幕間1-2 王子と王太子の旅行記 その2

「…………」


「おーい、どうしたフランソワ。さっきから黙りこくって」


「ああ、すまない。あまりの早さに放心していたようだ」


 クリスとフランソワは、バスに乗ってネゴシオまで来ていた。

 エントラーダからネゴシオまでの距離は、この世界の常識では少なくとも数時間はかかる距離だ。それをたった1時間で到着できた事に、フランソワは驚いているのだ。


「そうだな。僕も前もって情報は知っていたけど、実際に乗ってみて凄さを実感している。早さもそうだが、輸送能力も目を見張る物がある。数十人乗れる上に、車体の下に大きな荷物用のスペースがあったりな。

 さて、そろそろホテルに行こう。チェックインの時間だ」


 そして2人は、ホテルに移動した。

 今回泊まるホテルは、『ビジネスホテル レッツォイン』だ。


「空気が変わった……空調の魔導具か。それに照明の魔導具がたくさん……」


「さすがスキルで出てきたホテルって感じだよな。あらゆる場所に魔導具が当然のように設置されている」


 ホテルのロビーに入って2人が最初にインパクトを受けたのは、魔導具の多さだ。

 魔導具は基本的に高価で、建物の設備として常用する事はほとんど無い。それなのにこのホテルは、建物の大きさの割に魔導具が非常に多く、魔導具の密度で言えば王宮以上と言えるかもしれない。


 ロビーに見入るのもそこそこに、2人はチェックインを行った。


「ようこそ、レッツォインへお越し下さいました」


「本当にゴーストが働いているんだな……。ああ、予約したクリスティアンとフランソワだ。これが予約したときの書類」


「はい、クリスティアン様とフランソワ様ですね。確認しました。では、当ホテルにつきましてご説明致します」


 そして2人は一通り説明を受けると、客室のカギを受け取り部屋へと向かった。




「どうだい、フランソワ。ホテルの感想は」


「驚いた。一人用の部屋で最もシンプルなはずなのに、魔導具をふんだんに使って居心地を良くしている。王都にある一流ホテルでもなかなか出来る設備では無いぞ」


「それは僕も同感。あとは水回りも目を見張る物があったね。新鮮な水がハンドルをひねるだけで出てくるし、トイレにも魔導具を組み込んでいる。そんな発想、どうやったら出てくるんだろうね」


 クリスティアンとフランソワは客室で荷解と一休みをした後、街に繰り出してカフェで一服していた。

 その席でホテルの感想を言い合っていたのだが、話は街の様子へと移っていく。


「そういえばクリス。この街、ずいぶん賑わっているな。特に商会が多いように見受けられる」


「古王国時代には、経済の中心地だったらしいね。だから復活した後に商会向けの建物が多いし、道路や街の構造も商業を第一にした作りになっているそうだよ。

 ちなみに、ここが復活した当初はあまり人がいなかったらしい」


「そうなのか!?」


「まぁ、多くの人が禁じられた領域の街が復活したなんて信じられなかったからね。でも、今修行しているノボテル商会のご令嬢が禁じられた領域に目を付けて商売を始めて、ようやく信用されたみたいだね。

 さて、飲み物も無くなってきたし、当初の目的を果たすとしますか」


「モンフォルテ公爵令嬢の捜索だな。すぐ取りかかろう」


 そして2人はクラウディアの手がかりを求めて街中を探索したが、結局消息はつかめなかった。




 翌朝、クリスティアンとフランソワはホテルのレストランで朝食を取っていた。

 話に聞いたことがあるだけの料理や聞いたことも無い料理などに舌鼓を打っていると、別のテーブルに座っていた冒険者らしき客の話が聞こえた。


「しっかし、アカンパーの宿の客の入りようは驚いたよな」


「ああ。グランピング……だったか? 高級な野営を謳った宿だったが、あんなもん野営じゃ無いな。だが部屋の埋まりは悪くないみたいだし、興味あるヤツが多いんかね」


「それに、あそこは人間のスタッフがいたよな」


「オーナーと礼儀作法の指南役らしいな。オーナーは知ってると思うが、礼儀作法指南役は貴族の令嬢だって噂だぜ」


「確かに。口調が貴族っぽかったしな」


 そして、冒険者の客はレストランを後にした。


「……聞いたか?」


「ああ。アカンパーの宿にモンフォルテ公爵令嬢がいるらしいな」


「でも、残念ながらスケジュール的に行けそうに無い。予約もしてないし。だから、また予定を空けて改めて行くしかなさそうだ」


「そうだな。……それよりクリス。お前、結構うれしそうな顔してないか?」


 フランソワの指摘通り、クリスティアンは楽しみを見つけた様な笑顔を見せていた。


「まさか。我々の目的は、あくまでモンフォルテ公爵令嬢の捜索と無事の確認だよ。噂の宿を楽しむのはついでだよ、ついで」


「私には、後者の方がお前の本命のような気がするな」


 ともあれ、クリスティアンとフランソワの旅行は、まだまだ続くことになった。

 

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