第4話


 この大陸は「瘴気の地」とよばれる禁忌の地を中心に三国に分かれている。瘴気の地の中心には世界樹があってこの大陸の象徴なのだが、その周り一円、目に見えない瘴気にさいなまれている。近づくとどんな屈強な兵士でも大魔法使いでも、次々と具合を悪くして倒れていくという。その瘴気は不定期に増大し、辺りに毒をふりまくので、三国はいつも悩まされていた。

 瘴気の地を打ち捨てればいいのだが、瘴気の地をさらに取り囲むように魔法石の鉱脈があって、どの国もそれを捨てることはできない。魔法力は大気中からとりこめるが、魔法石があれば更に膨大な魔法力が使える。国力そのものと言ってもいい。

 採掘した鉱脈はしばらく復活しないから魔法石鉱脈の奪い合いで国境はいつでも緊迫している。それでもいつ瘴気が増大期になるかわからないので、三国は取り決めをした。瘴気の地を見張る任務を三国交代でする、というものだ。瘴気の地と鉱脈の間を中間地とし、そこに見張り砦をつくった。そこの管理を三国共同でしている。瘴気が増大号すれば魔法石の発掘所も閉鎖され、国は疲弊する。しかも、増大は不定期だった。

 シキアがヒアミックと出会ったのは、その瘴気の地で、だった。

 その日父の容態が悪くなって駆け込んだ医者に「瘴気の地に咲く青花があれば薬を作れる」と言われたシキアは単身で瘴気の地へかけた。馬に乗って三日三晩、瘴気の地なんて近づくのは初めてで、死ぬ覚悟だってしていた。けれどそこは想像していた荒涼とした大地ではなく、見たことのない植物があふれる森だった。人が踏み入らない土地だから珍しい植物があるのだろうな、と思いながら言われた花を探し、そして、倒れているヒアミック隊と出会ったのだ。

 なぜかシキアは全く瘴気の影響を受けなかった。

 治癒魔法を使えないから普段から調子を崩したときの為に薬草の類いは持ち歩いていて、それをヒアミックに渡して、青花を持って医者の元に戻った。

 父はそれで体調を取り戻し、ほっとしているところにヒアミックが来て、弟子に取りたい、と急なことを言うので驚いた。

 ヒアミックは瘴気の地を調査していて、実は瘴気というのは凝縮された魔法力であり、過剰供給された魔法力で中毒を起こしている、と聞いたのは少ししてからだった。魔法器官をもつものはすべからく中毒を起こす。器官のないシキアにしか、あの地をくまなく調査することは不可能だと鋭い目に熱をともして語られ、父の面倒も見ることまで約束されたら断る理由はなかった。

 それから四年、ヒアミックの役に立てるよう、懸命に勉強と研究をしてきた。瘴気の地調査隊はシキアを中心に不良者たちで隊を組む、と言われているので、必死だった。『これは王の為、ひいてはこの国の為だ』ヒアミックの口癖を己の芯として、ここまでやってきた。15の時失った夢のかわりのように降ってきた「使命」はシキアをここまで連れてきてくれた。

 森で暮らしていたときとは比べものにならない毎日だ。調査隊を率いて瘴気の地に本格調査にはいるまで、あとわずかだとヒアミックは言っている。

 そんな大事な時なのに。

 シキアは今日もため息をこぼす。

 サコットが二日とあけず図書館に通ってくるのだから。

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