第22話 竜討伐② (三人称)

「まずい……………痛ッ」


アマネは立ち上がり、歩き出そうとしたが傷が痛み進めずにいた。


「ダメだよアマネ。まだ治療が終わってない」


「アマネさんは治療を優先してください。私が行ってきます」


そう言ってリーシャは街の方へ走り出した。


「くそっ……………」


アマネは竜を倒せなかったことに悔しさを覚えた。


(デニムが壊される………………あの炎ならビルエイツ全体が危ない。向かっていったリーシャだって───)


竜は既に街の前まで来ていた。

絶体絶命の状況に他の冒険者達も苦しい表情を浮かべた。


「アマネ、治ったよ」


ミサからそう発せられた瞬間、アマネは全力で走り始めた。

もう竜を街に入る前に倒すなんて不可能だとわかっていてもどうにか食らいつこうと必死になっていた。


氷の塊アイスショット氷の塊アイスショット───」


リーシャが必死に魔法を放つ、‎だが竜はそんなものお構い無しに街へと一直線に飛んでいく。


そうして竜が口に炎を貯めた状態で街へと入った。


その瞬間だった───。


「ギァァァァァァ……………!!」


見えない何かに竜は弾かれ、地面にだらしなくひっくり返った。


(何だ?何が起きた?)


アマネは<魔眼>で街の方を見る。


(何だ?モヤが見えるぞ。結界か?)


アマネの目には街を覆うドーム状のモヤと龍の前に立ちはだかるはっきりとした透明な壁が映っていた。


「どうやら間に合ったみたいっすね」


そう言い、一人の男が竜の前に現れた。

黒いスーツ姿のその男はどう考えても異世界の人間では無い。


ひっくり返っていた竜が体勢を立て直す、とすぐさまスーツの男の方に鋭い睨みをきかせた。


そうして炎の玉を吐き出す。


「<反射の結界リフレクト>」


男がそう呟くと炎の玉は跳ね返り、竜にぶつかった。


「ギァァァァァァ───!!」


竜が怒りの籠る咆哮を上げた。


「うるせぇんだよ!」


グサッ。


「グギャァァァァ……………!!」


竜の片目から血が吹き出す。顔を左右に降り、暴れだした。

血が吹き出す目には漆黒の炎が燃え盛っていた。


竜がスーツ男に気を取られているうちにアマネは竜の背に乗り、どうにかダメージを与えられないかと模索していた。

そうしてアマネは思った。皮膚ほど固くない目ならば攻撃が通るんじゃないかと。


「君やるっすね」


竜から降り、スーツ男の隣に立つアマネ。


「あなた、向こうの人ですよね」


「はい。もしかして君もそうっすか?」


「はい、そうですよ」


軽めに会話を交わしていると暴れたている竜が無作為に炎を吹き出した。


それは雨のように地上に落ち始める。


「まずいっすね………………」


「あなたの魔法で防げ無いんですか?」


「範囲の広い結界を作るには時間が足りないっす。それに今は別の結界を構築している最中っすから───」


「分かりました」


アマネは男にそう言った後、人や街に被害が出そうな炎の玉だけを刀で切り裂いていった。

男も<反射の結界リフレクト>で炎を打ち返していっていた。


誰一人、怪我をせず、街にも被害が出ずに炎の処理をし終えた二人が再び集まる。


「君ならあの竜を倒せるっすか?」


「倒せるかは分かりませんが、不可能では無いと思ってますよ」


「それで十分っす。ちょうど結界の構築が終わりましたから」


すると男が竜の方に向かって手を伸ばした。


「<閉じ込める結界インプレスト>」


すると竜を囲うようにドーム状の結界が完成した。


「これであいつは外に出れないっす。でもあの炎は貫通するっすから、それだけ気をつけてくださいっす」


男の言うとおり、竜は結界の外に行こうとしても見えない何かにぶつかって出れないようだ。


(皮膚には攻撃は通らない、目には通ったが致命傷とは言い難い。ならば狙いは一つだな。少し危険だがやってみるしかない)


アマネは覚悟を決め、竜のそばまで近づいた。

竜はアマネをギロリと睨みつける。アマネも竜を見つめる。


「ギァァァァァ……………」


竜はゆっくりと口を開いていく。

中は真っ赤に光っており、空間が熱さでモヤモヤと揺らいでいた。


そうして竜が口を最大まで開けた瞬間───喉の奥から炎が勢いよく上がってきた。


アマネはその口に照準を合わせるかのように手を伸ばす。


「砲台───!!」


すると伸ばした手に漆黒の炎が巻き付き始め、まるで砲台の発射部分のような形になった。


竜の口から炎の玉が飛ばされる。


「放て!」


アマネがそう口にした途端、砲台から高速で巨大な弾丸が飛び出した。


それは炎の玉を貫き、竜の口の中へと入っていった。


「ギァァァァァァ───!!」


竜は首を上にあげ、まるで痛みもがいているかのような咆哮を上げた。


その瞬間───。


ボンッ!!と竜のお腹部分から爆発音が聞こえ、竜は口から黒い煙を出し、白目を向いてその場に倒れ込んだ。


15→20


名前 : 天音 旬

Lv20

職業 : 魔法剣士

HP : 420

MP : 210/420

筋力 : 152(+32)

耐久 : 162(+33)

速度 : 151(+32)

固有スキル : <召喚・帰還>

<言語理解>

<複合>

スキル : <闇魔法Lv3>

<火魔法Lv4>

<裁縫Lv1>

<認識阻害Lv1>

<鍛治Lv1>

<感覚Lv1>

スキルポイント : 850


レベルが上がった事で竜が死んだと気づき、アマネは安心のあまりその場に座り込んだ。


「アマネさん!大丈夫ですか!」


リーシャがアマネの方に駆け寄る。


「ああ、大丈夫だ。でも疲れたよ」


「今のすごいっすね!何すか今の魔法!」


スーツの男が興味津々な様子でアマネにそう聞いた。


「秘密です」


「何すかそれぇもっと気になっちゃうじゃないっすか!」


(テンション高いなこの人)


するとスーツの男が突然、ハッとした顔をし、口を開いた。


「君名前なんて言うんすか?」


「天音 旬です」


「天音……………あっ、もしかして紗枝先輩のコンビニのバイトの子っすか?」


「えっ、店長のこと知ってるんですか?」


「そうっすよ。あっ、俺の名前言ってなかったっすね。俺の名前は│坂上 慎吾さかがみしんごって言うっす」


そう言ってシンゴはアマネに手を差し出す。

その手をアマネは取り、握手をした。


「やっぱりあんたシンゴさんだったのか!」

「生で見たの初めてだ」

「あのSのシンゴさん!?本物なのか!」


冒険者たちがそう言いながらシンゴを囲った。


「S級冒険者………………?それって本当なんですか?」


「合ってるっすよ。ちょっと特別なんすけどね」


「特別?」


「俺、昇格試験受けずにS級になったんすよ」


その言葉にアマネは驚愕の表情を浮かべた。


「私、聞いたことあります。ビルエイツ王国全体を結界で囲った、伝説の結界師。それは多分彼のことなんですよ」


「伝説の結界師?」


「はい、ビルエイツ全体にたった一人で対魔族の結界を貼った人の事です」


(マジか…………だからこの国は平和に見えたわけか)


アマネは一つの疑問に納得のいく答えが見つかった。

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