第33話覚醒




「う、嘘でしょ?…デカすぎ!」 




急に飛びかかってくる男から、咄嗟に避けて距離を取り、地面に双剣を置くと左足のホルスターからハンドガンを取り出した。


すぐに死人へと銃を構え、練習の時と同じように、男の頭を的と見立て、思いっきり引き金を引いた


バァァンッ!!と激しい音が鳴り、銀の弾丸は男の頭ではなく、頬を貫通した。



一瞬、バチィィと火花が散ったが、頬の傷はジュゥゥと、すぐに回復していく


男は、更に雄叫びを上げてこちらを睨みつけてくる



「は、外した??」




外したのが悔しくなり、もう一度両手で構えるが、死人は先程とは比べ物にならない速さで、私の方へと迫ってきた


死人の動きは素早く銃を構えても頭を狙えない仕方なく胸を狙うが、それも当たらず5発程連射したところで、キリがないと思い仕方なく双剣に切り替えた。


そのまま私へと、襲いかかる死人の腕へを狙い剣を振るった


やけに切れ味のいい銀の刃は、引っかかる事なく死人の腕をスパンと切り落とすと、ドサッと音を立て、死人の両腕が地面へと落ちた。


死人の腕から血が噴き出ることもなく、腕はそのまま塵となり消えていく



両腕を失った死人は、痛みを感じないのか怖気付く事なく、更に私へと牙を向けた


天明が言っていた通り、彼らは首か胴体を切り付けないと倒せないらしい。


サッと死人と少しだけ距離を取り、双剣の持ち方を変えた



柄を逆手に持ち、構えると唸り声を上げふらふらと迫ってくる死人へ正面から双剣を左右に振れば、その瞬間また赤く燃え上がり死人は塵になった

 



「いけた…?」



死にたくない一心で、無我夢中に動いただけだが、どうにかあの大男を倒すことに成功したようだ



ほっと胸を撫で下ろしば、天明の後ろ!という声が聞こえた



後ろ?と振り返れば、先ほどとは違う男の死人が立っており、思いっきり私の腕を引っ張ると地面に叩きつけられた。



ダァン!とものすごい力で、砂利道へと投げつけられ、短パンだったせいで足元に砂利が刺さり、すこしだけ出血してしまった




たらりと膝から、血が流れたかと思えば、すぐに傷は塞がり綺麗な肌へと戻っていく



その場から素早く立ち上がり、死人と距離を取るが、死人は私の流した血に気を取られているのか、砂利に着いた血を口に含みはじめた


その隙に双剣からハンドガンへ切り替えると、血に夢中になる死人の頭に2発撃ち込んだ。




2人目の死人を塵にした所で、一旦心を落ち着かせようと、小さく息を吐いた


周りを警戒していれば、奥の瓦礫の上で胡座をかいてこちらを見ている天明が見えた


 

「本当に見てるだけ…」



天明は全く、狩る気もなく私がちゃんと狩れるか向こうで見ているだけ。


2人目を倒したというのに天明からは未だに終わりの合図もない


一体いつになったら、天明から終了の合図が出るのだと、分からないまま、奥からゾロゾロとこちらへと迫ってくる死人へと視線を移した



双剣を構え、前からやってくる死人へ剣を構えればやってきたのは、1人ではなく5人

 


暗闇の中、赤い目をぎらつかせ、一斉に私の元へ向かってくる男女に、後ろで見守る天明へと助けを求めるが、彼は最初に言っていた様に、助けるどころか、やはり見ているだけで何も言わない




「…え、嘘?これ1人で?」




猿田も玲も近くにはおらず、見当たらない

天明は見ているだけなのできっと助けには来ないだろう



誰も助けに来ないなら、自分でやるしかない。




やらなければやられると言っていた天明の言葉が頭に浮かび、私は柄を握り直した



迫ってくる死人と同じ様に、足を動かし走り出すと、両腕を振り上げた



1人目の男の腕を切り落とし、よろけた隙にもう片方の剣で首を切り落とすと、2人目の女は腹へと銀の剣を突き刺した



3人目は足の間をすり抜けると同時に、両腕を振り男の足を両足切り落とせば、バランスを崩した死人は地面へと倒れた。

 

