レ◎勇者(ハイファン・コメディ)

 オマン王国、玉座の間。


「だから、レイプするといっている!!!」

 1人のデブが目の前に立つ美少女にとんでもないことを叫んでいた。


 だがデブの前に立つ美少女はとんでもない返事をする。


「だからどうぞ!!! と申し上げております!! この身を救ってくださった勇者様にならばこの身をささげることに否やは御座いません、と!!」


 彼女の名前はオマン王国第一王女、ギャルマン。

 尻がでかく胸もでかいことで名が知られている美姫である。


 デブは顔を真っ赤にして激昂した。

 この女は何もわかっていない。


「それはレイプじゃない!! わからずや!」

 勇者が叫ぶと、ギャルマンも叫び返す。


「それは貴方様でございます! 勇者様! デブ! 童貞!」


 ■


 レープ大陸未曾有の危機は大邪神セックス・マグナムズの復活によりもたらされた。

 かつて天界に攻め入ろうと画策し、主神マラとの一騎打ちで破れ封印されたかの邪神は、瞬く間に大陸全土へ魔軍を展開し、侵略を開始。


 魔軍とは邪神の使徒とよばれるおぞましい使い魔で構成された軍隊である。

 外見は一言でいえば手足がはえた全長5mの肌色で棒状の肉の塊だ。

 先端部分より白い液体を噴出するのだが、この際に勢いを圧縮し、石壁すらも切り裂くほどの水圧カッターで攻撃してくるのは脅威としかいいようがない。


 各国は当然のごとく魔軍撃滅のための同盟軍を組み、侵略に抗するものの生物としてのスペックがそもそも違うのだ。

 雑兵はまたたくまに四肢を引き裂かれ、戦場はばらばら死体が積み重なるばかりであった。


 そして魔軍を支えるのはそれだけではない。

 邪神の分け身、暗黒四天王が存在していた。


 火のロットソ。1919度の炎のブレスを吐き散らす

 水のジョーソズ。半径45メートル水圧カッターは範囲内の存在を切刻む

 風のマトロッケ。F5クラスの竜巻を自由自在に発生させる。

 土のクッケ。マグニチュード8クラスの大震災を発生させる。


 だがこの中で戦場へ出てくるのは火と水だけである。

 残り2人は魔軍側にも甚大な被害を与えるので戦うことを禁止されている。


 

 ■


 事態が動いたのは、あるいは歴史がかわったのはオマン王国による勇者召喚の儀の成功である。

 勇者召喚の儀は国土のマナを大量に消費し、さらになによりこれが問題なのだがヒトの死体を必要とするのだ。

 それも変な言い方だが新鮮な死体が良い。

 実際は死体というより魂が必要なのだが……。

 通常、生きている人間というのはその身に魂が強く絡みついている。これは引き剥がすことができない。だが、この魂には膨大なエネルギーがあり、勇者召喚に必要なエネルギーは魂をもってでしかあがなえないほどに膨大なのだ。


 そこで新鮮な死体である。

 新鮮な魂にはゆるく乖離しかけた魂が付着している。

 この程度なら大魔術をもってすれば引き剥がせることができる、つまりエネルギーとして使用出来るわけだ


 召喚された勇者は例外なく人知を超えた力を持つ。

 いわゆるチートである。

 だが能力を選ぶことは出来ない。

 その本人の本質に即したチートが与えられる。


 ■


 そして行われた乾坤一擲の勇者召喚によりよびだされたのは1人のデブである。肌はブツブツできたなく、髪の毛は脂ぎっている。

 目はぼってりしており、口の端からはヨダレが垂れていた。

 彼にはわかっていた、これが勇者召喚、異世界転移であることを。

 なぜならエッチなラノベで読んだから。


 デブは童貞であった。

 童貞ゆえに、恩を着せればセックスできると勘違いしてしまったのだ。

 だから召喚術式にもこたえてしまった。


 だが普通のセックスなど童貞には興味はない。

 デブが興味あることはレイプである。

 それも普通のレイプではだめだ。

 放射能検査機(ガイガーカウンター)とかもって、お留守番中の女児を騙してレイプするような残虐なものがよかった。


 デブは召喚の疲労で膝を突いているギャルマンへ言った。


「困ってるなら助けるけど、分かってるよな? ヤらせろよ」


 ■


 デブがなにをいっているかわからず硬直しているギャルマンは、2つの点で驚愕した。

 まずその醜さに。とにかく臭い! 

 そしてそのだらしない身に秘める膨大な魔力に。


「ヤらせろ……とは……?」


 ギャルマンがおそるおそる尋ねると、デブはにたりと笑って言った。

「セックスだよ、知らないの?」


 ──なんという男だ! 下賎! 下劣! 


