異世界は死にゲーのように

カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画

第1話 暗い部屋

目を覚ますと真っ暗だった。


「......ん?停電か?」


顔を回してあたりを見てみる。上も下も右も左も圧倒的な黒が広がっていた。そう、闇というよりも黒というほうが近い。何も見えない。


(......どーしたの静)


俺の頭の中で女性の声が響く。


「いや、なんか真っ暗で......」


言いながら違和感を感じた。俺は椅子やベッドではなく、床に座っている状態なのだが、尻の感触がおかしい。


「......露、俺って寝落ちしたんだっけ?」


(うーん?どーだっけ......あんま記憶ないなぁ)


地べたを触るとゴツゴツとした感触で、すぐに石畳だと気がついた。ひんやりとしている。


それになんだか妙な匂いがする。なんというか、学校の図書室のような。古本的な。


(ねね、静)


「ん?」


(感覚共有しても良い?)


「あ、うん」


(おお、ホントに暗い。何もみえないや......てかおしり痛い)


「あ、悪い」


俺は立ち上がる。ここ、どこなんだろ。自分の体をさわると上は部屋着にしているフード付きパーカー、下はジーンズを履いている事に気がつく。そんで靴も履いている。


(んんん?外へでかけるにしては軽装だね)


「うん。でもスニーカーは履いてるんだよな」


(高かったやつだ)


「そそ。つーか、とりあえずここがどこか探らないとな......壁はどこだ」


俺は手を前方に突き出し、ゆっくりと足をずらすように移動し始めた。躓いたりして転んだら危ないからな。って、お?歩いて五歩くらいのところで俺は壁だと思われるものに触れた。


(壁も石っぽいね)


「でも壁だな。......ん?これは絵か?絵画っぽいものも掛けられている」


(てことは壁伝いに探していけば電気のスイッチとかあるよね。ちょっと暗すぎる。明かりつけようよ)


「そうだな」


俺は壁伝いに右へと移動した。壁を大雑把に手で確認しつつ、すり足であるいていく。するとスイッチは見つからなかったが、代わりに扉を発見した。


「扉だ」


(木の扉だね)


とりあえずこの暗闇から逃れたくて扉を開けようとする。しかし、ドアノブが見あたらない。


「なんかこの扉おかしいぞ」


(ホントだこれじゃあ開けられないじゃん)


「押しても開かないし」


くそ、せっかく明るい場所にでられるかもと思ったのに。少しの光も無い暗闇がこんなにストレスになるとは思ってもみなかった。


(あのさ、静)


「ん?」


(ちょっと私と体替わってよ)


確かにこの状況であれば露の方が良いかもしれない。彼女は勘が妙に働く。部屋を探索するんだったら彼女に任せた方が良いか。


「露の方がなにかを見つけるにはいいか。わかった」


フッと俺は意識を手放す。すると露へ体の主導権が入れ替わった。俺、佐藤静の体には佐藤露という女の子の人格が宿っていて、こうして体の主導権を入れ替える事ができる。


「さーてさて」


そういうと彼女は何もみえない暗闇にも関わらずとことこと普通に歩き始めた。


(いや、怖いな!危ないだろ!)


「大丈夫。何となくわかるし」


(わかるの!?)


「うん。あ、ここ窓だ」


扉から左に進んだ突き当り。硝子の窓があった。露はそれを躊躇わずに押し開く。


「うわっ、眩しっ」


(うおお、急に開くなよ......てか、え?)


予想に反して窓の外は明るく、夜だから暗かったと言うわけでは無かった。


「すごい。どこ、ここ」


まるで映画に出てくるような光景。窓の外は城のバルコニーのようになっている。窓下は石造りの幅の広い通路で一車線道路くらいの幅がある。その向こうの方には転落防止の鉄柵が並んでいる。


そして一番驚いたのが、ここからでは上が見えないくらいの絶壁。巨大な端が見えないほどの岩壁が威圧的に存在していた。


「なんっっ、じゃこりゃあ!」


(すげえな。まじでどこだここ)


後ろを振り返る。すると窓からの日差しで部屋の中がようやく見えるようになっていた。そこはまるでよくファンタジー小説などに出てくる、おおよそ中世ヨーロッパと位置づけられそうな一室だった。


(もしかして、ここ城の一室か?)


「そうっぽく見えるね。え、でもなんで?突然どうしてこんな所に......」


(さらわれたのか、俺達)


「マジで!?」


心当たりは......無いとも言い切れない。目的は金か?


「でもその割にはおかしくない?」


(おかしいって?)


「出入り口がその開かない扉しかない」


(まあ、そうだな。でもあれだろ露のようにその窓をあけて出入りしてるのかもしれないし)


いいながら思う。そんな事あるか?と。


「あー、なるほど」


しかし露は納得したようでふんふんと頷いていた。単純か。


(......いや、でもよくよく考えてみると確かに誘拐にしてはおかしいな。もし誘拐だとしたらこんなゆるゆるに拘束しておくか?現に今逃げられそうにもなってるし......犯人は間抜けなのか?)


