皆に優しいギャルは俺にも優しい

烏の人

第1話 皆に優しいギャル

 隣の席の紡木つむぎ 彩花あやかはギャルである。誰がどう見てもそれは紛れもない事実であり、このクラスのリーダー格である。そう言うわけで休憩時間になると大抵その席には女子が群がる。

 城戸《きど》 偉月いつきと言うのは特段コミュニケーション能力があるわけでもなく、ましてや突出した個性もない存在である。そんな俺からしてみれば正直困る。

 絡みになんていけるわけもなく、ただただ時間が過ぎるのを待つしかないのだ。

 そりゃあ横でキャッキャされるのだから居づらくてしょうがない。そうはいっても避難場所もない。そう言うわけで、そんな地獄の時間を今日も机に突っ伏しながら体験しているわけである。

 我ながら陰キャ極めてんなと思いつつ、次第に意識が薄れ始める。午後の喧騒さえも届かないほどにぼんやりと。

 残りの時間、移動教室なんてなかったな。なんて考えながら欲望に身を任せ、深い眠りへと落ちてゆくのだった。



「おーい。そろそろ起きな?」


 意識の範囲外からの声によって起こされる。


「………え?」


「え?じゃないよ。もう放課後だよ?」


 顔見上げるとそこにあったのは、紡木 彩花の姿であった。


「もうそんな時間………。」


「て言うか、城戸くんっていつも寝てるけどテストとか大丈夫なの?」


「え、まぁ家で勉強はしてるし。」


「えら、マジで?」


「ほんとだよ。そのくらいはしてる。」


「学校ですればいいのに。」


「まぁ、そうなんだけどね。」


 そう言うと紡木さんは少し考える。そして一言。


「ほう、訳アリ系?」


「まぁ、そうだね。」


「なるほどねー。ま、無理はしないでね?」


「うん。」


「それじゃ、またね?」


 そう言ってバッグを肩にかけ教室を出ようとする彼女を見送る。まだぼーっとする頭でふと考える。やっぱり紡木さんって誰にでも優しいんだなと、そんな小学生みたいな感想をひとしきり頭のなかで反芻したあと疑問を口にだした。


「そう言えば、紡木さんはなんでこんな時間まで教室に居たの?」


「ちょっと忘れ物しちゃってね。」


 まぁ、そうだよな。


「何、もしかして待ってて欲しかったの?」


「いや、全然そんなんじゃなくて…。」


「ちょ、冗談だって。顔真っ赤だよ?」


 あぁ、全然勝てる気がしない。


「また明日ね?」


「ああ、うん。また。」


 今度こそ彼女を見送る。そうして、静かになった教室に独り。うるさい心臓を落ち着かせるため深呼吸を繰り返す。コミュ障陰キャには少々刺激の強い体験であったが、まぁこれから先気を付けておけば回避できることだ。だけど、本の少し寂しいような気もする。そんな時間であった。


「俺も帰るか。」

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