 ギャルマンは頭に血がのぼりかけるが、ここで勇者の機嫌を損ねてしまうことは王国の、ひいては世界の命脈を断つことに等しい。

 歯を食いしばり、頷きかけたその時だった。


 ■


 振動。

 破壊音。

 悲鳴。

 嘲り笑う声。

 毒々しい魔力の奔流。


 ■


「ギャアアアアハアア! ごきげんよう劣等生物共!! 我が名はロットソ! 万象一切を灰燼に帰するもの也!」


 玉座の間に飛び込んできたのは全身を炎でおおわれた鳥人間である。

 火の魔将ロットソだ。


 近衛騎士が2名、左右から切りかかる。

 彼らは戦闘と護衛のプロフェッショナルだ。

 ちんたら名乗りをあげている不埒者など、即時必殺である。


 だが彼らの連携技、X斬りは不発におわった。

 斬撃がロットソの肉体をすり抜けたのだ。


 ロットソはその燃える両腕をのばし、近衛騎士たちの顔面を掴む。

 ジュウジュウという肉が焼ける音。

 人が焼ける匂い。


「ギャアアアハハハ! 我が身は火によりて成る。そんなもの、如何なる痛痒もなし!」


 どさりと崩れ落ちる近衛騎士達を見て、ギャルマンは恐れ戦いた。


「ほうほうほう? そこの女はこの国の姫か。丁度良い。貴様の顔面を惨たらしく焼いて、晒しあげてしまおうか。我は男女平等主義者だ、女だって平等に焼いてやるぞ」


 ──それは。困る、な……。


 ぼそりと呟かれたその言葉は不思議と玉座の間に響き渡った。


「すごいな……。火の体か……。物理攻撃を寄せ付けない……生物である以上は、火に弱いものがほとんどだ。生まれついての勝ち組ってやつか……? しかも魔王軍の幹部……社会的立場もあるんだな……」


 恨みがましい視線がロットソを貫く。


「なんだァ……? デブ、貴様は……」

 ロットソは警戒していた。眼前のデブは見た目通りの存在ではないと。

 感じる魔力の奔流はロットソをして驚愕せしめるものだ。


「俺は無職だ。仕事をしたことがない。バイトだって出来ない。人と話せない……怖いんだ。そしてセックス。したことがない。分かってる、わかってるんだ。やせればいいんだろうけどな、俺には出来ないんだ。だって面倒くさいじゃないか。努力できないんだよ…あんたはいいな、立場があってさ。必要とされてさ。俺みたいな典型的弱者男性の気持ちなんかわからないだろ?だから……わかってみないか? 俺の気持ちを。俺の思いを、わかってみないか……?」


 ドブ臭く悍ましい黒い魔力のストリームが周囲を渦巻いているのをロットソは感じた。


(なんだこのマジックバイブスは。こいつは何をしようとしている……!?)

「それ以上!!! その汚ぇ魔力を垂れ流すんじゃねェェェェェエ!」


 ドギャア! 

 ロットソが炎を利用した爆発的推進力でデブへ襲いかかる。

(所詮は人間よ! 脳みそかち割ってくれるわ!)


 普通乗用車を15メートルほど吹き飛ばすほどの結構強い感じのパンチがデブの頭に吸い込まれていく。

 まともにうければ文字通りの彼の脳みそがかち割られるだろう。


 ■


 だが、そうはならなかった。

 パンチは当たった。

 当たったが、デブはいきている。


「……痛いな。でも我慢できる。今度は俺の番だ」

 デブがロットソを殴りつける。


 だがロットソの体は火で構成されている、単なる物理攻撃は……


 ■


 当たった。

 ぼこ! 間抜けで鈍い音をたてて、デブの拳はロットソの鼻っぱしらにあたったのだ。


「ぐあ! ……い、痛い! ばかな……貴様、一体何をした……!?」


 デブは不気味な目でロットソを見つめていたが、やがてねちゃりと口を開いた。


「俺がなにかしたんじゃあない。あんたが何もできなくなったんだ。いや、俺に出来ることならあんたにも出来るだろうな……でもあんたはいま、俺と同じ力……同じ身体能力しか出せない。火だって出せないよ……。だって俺が火を出せないんだもの。ふ、ふふふ。近寄ってくれてありがとう。まだ余り射程距離をのばせなくてね……遠くから魔法をうたれていたら終わりだったかも…うふ、うふ、うふ」


「な、な、何を……いっている……?」

 ロットソが震えながら問いただしたところで、自分の体の異変に気付いた。

 体が重いのだ。

 まるで自分の体重が三倍に増えたかのような……。いや、そうじゃない。これは心が重くなっているのだ。


 心がふさいでいく。

 まるで自分が世界から必要とされていないのではという気持ちに……


 魔軍の足をひっぱってばかり……

 一番の無能……

 必要のない存在……

 要らない子……


 ──嗚呼。もうあるくことすらもできない


 

