第21話 決着がつきました
いいことを思いついた。
それは自分に【 咆哮 】をぶち込んで吸収する。
そして吸収した力を元に【 アークスマッシュ 】を放てば――
ただ自分の魔法は吸収の対象外っていう可能性もあるため、我が相棒に確認しないと。
ダメだったら死んじゃうし。
「ステータス、自分の魔法も【 魔力吸収 】できるのか? 」
すると答えを聞く前にオークキングは再びハンマーを地面に叩きつけてきた。
相変わらずすごい揺れ。
そしてあの迫ってくる岩の刃を避けたいが、バランスを取るので精一杯。
「【 咆哮 】」
今のところこの魔法で破壊するしか術がない。
(はい、自分の魔力も吸収可能です )
すると遅れてステータスからの返事が返ってきた。
よかった、返事が遅かったから俺見捨てられたのかと思ったよステータス君。
そうと決まれば実行だ。
俺はすぐに自分へ手をかざして力強い声で唱えた。
「【 咆哮 】!! 」
発動されたその魔法は、放たれた途端に俺の身体へ飲み込まれていく。
(専用パッシブスキル【 魔力吸収 】を発動します )
聞き慣れたその音声が耳に入ると同時に力がみなぎってくる。
この感覚、コボルトロードと戦ったとき以来だ。
あとは【 アークスマッシュ 】を放つだけ。
まぁそれが難しいんだが。
さっきからあのオークキング、俺がそのスキル苦手だと分かってか【 グランドスマッシュ 】を連発してくるし。
あんなに揺れたら立ってるのもやっとだ。
……待てよ?
別に立つ必要ないんじゃないか?
そう考えていると、再びヤツはハンマーを振り下ろした。
ドンッ――
「おりゃあ――っ! 」
俺は飛んでやった。
それも目一杯オークキングに向かってだ。
揺れている間、空中にいたらよくね?
それからそのまま殴り込めばいいじゃないか。
そんな単純な考えだ。
宙を舞いながら徐々に距離を縮めていく。
その距離30mほど。
冒険者になった自分には一発のジャンプで届きうる範囲だ。
そして目の前のターゲットはそんな俺を見て余裕の表情。
そんな風に見えた。
と思えば、その担いだハンマーを大きく振りかぶってこちらへ放ってくる。
あぁそうだ。
ハンマー投げてくるの忘れてた。
しかも空中だし身動き取れないじゃん。
(専用パッシブスキル【 自動反撃 】を発動します )
その音声と同時に俺の脳内には、この場を抜け出す方法が流れてくる。
「よ、よし! 今はそれしか――っ! 【 咆哮 】」
それは迫ってくるハンマーにではなく、下に向かって放った。
するとその魔法は地面に直撃し、その威力により俺の身体が天井まで押し上げられる。
そう、魔法によって無理やり自分の位置を変えたのだ。
そんな荒技を教えてくれた【 自動反撃 】ってすごい……。
それにこのスキル、単純に相手の動きに対して避ける補助と攻撃する補助をしてくれるものだとばかり思っていた。
もちろんそれも正解だろうが、今のようにピンチから抜け出す方法とやらを冒険者の脳内にインプットしてくれる、そんな能力もあるのだと思う。
スタッ――
俺の両足は揃って天井へと接地された。
ヤツが放った【 ハンマーブーメラン 】はずいぶん遠くまで飛ばされており、まだ折り返す様子もない。
オークキングは現在手ぶら。
今がチャンスだっ!
俺は今、天井で両膝を曲げている。
勢いよくヤツに【 アークスマッシュ 】をぶち込む準備だ。
そして強く蹴り出し、まっすぐとターゲットに向かっていく。
「オラァ! 喰らえっ! 【 アークスマッシュ 】!! 」
魔力によって光り輝いたその右拳はオークキングの顔面に一撃を決めた。
「グガ――――――ッ!! 」
ドスンッ――
その力は留まるところを知らず、そのままヤツを地面にまで叩きつけた。
オークキング L v 34 HP 220/2538
MP 20/105
《スキル》
【 グランドスマッシュ 】 【 ダイレクトアタック 】
【 ハンマーブーメラン 】
今の一撃でオークキングはほぼ瀕死状態になった。
たださすがに一発では仕留められなかったか。
まぁ今のレベルじゃ仕方ない。
きっと久後さんや紗夜さんなら問題なく瞬殺だろう。
俺もいつか先輩達に追いついてやる。
そんな強い気持ちを抱いたまま、トドメの一撃を刺した。
「【 アークスマッシュ 】」
ドスッ――
《レベルアップしました》
◇
やっと出口の目の前まできた。
ふぅ……疲れましたな。
このままダンジョンを脱出して事務所に報告しに行こう。
いや、たしか報告は次の日でも良いって言ってたな。
何か用事があればスマホに連絡が入るようになってるみたいだし、今日は帰るってのも一つか。
平日の昼間に帰るって優越感スゴイよな。
頑張ったんだし、そんな気持ちになっても良いだろう。
さぁ帰って何しようかな〜。
そんなことを思いながら出口である異空間をくぐり抜けた。
◇
外はまだ昼過ぎ。
俺が攻略したダンジョンは東京の街中にあった。
そんな人通りがあってもなぜこんな堂々と異空間があり、冒険者が目立たずに通れるのか。
それはそこを通る瞬間だけ一般人に認知されなくなるらしい。
それを紗夜さんから聞いた時は意味が分からなかった……いや、今も分からないが。
しかし実際、こんな人前でダンションから脱出してきたのにも関わらず周りは驚く様子もない。
ということは……そういうことなのだろう。
そんな街中、すぐ隣の車道の端に見慣れた黒い車が止まっているのが見えた。
何回か見たからナンバーも覚えちゃってるし、あれは間違いないな。
ウィーン――
その車の助手席側のフロントドアガラスが下ろされて、
「せんぱ〜いっ!! 」
そこから上半身を乗り出して手を振ってくる美女がいる。
2週間ぶりの再会、西奈 瑠璃だ。
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