第6話 天使の放課後

 俺は、前田紗栄子に全く相手にされていないことが分かった。何とか意識させてやりたい。俺はお前のライバルなのだ、と言いたいが、現状では何を言っているんだという感じだろう。


 もう少し、俺が勉強が出来るところを見せれば、彼女も俺を認めるのでは。と思ったが、そんな機会は中間テストまでは無さそうだ。


 何か前田さんにアピールできる機会は無いのか。そう考えたところで、俺はハカセの言葉を思い出した。


「ハカセ、前田さんに近づくには朝と夕方がチャンスと言っていたよな?」


「ああ、そうだぞ」


「夕方とはどういう意味だ? 小島と一緒に帰っているんじゃないのか?」


「そうなんだが、小島さんは部活で遅くなる。終わるまで前田さんは食堂で自習しているんだ。食堂では……まあ行ってみればわかるさ。きっと驚くぞ」


 食堂か。この学校の食堂は昼休みしか営業していないが、放課後も解放されていて自習などに利用していいことになっている。


「そうか。じゃあ、今日行ってみる」


 何に驚くのかはよく分からなかったが、俺は放課後に食堂へ行ってみることにした。前田紗栄子が勉強しているところにまた陰キャたちが絡んでくるだろう。それを俺が助けることで実力を認めさせる、という作戦だ。なので、放課後、少し教室で時間をつぶしてから食堂に行ってみた。


 そして、俺は驚くことになった。


「なんだ、これ……」


 前田紗栄子は確かに居た。だが、その周りにはそれを囲むように男どもが座っている。総勢10人以上。前田さんの両隣に2、3人。向かいにもずらり。よく見ると三枝も前田さんの隣に座っていた。そして、全員が次々に前田さんに質問していた。前田さんはそれに一つずつ丁寧に答えているようだ。


 俺は三枝の後ろに行って小声で尋ねる。


「これは何の集まりだ?」


「は? 自習しているだけだ」


「……じゃあ、なんで前田さんの周りに集まってるんだよ」


「知らん。俺は空いている席に座っただけだ」


 どうも、自主的に勉強しているという体で、前田さんに近づこうというやつらのようだ。


「お前も狙いは同じだろ?」


 三枝が俺をにらんでくる。


「違う。俺はそういうのじゃない」


 そう言って、その集団の外れに座った。ここは前田さんに話しかけるのはちょっと遠い位置だ。


 もちろん、俺は前田さんに近づこうとするこいつらとは違う。

 俺はノートを広げて勉強を始めた。

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