「うふ。うふ。俺に触れたその瞬間から、あんたは俺と同等のスペックになったんだ。空も飛べない、火もだせない。俺と同じオツムだから、事態を打開できるような策もおもいつかないだろう。あんたは、俺になったんだよ。これなら分かってくれるだろ? 弱者男性の、俺の気持ちが。うふ、うふ、うふ」


 ■


 デブに発現した能力は非常に悪辣だ。


 デブの能力、【社不流(シャッフル)】は、相手の能力を現時点の自分と同等の能力へ書き換えてしまう。


 血も汗も涙も流さず、それでいて承認欲求だけは無駄に大きい社会のゴミであるデブは、自分をかえずに相手を変えることでその欲求を理解してもらおうと願った。

 その願いの発露がこれだ。


 哀れ、火の魔将ロットソはいまや社会不適合者のデブと同等の存在になりはてたのだ。

 だが同等の存在となっただけならまだ勝ち目はある。……はずなのだが、デブが普段から感じていて、もう麻痺しているアレが立ちはだかる。

 すなわち自殺願望だ。

 社会不適合者は自分が社会に適合できていない、ひいては必要とされていない、死にたいとまではいかないが、消えたい……というようなことを1度はおもったことがあるだろう。


 デブは常にそれを感じている。


 普段から感じているそれはデブにとっては日常茶飯事のものではある。辛いには辛いが我慢は出来る。


 だが……ロットソのような強者にはことさらに響くのだ。

 挫折感を味わったことのないものに、デブの能力は悪辣なまでに威力を発揮する。


 みよ、ロットソの体を包む炎が次第にその勢いを弱め、その体も黒く変色してきたではないか。

 それはまさにロットソから生きる力が奪われている証左であった。


 ■


 やがてロットソはぱたりと倒れ、その場には黒いナニカが残されるのみとなった。


 周囲の者たちはデブを悍ましいナニカを見るような目で見ている。

 当然だろう、一軍を焼き払う火の魔将を鎧袖一触とばかりに屠ったデブは恐怖の対象以外の何者でもない。


 デブもまたその様な視線…自分を疎むその目には慣れていた。所詮自分はこの世界の廃棄物、生きる汚物にすぎないのだと諦念を覚え、燻るような怒りで身をジリジリと焦がしていた。


 お前達が俺を必要としないなら、俺だってお前達を必要としない。幸いにも俺には今力がある。得た力を使って…


 デブの心がダークサイドに犯されていく。

 だがそんなデブを抱き締める白魚の如き双腕があった。


 ■


「勇者様。貴方の苦しみ、わたくしに分かる、とは申しません。しかし貴方様はわたくしを、王国を救ってくださいました。本当に、ありがとうございます…!」


 脳裏に浮かぶはロットソに焼き殺された二人の近衛騎士。

 彼らはギャルマンの近侍であり、幼いギャルマンを叱り、褒めそやし、愛情にもにた何かを与えてくれた存在であった。


 本当は泣き喚きたい。しかし、それでも自分は王族である。

 戦地で死闘を繰り広げている王、そして王妃に恥じぬ姿を見せなければならない。


 大切な人を亡くす。涙を流す人がいる。そう、自分のように。そんな人々を少しでも減らさなければいけない。

 そのためなら…


 ━━わたくしは……


 勇者の見せた力は強く、おぞましく、哀しいものであった。

 だが哀しみを知らぬ力に優しさがあるだろうか?

 力なき正義は無力であり、正義なき力もまた無力。

 そして正義の根底には優しさがなければならない。

 優しさとは何か?

 愛である。


 哀を知り、愛を知らぬ勇者ならばささげようではないか。

 全身全霊の愛を。


 ■


 姫は覚悟を決める。

 しかし姫の心デブ知らず、女性に抱きつかれたことで発情をしてしまった。

 当然だ、好意的な言葉1つで改心するなら社会不適合者になどなってはいないのだ。


 信頼を寄せる相手をレイプする


 デブは勢いよく振り返り、醜悪な笑みを浮かべ言い放った。


「なら、犯すから」


 ここでデブにとって誤算だったのは、姫の覚悟の程である。


 姫は瞑目したまま静かに言った。

「はい。勇者様…。この身をささげます。どうか貴方様の力をお貸しくださいませ…」


 デブはショックをうけた。

 それはレイプではないからだ。


「な、何をいってるの…犯すっていってる。嫌だろ?俺は…あんたをれ、れ、れ、レレレレレイプするよ…」


 姫はしつこいなとおもいながらももう一度答えた。

「はい。勇者様…。この身をささげます。どうか貴方様の力をお貸しくださいませ…」



 デブは再びショックを受け、叫んだ。

「だから、レイプするといっている!!!」


 冒頭に戻る。

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