第3話:固有魔法

 あれよあれよとシズクと戦う事になった俺は、鍛錬場所に使ってる庭に向かいそこで彼女と向き合っていた。

 彼女は原作でも見たことのある黒い扇を手に持っており、改めてだがこの世界が『徒カネ』を元にしたものだと悟った。


「武器はどうするのカグラ? 持ってこさせた方がいいかしら?」

「いやいい――起きろ暗月あんげつ

 

 俺は自身に宿る魔法を使い一振りの刀を造りだした。

 流石に刃は潰すが、全力でやった方がいいのは確かだろう。何故なら彼女に試されるというならば一切の手加減など出来ないからだ。


「――へぇ、それが貴方の闇魔法なのね」

「やっぱよく調べてるな」

「それはそうでしょう? 所有物の事は把握しないといけないもの」

「怖いな、ほんと――まぁいい。やるかお嬢様」

「そうね――来なさい真神まかみ黒面こくめん


 彼女が名を呼べば、初めて出会った夜に姿を見た二匹の獣。

 あの時見たから驚きはないが、今思えば彼女は十二という歳でこいつらを使えてたのかと……ゲームプレイヤーとしては恐怖を覚える。

 俺が生前プレイした『徒カネ』でずっと彼女に付き従った二匹の式神。


 正式な名称としては大口真神おおくちまかみ漆毛黒面狐しつもうこくめんきつね

 原作でのシズクは最初は主人公に協力し、何度か戦闘を共にする事になるんだが、その共にした戦闘で圧倒的な力を見せたうえ、カグラルートで敵対した際には殺意を持って二人を嗾けてきたことを今も覚えている。


 何よりやばいのはこの式神達は彼女の魔力と影を触媒に生み出されるもので、すぐに復活してしまう。流石に試しでそこまでの殺し合いになる事はないだろうが……気を抜けばやられるのは確かだろう。


「――合図はどうするの?」

「そっちからで良いぞ」

「そう――なら甘えるわ、行ってちょうだい?」


 彼女の式神達はその言葉を合図として俺へと襲いかかってくる。

 真神の方は速度を活かし、黒面は氷の魔法を唱えて接近してきた。

 その牙と爪を使い何度も攻撃してくる狼と援護するよう氷の弾幕を張り巡らせる狐。原作通りの戦い方だが、ここはゲームと違って現実でHPがあるから耐えれるなんてことはない。

 

「殺す気か?」

「いいえ、貴方はこのぐらいじゃ死なないでしょう?」


 軽くそう言えば、聞こえたのか言葉を返してくるお嬢様。

 期待しすぎだと思いながらも俺は真神の攻撃を躱して、氷を刀で切り裂き続ける。今回の勝利条件は事前に聞かされたがシズクに触れる事。

 だから俺がやるべきなのはこの二匹を倒して彼女に近付けば良いだけで、言葉にすれば簡単そうだが……。


 氷の弾幕が壁のようになる。

 一本一本が人を貫けるような氷柱の弾丸、それは高速で俺へと迫り避けるのが精一杯。危険な奴だけを判断して対処しているが、それだけに意識を向けられない。

 ――何故ならば。


「……そっちもいるからな」


 俺に襲いかかる真神があまりにも苛烈に攻撃してくるからだ。

 斬っても斬ってもシズクから魔力を供給される限り回復し、何度倒してもすぐに攻めてくる――つまり、それを考えると刀だけでは多分不利だ。


「この程度?」

「……いや、ここからだな」


 ……手加減してたわけじゃないが、彼女を巻き込むと思ってて他の魔法を使う気は無かった。だけど、今思えばそれは彼女に不義理だろう。試されるというならば全力でやらないと彼女を認めさせられない。

 だから俺は、使うつもりのなかった危険な魔法を解禁する。


「――闇魔法しょく


 俺の足元から闇が広がり、迫る氷を取り込んで無に返した。

 流石に生物に近い式神に使うのが気が引けるが、それは魔法を切り替えながら戦えば良いだろう。

 俺の今使った蝕という魔法は、対魔法用の技だ。

 他者の魔法を喰らって無効化するというものであり、喰らうという部分を変えればこの魔法で物理ダメージすら与えられる。


「よし、攻めるぞ」


 それだけ言って俺は走り出す。

 真神の攻撃を掻い潜り、誰でも使える身体能力の強化魔法を使って彼女に迫る。

 近付けば主を守るためか黒面がより高密度で魔法を使ってくるが、それら全てを蝕で喰らい……そして俺は彼女の前まで辿り着き。

 そしてこつんと……俺は彼女の頭を軽く小突いた。


「よし、これで俺の勝ちだな」

「……思ったより優しく叩かれたわ」

「そりゃあ、あんたは俺の主だしな……傷付ける訳ないだろ?」


 そう言って俺は笑う。

 刀を離せば空気に溶けるようにして俺の持っていた暗月が消える。

 それを見届けてかなのか、シズクが消したか分からないが二匹の式神が俺等に一礼して消えていった。


「それで認めてくれたか?」

「――いいわよ、迷宮に行くのを許可するわ」

「助かる――それでなんだが、痛くなかったか?」

「気にするのね」

「そりゃあ叩いたしな……とりあえず、明日には向かうから一日空けるぞ」

「明日には行くのね――そんなに楽しみなの?」

「まぁ……ちょっと確認したいこともあるしな」

「……確認?」


 俺が今回彼女に今回迷宮を探して貰った理由、それは俺の専用装備を取りに行くためだ。探して貰ったのはこの和国にある隠し迷宮、最難関レベルのものでそこんはゲームでは俺専用だった隠し装備が眠っているのだ。

 ゲームではない今の世界だとそれを見つけられて先に取られてしまえば、俺が強くなる術が減るので速めに取りたかった。


 今の俺では正攻法での攻略は難しいが、何周も『徒カネ』をプレイした俺はその最短ルートを覚えている。だからこその早期攻略を目指しており、将来的に彼女を守ることに繋がるので俺は出来ればあの装備が欲しかったので彼女に探して貰ったのだ。


「そう、なら何日かは会えないのね」

「そうなるな。でもなんだ。絶対帰ってくるつもりではあるからあそこは安心しろ」

「じゃあ約束でもしましょうか、帰って来れなかったら貴方を死後までも呪うわね」

「あんたの呪いとか洒落にならんわ」

「ふふ、その軽口が叩けるなら帰ってこれるわよね」

「絶対帰る。死ぬよりあんたの方が怖いからな」

「じゃあ約束ね」


 そう言われ指切りを交わした俺達は、疲れたのもあってか各々部屋に戻った。

 明日からはダンジョン攻略、気を抜けば死ぬのは分かってるので今は少しでも魔力を温存しよう。

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