第7話 クソ兄、魔剣の試し切り相手をありがとう

 祠の外に出ると予想以上の数の魔物が勢揃いしていた。

 ざっと見て20匹以上はいるな。これもしかしてギリウムの手持ちの魔物全部なんじゃないか?

 悪魔系や獣系がほとんどで、どれも序盤を抜けた頃に出現する魔物ばかりだ。


 ギリウムは10歳だけど年齢にしては強い魔物を揃えているな。

 さすが腐ってもバルフォント家の次男か。

 それにしてもオレがよっぽど気に入らないのか知らんけど、ここまでするか?


「ゲゲゲッ! 出てきた出てきた! ギリウム様に逆らうガキがよ!」

「おい! ルーシェルの奴はオレがいただくぜ! クソ生意気な天使族の悲鳴を直に聞きたいんだからな!」


 こいつらは全部テイムによってギリウムの支配下に置かれていた。

 心からギリウムに忠誠を誓うようになっている。

 そう考えるとRPGで魔物を仲間にするシステムってなかなかえげつないな。


 ルーシェルは心こそ支配されなかったものの、基本的に逆らえない状態だったんだろう。

 そうでないといくらでも逃げようと思えば逃げられるからな。


「お前ら、あのギリウムにオレ達を殺すよう言いつけらたんだろう?」

「ギリウム様はどうしてもお前が気に入らないと仰っている。悪く思うなよぉ?」


 ヒヒヒと笑う魔物はかなり自信に満ちている。

 まぁしょせん序盤に出てくるザコなら実力差がわからないのも仕方ないか。


「おい、あのガキが持っている剣はなんだ? ギリウム様が持っているのと違うな?」

「どうせ大したもんじゃないだろぉ。ギリウム様への手土産にしちゃしょぼいけど、しゃーねぇ」


 まったく流暢に喋って貶してくれるな。

 こいつら下級の魔物に魔剣の価値なんかわかるわけもないだろうが。


「アルフィス様、ここはボクにお任せください。あのクソ不細工な豚悪魔の脳天を矢でぶち抜いてやります」

「待て、オレもやる。せっかくの魔剣を試し切りしたいと思っていたところだ」


 ルーシェルは二ヵ月前とは違ってすっかり実力と自信をつけている。

 さすがの資質だけあってメキメキと強くなった。

 本当にたった一人で全滅させてしまいかねない。


「おい! ルーシェル! なんつった! おめぇなんつったぁ!」

「頭だけじゃなくて耳も悪いのー? クソ不細工な豚悪魔って言ったんだよ、ばぁか」

「このッ! お前をぐちゃぐちゃにしてギリウム様の前に差し出してやんよぉ!」


 豚悪魔ことデビルオークがダッシュして向かってきた。

 デビルオーク、そこそこ耐久力があって厄介な相手だ。

 更に攻撃魔法も使いこなすから、初遭遇時は大体苦戦するだろう。

 主人公だったらな。


「ライトニングアローッ!」

「ぶごぉっ!」


 ルーシェルの光の矢がデビルオークの頭部を貫く。

 光属性はあいつの弱点だから即死は当然だろう。

 どしゃりと倒れたデビルオークを見た魔物達がどよめいている。


「ル、ルーシェルが、ウソだろ? ぎゃあぁッ!」

「びびって逃げる相談するなら最初のうちにしておきなよ、ざぁこ」


 さすがルーシェル、浮足立った敵に間髪入れず追撃を入れてもう一匹倒したな。

 翼で悠々と飛んで敵を撃ち抜けるのは普通に強い。

 あれはオレにもないアドバンテージだ。


「クソォ! 魔法で撃ち落とせぇ!」

「おいおい、少しはオレの相手もしてくれよ」

「ガ、アッ……!」


 魔剣を振るうとそこにいた魔物が闇にかき消されるようにして消し飛ぶ。

 斬り心地というか、手ごたえがなさすぎて怖いな。

 などと自惚れていると、魔剣から何かがもくもくと出てくる。


「わらわの使い心地はどうじゃ?」

「強すぎて逆に実感がわかないな。手に馴染みすぎる」


 なんか当然のように出てきたのはディスバレイドに宿っている魔神だ。

 黒髪で獣耳を生やした和服の少女で、普段は威厳を見せつけたくて尊大な喋り方をしている。

 戦闘に突入するとこの姿で戦うんだけど見た目に反してクッソ強いんだよな。


「それはよかった。どうもわらわとそなたは想像以上に相性がいいらしいのう。ところで何か突っ込むことはないかの?」

「気が散ってうるさいから引っ込んでいてくれってところかな」

「つれないのう。言っておくがわらわの力はこんなものではないぞ。そなたの今の実力に合わせて抑えられているだけということを忘れるでない」

「わかってるよ」


 なかなかおしゃべりな魔剣だけど力は確かだ。

 迸る闇の魔力がオレに力を与えてくれる。

 そう、こいつの効果は闇属性攻撃の効果を飛躍的に高めてくれるというものだ。


 ゲームをプレイしていた時も、これアルフィスが持ったら強そうだなとぼんやり考えていた。

 それがまさかこんな形で実現できるとは、まるで夢のようだ。


「おい! どんどん殺されていくぞ! 勝てねぇ! 逃げ……」

「そう急ぐ必要もないだろう。カース」


 逃げの一手に出た魔物に闇魔法カースをかけた。

 呪い効果は様々な効果をおよぼすが、今回はその体が硬直して動かなくなったようだ。


「う、うご、うごけっ……な……い……!」

「新たに覚えた魔法の味はどうだ? お前がちょうどいい」

「ちょうど、いいって……」

「ギリウムへの手土産だ。不細工だが生首の一つでも持っていってやれば、さすがのあのアホも思い知るだろう」

「ひぃっ! や、やめてくれぇ! 悪かった! わるッ」


 オレはそいつの首を切断して地面に転がした。


「やばい! 殺されるぅーー!」

「こんなの聞いてねぇよぉ!」

「ギリウム様ァ!」


 魔物達が一斉に逃げ出したところでオレは追撃を開始した。

 闇の魔力を全開にして一閃。


「げはぁっ!」

「うがっ……!」

「つよ、す、ぎる……」


 魔物達が魔剣によって真横に真っ二つになった。

 魔剣を持つ前とは段違いの力だな。

 これは確かに魔剣の力に溺れてしまう人間がいるのも頷ける。


「ウソだ! なんで人間ごときに!」

「誰がごときだってー?」


 ルーシェルが次々と上空から背後を貫く。

 こりゃ一匹も逃がすつもりはないな。


「アルフィス様にごときってさぁ! 許せないんだよ! なに、ごときってさぁ!」

「おい、ルーシェル。程々にしておけよ」

「ごときってなんなのさぁ! ばぁか! ざぁこ!」

「……聞いてないな、こりゃ」


 こりゃ怖い。さっそく本性を出したってところか?

 命乞いの言葉も聞かず、ルーシェルは魔物を残さず撃つ。


「ル、ルーシェル! 俺が悪かった! お前の下につくからこごぉッ……」

「なんか言ったー?」


 ルーシェルが最後の一匹に止めを刺した。

 羽ばたく翼が天に舞い、それはどちらかというと悪魔にも見える。

 ううむ、本当にいい拾いものをしたよ。

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