Ep.308 Side.W 参戦のお姉さん
師匠による全冒険者への演説から一週間が経って、その間にいろんなギルドが慌ただしく動き出したらしい。
皆それぞれ理由はあるんだろうけど、黎明軍に参加を希望する冒険者が殺到したそうで、それはここ帝都リムデルタの冒険者ギルドでも同じだった。
元々帝国領に滞在している冒険者は、魔族と帝国兵との戦いに参戦するつもりのパーティがほとんどだったから、当然といえば当然の反応だった。
わたしには難しい事はよくわかんない。
でも変わったことは、わたし達パーティは小隊として管理され、階級が与えられた事だった。
わたしは、勇者であるくさびんのパーティということで、少尉という階級なんだそう。魔術師の少尉だから、魔少尉って呼ぶ。高いのか低いのかよくわかんない。
さぁや、ラシード、まるんも少尉だ。でも皆は剣士だから、剣少尉なんだって。ふむふむ。
師匠は魔大将という一番偉い位だ。さすが師匠。
他にもたくさんの冒険者がやって来て階級を与えられていた。ここ最近は師匠もアスカ先生達も机に向かって唸っている毎日で大忙しみたいだ。
既に帝都では、冒険者で編成された部隊は、まるで帝国軍隊みたいに集まっていて、何かの任務に出かける部隊もちらほらと見かける。
きっと同じような事がいろんなところで始まっているんだ。
わたしは師匠達のお仕事が終わったら一緒に任務に出ることになってると、さぁやが言ってた。
魔族の目をこっちに引き付けて、勇者がいるように錯覚させるんだって。
わたしも大活躍して皆の助けになると決めた。
いつもぐうたらなわたしではないのだ。ふふん。
それにしてもくさびん、早く帰ってこないかな。
皆がいるけど、それでもくさびんが居ないと寂しい。
さぁやも笑ってるけど、きっと強がってる。
まるんもそんなさぁやに気付いてて、敢えて触れないでいる。
ラシードはいつも通りばかだ。わたしのしっぽや耳を触ってくる。だからいつも引っ掻いてやる。
デリカシーがないのだ。
帝都リムデルタの皇帝さまが住んでるおっきな宮殿にほど近い場所に、黎明軍の活動拠点が設けられていた。
わたし達希望の黎明は待機らしいから、皆と訓練をしていた。わたしはのんびりお昼寝してたかったんだけど、さぁやとまるんが、どうしてもっていうから。
強引に引っ張られて為す術なく、ではない。断じて。
「……ふぅ。少し休憩にしましょ!」
「ん!」
わたしはさぁやとの模擬訓練に一区切りをつける。
向こうで訓練していたラシードとまるんも、さぁやの声を聞きつけてこっちにやってきた。
「む! ……3、2、1……」
わたしは皆を呼び止めて、三本立てた指を一本ずつ折り曲げていく。そして――――。
――ぎゅるるるる〜〜……
「お昼なった」
「……ほんと、こういう時だけ時間に厳しいなお前」
わたしのお腹がお昼ごはんを所望している音だ。
ラシードの言葉にわたしはポーズを決めて勝ち誇った。
「ふふっ。丁度いいしお昼にしましょ」
「サヤに賛成ですっ。城下のお店にでも行きましょうか」
「行く! お肉が美味しいお店しってる!」
「お! んじゃそこ行こうぜ! ウィニ猫案内頼むぜ」
「まかせろ」
皆でわいわい喋りながら歩きだそうとしていると、前から冒険者の一団がこっちに歩いてくるのが見えた。
新しい参加者かな。なんだかわたし達を見ているみたい。
「ねぇ! あなた達ー!」
先頭の女の人がわたし達に向けて大きく手を振っている。太陽のような笑顔で、長い桃色の髪を揺らしていた。
腰には剣を下げていて、背中にはおっきな盾を背負ってる剣士風の人だ。
「――――あっ!!」
その女の人を見たまるんがおっきな声を出してびっくりしている。わたしはそれにびっくりした。
「……マルシェ?」
さぁやが不思議そうにまるんに声を掛けるけど、びっくりした顔のまま、前の女の人を見つめて反応がない。
「――ね、姉様っ!」
「マルシェ〜っ!!」
女の人は背負っていた盾をその場に放り出してまるんに向かって駆け出し、そして抱き着いて、まるんも抱き締め返した。
「ね、ねえさ……ま……? 本当に、フェッティ姉様なのですか……っ?」
まるんは驚きのあまり現実かどうか分からなくなっているみたい。
「当たり前じゃないっ! ……会いたかったわ! マルシェ!」
周りが明るくなるような笑顔でお姉さんはまるんの事をぎゅっと抱き締め、まるんもようやく姉さんのことを実感できたようで、感極まって涙を流し始めた。
お姉さんはそんなまるんをよしよしと撫でてあげている。
わたし達はその光景を微笑ましく見ていた。
……お腹すいてたのは内緒だけど。
ようやく落ち着いて、お姉さんとの再会を喜んだまるんは、わたし達に振り向いた。
「……皆ごめんなさい。突然の事で驚いてしまって……。こちらが私の姉の『フェッティ・ゼルシアラ』姉様ですっ」
「フェッティよ! 妹が世話になってるわね! ありがとうっ!」
フェッティお姉さんがわたし達を見渡しながら笑顔で挨拶をする。
フェッティお姉さんは満面の笑みで、底抜けに明るい人柄な印象だ。クールなまるんとは似ても似つかないタイプだね。
「よろしくお願いします! サヤ・イナリです!」
「ラシード・アルデバランだ。よろしくな!」
――わたしの番だ。よし。
わたしは誇り高き名前を名乗る前に、胸を張ってポーズを取る。
「おとーさんの名前はソバルトボロス。おかーさんはエッダニア。カルコッタの地にて生まれ出てし天才魔術師。両親の名を冠すわたしの名前は……ウィニエッダ・ソバルト・カルコッタ!」
――――てってれー♪
脳内でそんな音が鳴り響く。……きまった!