倒れた男の背中に銀の剣を突き刺せば、死人はそれぞれ塵になり消えていく



4人目の女は、3人目に気を取られている間に、姿をくらましており、気づいた時には私の腕を凄い力で引っ張りあげると、もの凄い力で皮膚に鋭い爪を食い込ませた。



女性だからだろうか、爪が長く可愛くネイルしてある爪のせいで、皮膚が裂け腕からはまた、赤い血が垂れていく。



女は私の血に気がつくと、そのまま腕に噛み付き、凄い勢いで血を吸い始めた



針の様な鋭い痛みがチクリとしたかと思えば、吸われていく感覚が伝わり、噛み付く女を引き離す為に勢いよく腕を振るが、全く離れない


「いっ、やば!離して!!」



流石にこのまま、血を吸われるのは危ない


もう片方の剣を咄嗟に死人の胸に突き刺せば、雄叫びを上げて消えていった



流石に死人に噛まれてしまい、彼らの涎が体内に入った事が気になり、内心焦っていれば5人目の死人はドンッと力強く突き飛ばし、私を背後から押し倒してきた。



気を抜いていた為に、バランスが崩れ砂利道へと、転がれば違った小石が身体に食い込むのが分かった。


咄嗟に痛みで目を瞑れば、女は仰向けに倒れる私の上に馬乗りになると、迷うことなく私の首へと手をかけた。


また、女のやけに尖ったの爪がぐぐっと首に食い込んでいき、流石に女相手は嫌だと思い知らされた。


男よりも女の方が爪という鋭い武器を持っており、この時ばかりは、ネイルというものが心底嫌になった

 


女は、やけに力も強くグググと首を絞める力を強めていき、正直苦しい



「っぐっるしぃ…!」



そのうち女は、顔を近づけると首元に流れる血へと、牙を向けてきた



流石にもう噛まれたくないので、女の顔を両手で押さえると、負けずと力を込め押し返した。



血を吸われない様に、精一杯の力を込めて抗うけれど、このままでは女に首を絞められているこっちの方が不利だ




片手で死人の顔を押さえつつ、もうひとつ持ってきていたハンドガンをベストのポケットから取り出した


しかし、掴んだはいいものの上をスライドさせないと弾が出ない為、一瞬左手を外さねばならない


「グゥルルル…」


低い唸り声をあげる女は、未だに凄い力で首を絞めており、息ができない


流石に呼吸ができずに顔は真っ赤になり、涙が溢れていくが、根性で右手のハンドガンを掴んだまま、死人の顔を殴りつけた。


しかし、鼻が折れようが女は全く痛がることも怖気づくこともなく、更に首を絞める手に力を入れてきた。


女の顔をどうにか左手で押さえてはいるものの流石にこれ以上力を入れられると苦しくて抑える手から力が抜けていくのが分かる


この体勢のままでは、気を失いこの女に全ての血を吸われてしまうだろう



正直、女性の大事な顔を傷つけるのは大変申し訳ないが、今は自分の命の方が大事だ。



ハンドガンで更に容赦なく女の頭を殴りつければ、ほんの一瞬だけ首を絞める手が緩んだ



その一瞬の隙に、右手につかんだハンドガンの上のスライドだけ口に加え思いっきり引っ張った。


カチャリと綺麗に音がなったのを確認し、そのまま女の顔面に向けて引き金を引いた。



────バァンッ!!!



至近距離で撃ったせいで、鼓膜が震え、キィィィンと耳鳴りがなるが、それよりも目の前で塵になり消える死人を呆然と眺めた 



死人がちゃんと塵になったのを確認すると、思いっきり手を広げ、深く息を吸い込んだ




流石に初日に死人に殺されかけるなんて思わなかった


なんならきっと天明や猿田達が助けてくれると思っていた。


しかし現実はそんな甘くなかったという事だ


そのおかげでこうして、死人を倒せたのだからある意味良かったが、それにしても



「…し、死ぬかと思ったぁ」




流石に今の死人で完全に力尽き、キラキラと光お星様を眺めれば、近くでまた死人の唸り声が耳に入ってくる



また来たかと一応、手元のハンドガンを握りしめれば、すぐ近くで鳴り響く銃声音




やっと猿田か、玲が来たのだろうと思い、そのまま夜空を照らす蠍座を眺めていれば、嗅ぎ慣れたムスクの香りが鼻を通った



急に王蓮の香りがすると思えば、ひょこっと夜空をバックに私を見下ろすイケメンが現れた




「何してんの?」



「きゅ、…休憩してます」

 


