コンパニオン・プレイヤーの暴走 ~シールズ・キングダムの軌跡~

ミストーン

説明会

 ここは東京都は杉並区、東京メトロ丸ノ内線という地下鉄の新高円寺駅の近くのビルにある『クリエイトゲーム社』の会議室。

 そう、『あなたも佐伯夏姫さえき なつきになれる』でおなじみのVRMMORPG……つまり、仮想空間でみんなで集まって遊ぶゲーム、『ファンタジーフロンティア・オンライン』で有名な会社です。


 その会社の新作ゲーム『シールズ・キングダム』というのが、この秋からスタートするのです。このゲームの売りは『あなたも桃沢優美ももざわ ゆうみになれる』……なんてされるほど、有名じゃない私。

 あ、でも一部界隈では知名度高いんだよ? ちっちゃい頃から児童劇団に入っていて、特撮ヒーロー物なんかによく、ゲスト出演していたから。

 毎度毎度、博士の娘役とかで攫われまくっていて、学校で男子に『桃姫』なんて渾名を付けられてたくらい。某ゲームの『攫われるのが趣味』なお姫様と、私の名字をかけていたんだろうね。

 特撮ファンには、有名な美少女子役(誇張あり)な私です。

 それも中学校に入る頃には、年齢的に合わなくなってきて……学業もあったから、年に数度映画に呼ばれるくらいの活動に留めてきた。

 この春からようやく大学生になって、活動再開したんだけど……ブランクはキツイ。

 久しぶりに通ったオーディションが、この新作ゲームというわけ。


 やっぱり、この手のゲームは男性プレイヤーが多いとあって、今回はコンパニオン・プレイヤーとして、オーディションに受かった十人の美女&美少女が、運営さんの意向を受けたり受けなかったりしながら、一緒に参加するっていうのを売りにするみたい。

 一番有名なのは、少女向けファッション誌の契約モデルでも有る高城たかぎジュリアさんかなぁ?

 他はお笑い系の人がいたり、色々。最年少は中学二年生だね。学校とか、大丈夫なのでしょうか?


「この世界は、良く有るなんちゃってヨーロッパ中世が舞台なのですが、このとある王国は何故か、世界から切り離されて封印されてしまっています」


 小柄で、ちょっと色っぽい女性が説明を始める。今回のワールドデザイナーである蒔田透夏まきた とうかさん。銀縁の丸メガネが愛嬌ある人だ。


「来年の今頃には、その封印を解くイベントが有る予定なのですが……外の世界に出られるかどうかは人気次第ですので、皆さんも頑張って下さい」


 ドッと笑いが起こる。

 人気が無いと打ち切りだよね、やっぱり。


「細かいことは、だらだら説明するよりも、配布した資料をお読み下さい。ゲームエンジン……基本となるプログラムは、先行して人気の『ファンタジーフロンティア・オンライン』と同じものを使っていますので、そちらをプレイした事の有る人は、すぐ馴染めると思いますけど……」


 みんなで気不味く、顔を見合わせる。誰もプレイ経験は無いみたい。……もちろん、私も無い。

 奥でプロデューサーさんが、ガッカリしてる。あっちのゲームと、同じ人らしい。


「割と馴染みやすいシステムなので、何度かプレイすれば戸惑うこともないと思います。では、それぞれにプレイしていただくキャラの役割を決めたいのですが……高城ジュリアさん。あなたには、王国のお姫様役をお願いしたいのですが?」

「えーっ。良いですけどぉ。それじゃあ、お城から出られなくて、つまらなそう」


 服装もそうだけど、口調もギャルっぽい。

 さすが、そっち系のファッション誌のモデルさんだ。

 蒔田さんはニヤリと、不敵に笑って言い放つ。


「何を言ってるんですか? 尊き立場の人が、お忍びで市中をぶらついて、いろいろとやらかすのは、物語の定番じゃないですか!」

「あははっ。じゃあ『余の顔を見忘れたか!』とか、やってもいいの?」

「やりたいように振る舞って下さい。それもロールプレイです。もちろん、NPC……人が操作していないキャラクターは、全力でお忍び阻止に動きます」

「その方が逃げ出し甲斐があるわ」

「では、決まりでよろしい? ありがとう。……では残りの方は、この十四のポジションから好きなのを選んで下さい」


 机の上に、役割が大きく書かれ、その下に補足が書かれた紙が並べられる。みんな席を立って覗き込んだ。

 おぉ……『聖女』なんていう定番から『通りすがりの魔道士』なんて、トボけたものまで、いろいろ有るよ。どれが良いかなぁ。


「ちなみに、選ばれなかったキャラクターも、スタッフが化けて入り込んだり、二次募集を行ったりで、全員登場予定です」

「じゃあ、私これ!」


 おおっ、早い者勝ちで中学二年生の『聖女様』が誕生した。

 中二病なんて言ってはいけません。

 最年長のチーママな感じの人が、『冒険者の宿の主』をゲット。続いて、制服姿の清楚な感じの女子高生が『娼館のナンバーワン娼婦』って、何でそれなんだろう?

 えっと、私も選ぼう……。


「じゃあ、私はこの『通りすがりの魔道士』にします」

「それでいいの? もっと派手なお仕事有るけど?」

「はい。……一番好き勝手出来そうなので」

「了解。 どんどん好き勝手しちゃっていいからね」


 面白そうなのが無くならない内にと、どんどん選び、決まってゆく。

 コンパニオンって言うから、受け身で良いのかと思ったら、どんどんプレイヤーを巻き込んでいけっていう方針で良さそう。

 給料を貰いつつ、本気で遊んで良いなんて、素敵なお仕事……。


「それでは当日は、サービス開始一時間前にアクセスしてキャラクターを作り、三十分前に『ミーティングルーム』コマンドで集合してね。そこで最終準備をして、ゲームスタートまで待機していただきます」


      ☆★☆


「優美……本当にそれ、仕事なの?」


 疑わしそうに母が、何度目かの質問をする。

 契約書も、業務用資料も何度も見せてるのに、まだ信じてもらえない。

 劇団の仕事とゲームが結びつかないんだろうね。


「何度も言ってるじゃない。ほら、テレビゲームで、街に色んなキャラがいたりするじゃない。私はそんなキャラの内の、重要な役割のを演じるんだよ」


 そう。演じるんだ。

 女優のお仕事としては変だけど、即興の舞台劇だと思えば、似たようなものだ。久々のお仕事だし、久しぶりに役を演じられる。

 子役上がりとはいえ、女優の血が騒ぐぜ!

 また煩く言われない内に、自分の部屋に逃げ込む。

 VRユニットを起動して、準備完了。


 桃沢優美、仮想スタジオに向かいます。

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