……なんでさぁや、頭抱えてる?
「…………なにそれっカッコイイわねっ!! よろしくね!」
わぁ。褒められた。うれしい。
「……ふふっ。相変わらずですね、姉様」
まるんが目を細めて笑ってる。
そしてフェッティお姉さんがわたしの真似をしてポーズを取った!
胸を張るお姉さん。するとはち切れんばかりに服が張った。
これが格差社会……。
「――おーいフェッティ。そろそろ俺達も事も紹介してくれー」
ふと後ろから声が聞こえた。
「あっ! ごめんごめーん!」
振り返るとそこには3人の冒険者がいた。
皆お姉さんと一緒にいるから仲間なのかな? こっちに歩いてきた。
お姉さんの隣に立つのは、黒い髪の長身の剣士で、目つきの鋭い人が一人。
その逆隣には銀髪が綺麗な女の子がこちらを見ていた。杖を持ってるから魔術師みたい。
その隣には……あ、いた。
目線を下に移すと幼児くらいの背丈のツヴェルク族という小人の男の子が見上げていた。
「紹介するわ! この目付き悪いのが『ファルク・アーバルマ』で、そしてこっちの子は癒し枠『ミト・キリオン』! そしてこの小さな子はウチのマスコットの『ロシュ・レイゼ』! よろしくねっ」
お姉さんの紹介を受けながら、3人もそれぞれ自己紹介をする。
「俺のは悪口だろそれ。……目付きは生まれつきなんだ。気にしないでくれ、ファルクだ。よろしくな」
ファルクというらしい剣士は目つきが悪いが、話し方はやさしそうな人だった。
ミトという女の子はもじもじしながら、その小さな口から声が発せられた。
「……ミトだよ。よろしくね」
「ちょっと恥ずかしがり屋さんなの! そこも可愛いけどね!」
「や、やめてよぅ〜〜……」
お姉さんの言葉に顔を手で覆いながら恥ずかしそうにするミト。
「………………ロシュ」
最後にツヴェルク族のロシュが、わたしたちに向けてそれだけ呟くと、ぺこりと小さく頭を下げた。下を向くとほっぺがぷくーっとしてるのが可愛い。
「ね! このツンツンしてるとこがイイでしょ!?」
お姉さんはロシュの頭を撫でまわしながらロシュに同意を求めてるけど、ロシュはされるがままにしていた。なんかもう諦めてるみたい。
そしてフェッティお姉さんがこっちに向き直り、自信に溢れた笑顔でニカッと笑う。
「改めて、私がリーダーのフェッティ・ゼルシアラで、私達はAランクパーティ『夜の杯』よっ! お仕事の最後は皆で笑って乾杯! てね!」
お姉さん達のパーティ名はその通り、お姉さんの性格を表している気がした。
フェッティお姉さんの元気な自己紹介の後ろでファルク達が呆れながらも満更でもない笑顔を浮かべていた。きっといいパーティなんだなと思う。
「私達も黎明軍に参加する為に来たの! これから一緒に頑張りましょうねー!」
「ようこそ! 歓迎ですよ!」
「姉様、一緒に頑張りましょうっ」
――――ぐぎゅるるるる〜〜!
「……あ」
わたしのお腹がお昼ごはんの催促をしてる。これは最後通告だ。これを過ぎるとわたしは……ラシードのおやつを食べ尽くしちゃうのだ。
「あはははっ! そういえば丁度いい時間だったのね! じゃあ加入手続きは後にして、一緒に食べに行きましょうか!」
フェッティお姉さんはそう言うと、皆と一緒に歩き出す。まるんはフェッティお姉さんと嬉しそうな顔で話しながら歩いていた。
まるん、家族に会えて嬉しそう。なんだかわたしまで嬉しい。
そう思いながら皆の後を追うのだった。
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