王蓮と会うのも久しぶりというのもあって、何故かやはり緊張してしまう。



ふーん?と相変わらず興味なさそうに返事を返す王蓮は、未だ私を見下ろしており、下から見る姿も相変わらず見目麗しい




「ここで休むってお前…結構肝が座ってるね」



「あ、はは…」




確かに、彼が言うように近くでは未だ死人狩りをしている猿田達の銃声が聞こえてくる


王蓮も、私と会話しつつも先程から数人でやって来る死人を、何人も早撃ちで塵にしている



それに耳がいいのか、王蓮は確実に死人が近づく前に仕留めていた


自分と違い、余裕そうな彼の様子にやはり流石だと見惚れるしかない


こんなに格好良くて、しかも強いなんて最高だ



王蓮の動きを惚れ惚れと見つめていれば、呆れた顔で、いつまで寝てんの?と言われ、急に自分の状況が恥ずかしくなり、サッと起き上がると、双剣を拾い上げた。



突然、王蓮に名前を呼ばれすぐに返事すれば、天明が向こうで呼んでると遠くの方へ指を刺した



王蓮があそこ、と指差す場所を目で追えば天明が楽しそうに手を振っていた



こっちは死にかけていたというのに、天明は呑気なものだ。

尊敬できる師匠だが、流石に腹が立つのは許してほしい




「じゃあ、行きますね…」


「うん、お疲れ」



王蓮に、お疲れと言われると嘘の様に不貞腐れた気持ちが、急に晴れていくのが分かった


流石に王蓮に言われたら嬉しくなり、明らかに緩んだ頬で、ありがとうございますと返せば、王蓮も少しだけだが口角を上げ、ひらひらと手を振ってくれた。


この感情は、きっと憧れのアイドルに手を振られた時と同じ気持ちなのかもしれない


満面の笑顔で、るんるんと駆け足で天明の元に戻れば、やけに機嫌がいいね?もっと続ける?と言い出す天明。


その天明の言葉に、一瞬で笑顔が消え去り真顔でもう大丈夫だと伝えた。






「よく出来てたよ、えらい」


「…でも、死人に噛まれたんですけど、私もゾンビとかになったりします…?」



「ふふ。ならないヨ、大丈夫大丈夫」


ちょっと気にしていた事を聞けば大丈夫だと笑う天明に心からほっとした


映画の様に、私も何らかの影響がでて…なんてことがあったら正直どうしようと焦っていた

何もないなら安心だ。




それにしても、最後の死人は途中から血よりも、私を気絶させようとしてきたのが意外だった。

 


「師匠、死人ってあんなに賢いんですか?」



あの死人は、確実に私を気絶させてから、血を吸うつもりだったに違いない


他の死人達は血を出せばそこに夢中になっていたのに、最後の死人は血は後から頂くスタイルだった



「いや、死人は血を吸うことしか考えてないよ」



「え、じゃあ最後の死人は?」




「うん、僕も変だと思ったヨ、普通なら血しか興味ないはずだから、もしかしたら海を襲った死人は…」


「死人は…?」


「操られてたのかもしれないね」



突然、操られてたと言われてもよく分からず、聞き返せば天明は当たり前の様に、そういう能力が使える吸血鬼もいるんだよ、と




「え、と超能力者かなんかですか?…それとも心理的なやつ?」




「んー…今度、詳しく海に教えてあげるヨ。その前に海自身をちゃんと調べてからにしようか」



やっと吸血鬼という存在を理解してきたと思っていたのに、今度は超能力者がいると聞かされれば、流石に私の頭はパンクする


正直、天明の言い方は気になるが、先に私自身の事を知ってからというのは納得


まずは私の血を調べてから、詳しくその能力について聞きたい




けど、それよりも先に猿田に血をもらわなくては
























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