第31話 二人の対比
「僕は……危険を承知でもリュージ様についていきます。あなた様と一緒に居たいんです!」
アキの返答は俺にとって好ましいものではなかった。
もちろん彼女のこの意思は尊重するべきだとは思うし、できる限り叶えてあげたい。
「本当にそれでいいの? 今ならまだアキは普通の女の子として人生を送れる。正直言って俺は君を戦いに巻き込みたく……」
「もう一人ぼっちは嫌なんです!!」
彼女のためを考え遠ざけようとするが、それに反発するように声を張り上げる。目には薄っすら涙を浮かべ俺の手を強く握り締める。
「お願いです……一緒に居させてください……!!」
「分かったよ。ミーアもそれでいい?」
「私は構わないわよ」
アキの必死なお願いに根負けしてしまう。
小さな子供を戦わせるのと、その子供の頼みを無碍にすることを天秤に乗せ後者に傾く。
でも明るく笑う天使のような彼女の笑顔を見ればその選択は正しかったようにも感じられる。
「それじゃあ早速行くわよ!」
ミーアが俺の手を引いて立たせる。そしてそのまま部屋の扉に手をかける。
あの日無能と蔑まれパーティーを追放された俺は、最高の本当の仲間と出会った。
そして新たな一歩をまた踏み出していくのだった。
☆☆☆
【バニス視点】
「はぁ……? 何だよこれ!!」
オレは机の上にあった手紙を叩きつける。
リュージに蹴飛ばされ気を失ってしまった日の数日後。宿で目覚めるとオレの部屋の机の上に手紙が置いてあったのだ。
シアからのこのパーティーを離脱して故郷に帰るという旨の手紙が。
前回の謎の巨大な魔物に襲われた一件で実力不足を感じたので鍛え直すということらしい。
「勝手に離脱だぁ……? これから回復はどうしたらいいんだよ!!」
オレは机を手紙ごと殴りつける。
昨日までオレの上で喘いでいた女が自分の元を去ってしまった。自分の所有物が勝手にいなくなり独占欲からくるプライドが傷つけられる。
「ちょ、ちょっとリーダー? 朝から大きな物音出してどうしたの?」
扉の向こうから間の抜けたデンリの声が聞こえてくる。彼女はこちらの返事も聞かず勝手に部屋に入ってくる。相変わらずデリカシーがないやつだ。
「みんなに話したいことがある……とりあえずデポも呼んできてくれないか?」
「えぇ……まぁいいけど」
彼女は言われた通りデポを呼んできてくれて、オレは苛つきを必死に抑えながらシアの件を二人に伝える。
「なっ……シアがか……!?」
あの無口なデポに珍しく感嘆符がつく。デンリもパックリと口が開き塞がらない。
「これから回復は、当分の間はポーションで賄う」
「ポーションならこの前なくなったわよ?」
「は? まだあっただろ?」
「いやこの前バニスに使った分で最後だよ」
リュージに蹴られた時のか……そういえばポーションの管理は、というより物資の管理はあいつに一任してたな。
クソ! 何をしようにもいつもリュージの名前が出てきやがる! 目障りだぜ!
ふと自分の剣の方に目を落とす。剣は手入れがあまりされていなく汚れ切れ味も悪くなっている。
今まで武器の手入れや物資の管理などの雑用を全てリュージにやらせてきた。そのツケが回ってきたことは明白だ。
だがオレはそのことを認めたくなかった。あんな雑魚一人いないだけでパーティーが回らなくなるなんて死んでも認めたくない。
「これも全部リュージのせいだ!」
今度はさっきよりも数段強く机を叩く。握られた拳からは血が数滴垂れるが、怒りのあまり痛みは感じられない。
「あいつがシアに何か吹き込んだに違いない。あいつは優しいからリュージと話す機会もこの中じゃ一番多かったしな!」
無茶苦茶な理論だというのは薄々気づいている。だがそれでも認めたくなかった。あいつ無しじゃオレ達が成り立たないなんて。
「クソ!! もういい!! とにかく依頼に行くぞ!!」
オレは不機嫌さを露わにしながらも、新しい鎧やポーションを買わなければいけないので、その費用を稼げベく冒険者ギルドに向かう。
二人減ったこのパーティーと共に。
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