第28話 加勢

「ちょっと待て。あいつの足元……」


 先程はバタバタしていて気づかなかったが、よく見れば奴の足元、というより奴が通った場所の草木が全て枯れている。まるで生命力を奪われてしまったかのように。


「分かったわ……あいつ地面から力を吸い取り続けているのよ。だから無尽蔵に回復しているのだわ」


 迫ってくる多種多様な攻撃を躱しつつ言葉を投げ合い、俺達は目の前の壁をどう越えようか模索する。

 だが攻撃は通じず、俺達は体力を消耗するばかり。それに更に悪いことにも気づいてしまう。

 奴の体が段々と大きくなっているのだ。恐らく吸い取ったエネルギーは傷を治すだけではなく己の強化にも使っていて、その副作用で体が大きくなっているのだろう。


「ミーア。奴の注意を一瞬引いてくれるか? その隙を突いて俺が渾身の一撃をくらわすから」

「試してみるしかなさそうね。分かったわやってみましょう!」


 俺は一旦魔物から距離を取り火のクリスタル三つと水のクリスタル一つ。そしてノーマルクリスタルを二つ取り出す。

 ミーアもノーマルクリスタルを六つ取り出しナイフに込める手の力を強める。


「ふぅぅ……」


 ミーアは心を鎮め、浮遊するかのようなステップで奴の突進を躱し、手に持ったナイフの刃にクリスタルを押し当てる。

 ナイフにクリスタルが吸い込まれていき光り輝く。より一層光が強まれば、クリスタルは大きな音を立て割れる。それを奴の後ろ足日本に向かって横に薙ぐ。


 距離を取っていたというのにこちらにまで大きな衝撃が伝わる。クリスタルの力をオフにしていたら立っていられなかっただろう。

 しかしそれでも魔物は死なない。後ろ足がパックリ割れているがそれも徐々に治っていっている。


「今よリュージ!!」

「ありがとう!!」


 俺は奴の巨体を飛び越えながら日本刀にクリスタル六つを嵌める。

 刀に手を火傷してしまいそうな程の熱が籠もり、同時に俺の体がドッとダルくなり生気を吸われる感覚がする。刀を見れば水蒸気が噴き出しておりそれは俺すらも包み込んで炙ってしまいそうだ。


「せいやぁぁ!!」


 刀を真下に向け奴の脳天に突き刺す。そこに力を込めて奴の肉を抉りるように回す。

 流石にこれには奴も痛みを感じたようで、大気を揺るがすような轟音を口から鳴り響かせる。たが裏を返せばまだ絶叫するくらいの余力があるということだ。

 

「ちっ……!!」


 何度も力を刀に込め捻るが、再生速度がどんどんと速まっていき傷が塞がっていく。魔物が暴れ出し揺れが大きくなったので仕方なく飛び降り日本刀に嵌めていた属性のクリスタルをもう一度体内に取り込む。


「まずいわね……今のも効かないとなるとどうしたら……」


 渾身の一撃をくらわせたが奴の再生速度が勝りもうすぐ傷も完治してしまうだろう。

 つまり二人の力だけじゃ奴を倒しきれない。

 この魔物をそのままにしておいたら村にまで行ってしまいそして……

 最悪の結末を想像してしまい、だがそれでも対抗策は思いつかない。


 いや……一個だけあるじゃないか。俺の命さえ捨てれば、被害を最小限に抑える方法が……!!


「ミーア…….今すぐ街に戻ってできるだけ腕の立つ人をかき集めきてくれ。それまで俺がこいつを引きつける」

「えっ……でもそんなことしたらリュージが……」

「俺の命なんてどうでもいいんだ!!」


 ミーアが切り裂いた魔物の足はもう完全に治っていて、こちらに向き直り唸り声を上げる。

 その瞳に宿るのは野生の殺意。こちらのことをただの動く肉としか思っていない知性のないものだ。


「リュージ様!! ミーア様!! 伏せてください!!」


 背後から叫び声と共に熱気が伝わってくる。振り返ってみるとそこには高く宙に舞い上がるアキがいた。

 その高さは普通の人間が跳べる高さではない。クリスタルの力を使えないと不可能なはずだ。

 両手には円状の赤い半透明のオーラを纏っており、アキはそれを先の尖った刀身の形に変形させる。


「フラムソード!!」


 両手を全く同じタイミングで振り下ろし、魔物に熱の塊をぶつける。

 魔物の傷口から発火し炎は全身を包み込む。だがそれすらも上回る速度で傷が塞がっていき、これもそう時間はかからず治ってしまうだろう。

 

 しかしクリスタルを完璧にコントロールしたアキが助けに来てくれた。彼女に戦わせるのには気が引けるが、これで誰も犠牲にならずに奴を倒せるかもしれない。

 ある一つの策が思いついた。それは至ってシンプルな手だ。

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