文学部少女データファイル 聞惚 -ききほれ-

サイノメ

第1話 サチの相談

「さすがにそれだけだと、意味わからない。」

 放課後、駅前のハンバーガーショップ。

 奥まった位置にあるボックス席で、薙奈なぎなは即答する。

「だ〜よ〜ね〜。」

 向かいの席に座る紗千絵はだるそうにテーブルに突っ伏しながら答える。

「でもさぁ、こんなこと相談できるのナギしかいないんだよ〜。」

 額をテーブルにつけ体を揺らしながら紗千絵は続ける。

「サチ、そんなとこに顔つけてるとメイク落ちるよ。」

 薙奈ナギ紗千絵サチをちゃんと座らせようと肩を押す。

「メイク落ちる」の一言が効いたサチは慌てて座り直すと制服のポケットからスマホを取りだし、カメラを使ってメイクや髪型をチェックしだす。

 同じ制服を着る二人だがその出で立ちは真逆だった。

 サチが校則に引っかからない程度にメイクし、髪も少し明るく染め、制服にもさり気なく手を入れてある。

 対してナギは長い黒髪を首の後ろで簡単にまとめ、指定制服を指定されたまま。

 ただ、ブラウスの上で揺れるリボンタイだけは複雑な刺繍が入った物になっており、それが唯一彼女の個性を表している。(サチは学校の敷地を出るとすぐにタイを外してる。)

 そんな対象的な二人だが、幼馴染みと言うこともあってか不思議とウマがあう。

 希望進路が異なることもあり、異なるクラスに在籍しているが下校時にはよく二人並んで帰っている。

 そんなある日、サチが相談を持ち掛けて来たため、ナギは行きつけの店で話しを聞くことにしたのだった。

「で、話を整理すると、その詩の様なものを吟じていた人を探したいと。」

 ミルクティーを飲んでいたナギが、改めて確認する。

「そそ。 ちゃんと聞きとれなかったんだけどスゴクイイ感じでさ、声もメッチャ格好いい感じだったんだよ!」

 それに対し目を輝かせながら早口で答えるサチは、言い終わると手元の包みのトレーに手を伸ばす。

「はぁー。」

 そんな幼馴染サチを見つつ、ナギはやや大げさにため息をつく。

「ん? どうったのナギ。」

 それに気が付きポテトを口に運ぶのを止めて見ているサチに、ナギは話を切り出す。

「サチの性格はよく分かっているんだけど、流石に今回は変だよ。」

 サチはよく一目ぼれする事がある。

 そして、友人の人脈を駆使してその相手に会いに行くのだが、実際に会ってもうまく付き合うところまで進めないのが常だった。

 とは言え今回は異常だとナギは思っている。

 普段なら「袖振り合うも多生の縁」とでも言うか何かしら相手とのやり取りがあってから惚れた事に気がつくのだが、今回は「詩を詠んでいる」のを聞いたら気になったと言う。

「まあ、そう言うなって。 手伝ってくれたら数IIの分からないって所教えるからさ。」

「それ、元々教えてくれるって言っていやつじゃない。」

 サチは現在、理系クラスに席をおいていおり、特に数学に関しては成績が学年上位に入るほどである。

 その為、ナギは苦手な数学を教えて貰う事が多い。

 先日もナギは数学の分からないところをサチに相談していたのだが、それは自分が英語の文法について説明すること担っていはずだったのだが。

 とは言え、生来のミステリー好きでもあるナギにとってこの件は面白そうだった。

 漫画や小説ではないので殺人事件に発展することはないだろうが、何か伝奇物の様な雰囲気を感じさせる。

「しょうがない、手伝ってあげるわ。 取り敢えず詳細を確認させて。」

 カバンからノートとペン。そしてタブレットを取り出すナギ。

 あくまで仕方ないからと言う風を装っているが、サチから見れば好奇心がダダ漏れであった。

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