わせたヨーグルトで一見すると和食と合わないが、これが以外と合う。


「ボリュームがあって朝に食べるには少々無理かと思いましたが、意外と食べられましたわ」


「不思議とスルスル食べられちゃうよね」

 


 さて、この椿屋には大浴場の他に、3つの貸し切り風呂がある。川側館に2つ、山側館に1つだ。

 貸し切り風呂の利用には特に予約や別料金はない。ただ扉の表示が『空き』になっていれば勝手に使用して良い。

 なお、利用は1組最大1時間と決められており、それ以上貸し切り風呂に入っていると何か異常事態が発生したと見なされ、スタッフゴーストがすっ飛んでくる。入浴中に倒れていたりしたら大変だからね。

 

 そんな貸し切り風呂の1つ、川側館の地下風呂に僕は入っていた。


「すげー。露天風呂とは趣が違うな」


 地下風呂は洞窟をモチーフにしたデザインになっていて、穴場の秘湯のような雰囲気だ。

 大浴場の広くて開放的な風呂も良いけど、こういうパーソナルな場所で1人静かに入るのもいいもんだ。


「この暗さもいいな。露天風呂の絶景もいいけど、暗いところでしか実感できない癒やしがある」


「ええ。わたくしもそう思いますわ」


 ……ん?ここには僕1人しか居ないはず。なのに、なんで他人の声が聞こえるんだ?

 恐る恐る横に振り向いてみると……。


「ク、クラウディア!? どうしてここに」


「モニカさんにリオさんと一緒にお風呂に入りたいと相談したところ、マスターキーを使って入れてもらいましたの。リオさんは深くリラックスされているようでしたので、お邪魔しないように静かに入りました。

 ところで……男性の大切な場所を見せていただけるなんて、ようやくわたくしに心を開いていただけたのですね!」


 そう言われて、ハッと気がついた。

 クラウディアがいつの間にかいることにビックリして、湯船からつい立ち上がってしまったのだ。いくらこの風呂が暗いとはいえ、この距離では全く隠せていない……!

 僕の頭が色々混乱している中、クラウディアはなんといきなり立ち上がった! もちろん、クラウディアの色々な部分が僕の視界に入ってきてしまう!!


「これでおあいこですわ。それに、今回のことはきちんと責任を取らせていただきますから、安心してくださいまし」


「ア、ハイ……」


 つい生返事を返してしまったが、これが後に重大な影響を及ぼすのだった……。




「――はい、チェックアウト完了しました。今回は宿泊体験ですので宿泊代はいただきませんが、宿泊料は宿泊費は朝食・夕食付き1泊1人当たり一間部屋が2万V、二間部屋が5万V、椿部屋が8万Vとなっております。食事が付きますので1人当たりの値段になります。

 なお、維持費は月60万Vが目安です」


「全体的に、カサ・セニョリアルよりも安いんですのね」


「メシが最高だったしな」


「加えて温泉という癒やしを目的にした施設が使える。冒険者としては、活動というよりもコンディションを整えに来る人が多いだろう」


 今回宿泊した人は、完全に椿屋を気に入ったらしい。

 後は、この世界の人達に温泉文化が受け入れられるかどうか、か……。

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