古き良き時代の反逆者

みっちゃん87

第1話 昭和の旋律に導かれて

春の風がやさしく通り過ぎる町、平凡な日々を送る中学生、大樹。彼の日常は、学校、家庭、そして繰り返される孤独な時間で満たされていた。友達はおらず、趣味も特にない。ただ時間が過ぎるのを待つだけの毎日だった。


ある土曜日の午後、大樹は家の近くの古いレコードショップに足を踏み入れた。何を求めているわけでもなく、ただ漠然とした好奇心から。店内は埃っぽく、昔の音楽が静かに流れている。そんな中、ふと耳に飛び込んできた一曲の歌が大樹の心を捉えた。その歌声は清らかで、どこか懐かしさを感じさせるものだった。大樹は思わず店主に尋ねた。「これは、誰の歌ですか?」


店主は微笑みながら答えた。「ああ、これはね、1980年代に大人気だったアイドル、美穂子の歌だよ。彼女の声、綺麗だろう?」


その日以降、大樹の日常は変わり始めた。美穂子。彼女のことをもっと知りたい、もっと彼女の歌を聴きたいという思いが、彼を動かした。図書館で昔の雑誌を調べたり、インターネットで彼女の昔の映像を探したり。美穂子が活躍していた時代、昭和の文化についても自然と知ることになった。彼女はただのアイドルではなかった。歌だけでなく、グラビアやCMでも活躍し、その時代のアイコン的存在だったのだ。


大樹は彼女の歌を聴くたび、自分の心が少しずつ満たされていくのを感じた。孤独感はまだ残るものの、彼女の歌声がいつも側にあることで、心には小さな光が灯り始めていた。昭和のトレンドや出来事にも興味を持ち始め、学校での授業や会話の中でも、時折、その知識を披露することがあった。しかし、それが原因でクラスメイトからは「小さなおっさん」とからかわれることも。


でも、大樹にとってはそれでも構わなかった。美穂子というアイドルを通じて、彼は自分自身の新たな一面を見つけたのだから。彼女の歌声に導かれ、昭和の文化に魅了された少年の孤独な心に、やさしい春の風が吹き込んできたのだった。

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