ことりばこ

佐藤 楓

第1話

 とりの刻(午後六時頃)、玄関先からという物音が聞こえた。

 近隣の者が畑で取れた野菜でも置いていったのだろうと誠二せいじは思った。この田舎町ではよくあることなのだ。


「一言声でもかけていってくれればいいものを」

 

 じっとりと汗ばむ暑さの中、首にかけたタオルで額の汗をぬぐいながら裸足で廊下を渡る。

 土間でサンダルを履き、無施錠の扉を豪快に開くと、足元に塗装のされていない二十センチ四方の木箱があった。


「なんだ、これは?」


 身をかがめたところに、庭で遊んでいた五歳の息子が飛んできて、誠二より先にまじまじと覗き込む。


「丸い穴があるけど、何も見えない。巣箱? 開けてもいい?」

「……」


 誠二は答えに渋った。得体の知れぬものを子どもに開けさせるのは抵抗がある。


「お父さんが開ける」


 そう言って蓋と思しき上部の板に手をかけたものの、びくともしない。

 釘を打っているようにも見えないが、どういう細工なのだろうと首を傾げながら、諦めて立ち上がった。


「このまま、ここに置いておこう。そのうち、持ち主が現れるだろう」


 日の当たる場所ではないので、とりあえず玄関先に置いたまま、誠二は自宅の仕事部屋に籠った。

 そろそろ終業前のリモート会議が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る