第44話 悪いな勇者

「お前を殺して、元のルートに戻って、ハーレムエンドで、オレは国王になるんだ……ッ」


 血走った目が俺を射貫く。

 ぬらりと勇者が剣を抜いた。


 黄金色のそれは、イージーモード専用の、序盤だけやけに強い『ゴールドソード』。

 中盤までには更新必須だが、序盤の武器を2~3すっ飛ばせる性能がある。


 へえ、そんなのも持ってたのか。

 感心していると、勇者が黄金の剣を構えて俺に迫ってきた。


「死ねぇぇぇぇえ!!」


 だから台詞ぅ!

 それじゃただの悪役だろ!

 お前勇者なんだから、少しは勇者らしい台詞をいえッ!


 寸前のところで、刀剣を抜きガード。

 ――キィィィィン!

 これまでに感じた事のない重みが腕に伝わった。


 おっ、重いな。

 前回戦ったときよりも速いし、攻撃が鋭い。

 このドリンク、ステータスだけじゃなくてスキルも倍化するのか?


 イージーモードは甘え!

 と思って一切手を付けなかったけど、このドリンクがどうなるのかは試しておくべきだったな。

 ――主に知識として。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!」

「――ッ」


 スキルが倍化されてるはずなのに、攻撃がめちゃくちゃだ。

 こいつ、剣術スキル持ってる……よな?

 だって入学してから三ヶ月経ったんだぜ?

 勇者はステータスからスキルまで、どのキャラよりも取得しやすく上がりやすい。

 これでスキルがなかったら、どんだけ稽古サボってんだよってレベルだ。


 途中途中、ライトニング・ボールを放ってくるけど、これも発動が遅すぎる。

 当たっても、精神力の壁に阻まれてすぐにかき消される。


 弱い。弱すぎる。

 勇者がこれって、めちゃくちゃ悲しい。

 俺がプレイしたらもっと強くなるのに……。


「なんで、これだけ、強化してんのに、死なないんだよッ!」

「……それは、お前が弱すぎるからだ」

「黙れッ! オレは勇者だぞッ!!」

「だからなんだ?」

「オレは物語の主役だッ!」


 勇者が振りかざした黄金の剣に、俺の刀剣を全力でぶつける。

 すると黄金の剣は音もなく真っ二つになった。


「は……うそ、だろ……なんで……。だって、これは、序盤最強の……」


 ゆらゆらと、勇者が後ずさり地面に腰を落とした。

 さもありなん。

 いくら序盤最強といっても、終盤最強の武器とぶつかったらこうなるに決まってる。


 アナライズの鑑定でも、性能差は明らかだ。

『聖光の刀剣』攻撃力500

『ゴールドソード』攻撃力58


 剣をたたき切るのは悪いかと思ったんだが、お前、その剣いらないだろ?

 だってまともに使えてねぇもん。


「オ、オレは勇者だ。このゲームの主人公だぞ!? こんなこと、あっていいわけが――」


「悪いな勇者。この物語ルートの主役は俺なんだ」


 城門の前に、ファンケルベルクの馬車が止まった。

 よし、これで手はず通りだ。あとは王都を出るだけ。


 勇者に向き直り、剣を構える。


「勇者よ。俺は今から国を出る。その意味がわかるか?」

「……?」


 うん、わからないよね。

 そういう奴だよ、お前は。


 これまではアドレア王国の公爵って立場があったせいで、どこぞの勇者が無茶苦茶やっても、外交問題になるから手が出せなかったんだよ。


 その肩書きがなくなったらどうなるかは……言葉より体で教えた方が早いな。


「さて、そろそろ終わりにしよう」

「ま、待て。お互い話し合えばわか――」

「あの世ではせいぜい無能な自分を顧みるんだな」

「うわぁぁぁあ――」


 縦横憮刃エクストラ・シュレイド


 一秒に数十度切りつける。

 体がバラバラになった勇者の、うつろな瞳が空を見る。


 リアルぅ!

 超グログロ。

 いや当然だけどさ。

 やばい。夢に出そう。


 血振るいをして、刀剣を鞘に収める。

 さらば勇者よ。


 馬車に向かおうとした、その時だった。

 勇者の胸元が不自然に発光した。


「むッ!?」


 その光はあっという間に全身(というか全肉)を包み、消えた。

 あとには、勇者の体だけでなく、血すらも残っていない。


 なんだこれは……?

 初めて見る光景だ。


 あー、もしかするとあれか。

 イージー限定蘇生アイテム。


 デッドエンドになった場合、一度だけ蘇生して、セーブポイントで生き返るアイテムがあったな。


 でも、そうか。

 また勇者につきまとわれるのか……。


 死亡これで少しは懲りてくれたらいいんだけどな。

 あの性格じゃ、ちっとも期待出来んな。


「はあ……」


 深いため息を吐き、気持ちを切り替え馬車に向かう。

 勇者のことは忘れよう。

 それより今は、新拠点だ!


 この七年間、俺の稼ぎのほとんどをつぎ込んだ遺跡がどうなってるか、楽しみだ。


 馬車に乗って俺は一路、遺跡を改修した拠点へと向かうのだった。



○名前:エルヴィン・ファンケルベルク

○年齢:16歳  ○肩書き:元貴族 NEW

○レベル:51

○ステータス

 筋力:8610→9670 体力:9400→10761

 知力:8610→9670 精神力:22600→23766


○スキル

 ・大貴族の呪縛 ・剣術Ⅴ ・身体操作Ⅳ→Ⅴ ・魔力操作Ⅵ

 ・強化魔法Ⅴ ・闇魔法Ⅶ ・威圧Ⅲ→Ⅳ ・調合Ⅳ

○称号

 ・EXTRAの覇者





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