「あの、静」


(ん?)


「ちょっと疲れた交代して」


(ああ、うん。って、お前これから歩くことを予想してだろ)


「えっへへ、バレたか。危なくなったら働くからさ。体力温存だよ」


(仕方ないな)


人格を入れ替え、俺は部屋の中を見回る。しかしこれといってなんらかの手がかりもなく、あるのはボロボロの木の机、そこに置かれている小さなランタン、机と同じ木製の椅子。そして扉のよこに掛かる絵画だけだった。絵は黒一色で全面を塗られていた意味のわからないモノで、裏面をみようとしても壁と一体化していてみられない。ちなみにランタンには燃料は無く使えなかった。


「よし、とりあえず部屋から出てあたりを見回るか。ここにいても仕方ないし」


(だねえ。ていうか静はまだ気がついてないの?)


「なにが?」


(体みてみてよ)


そういわれ俺は視線をさげて自分の体をみてみる。すると謎の膨らみが視界に入った。


「......なんだこれ」


触ってみる。柔らかい。それは平均的な女性よりもあるように感じる大きさのふくよかな胸だった。


(うわーお!静はえっちだなー)


「ち、違う違う!?なんだこれ!!あれ、なんで」


混乱しながらも慌てて股をまさぐる。嫌な予感がするぞ。


(あらー、大胆......静もお年頃だもんね)


「違うっつーとろーに!!いやていうか、なんで女の体になってるんだ!?」


(あはは、テンパってる静可愛いなぁ)


「言ってる場合かよ!」


(大丈夫。私目をつぶっておくから好きなことしなよ)


「しねーわ!てか絶対みるだろお前!」


(あっは♡バレたぁ?そりゃ見るよね〜!そんで一緒にするし)


こ、こいつ羞恥心てのがねーのか。いや、ねーのか。プライベート基本的に無いしな。


(ほらほら、しよーよ)


「しねーよ」


(なーんでさぁ!久しぶりにしたかったのにぃ)


俺は頭の中をまっピンクに染めている露をよそに窓から外へと出た。冷静に考えれば今それについて考えてても答えは出ないだろうし、時間がもったいない。


もし本当に誘拐されているとしたら犯人がいつここへくるかもわからないし。


「緑の匂い」


(あーね。なんか空気が澄んでるよね)


上を見上げてみる。すると岩壁がタワマンかよってくらい高くてその迫力に思わずたじろいでしまう。


「......すげー」


鉄柵まで進み下を見ると、岩壁に勝るとも劣らずの高さだった。遥か下の方は森林のようになっていて、大きな川のようなものも見えた。


(なんかあれだね。この城、岩に埋まってるみたいじゃない?)


「確かに......」


そういわれてみればそうだ。なんというか、古城が岩に侵食されているようなそんな印象。


右には短い下り階段。少し行ったところから岩のトンネルになっている。


左は城の周囲をぐるりと回るように通路が続いていて、先が見えない。......なんか違和感あるなと思ったら、古城なのに通路や階段が広い。


「露、どっち行ったら良いと思う?」


(んー、そうだねえ。右の洞穴は嫌な感じする。微かに獣臭がするし、なんかいそうだよ)


「け、獣臭?」


(昔のおじいちゃんと山の中に入って熊獲ったでしょ?あんな感じの匂いと気配する)


俺はいわれて匂いを嗅ぐ。しかし露のいうような獣臭はしない。熊のようなキツイ匂いならわかりそうなもんだけど。


でも露は昔から感覚が鋭い。彼女が危険だというなら危険なんだろう。


「それじゃ左の道行くか」


(うんうん。そっち行って何も無かったら洞穴行けばいいよね)


「ああ......できれば行きたくはないけど」


(あはっ、ビビってるねえ。可愛いなぁ。大丈夫だって、私がちゃんと守ってあげるからさ。忘れた?熊から助けてあげたこと)


「いや、忘れてないよ。あの後筋肉痛ヤバかったからな」


(あははは、まあ死ぬよりは良いっしょ)


「確かに。頼りにしてるよ」


(あいよー)


そうだ。こいつは昔、自分より遥かに大きな二メートル級の巨大な羆を一人で狩ったことがあるんだ。流石にあれ以上の化け物は出て来ないだろう。


懐かしいな。今が16歳だから、あの時は13歳か。


(静、なにボーっとしてるのさ。誘拐犯いたら危ないよ?)


「あ、ああ、ごめん」


(まあすぐ替わって私がぶっ殺してやるけどね)


「殺しはやめてくれ」


(はーい)


そんなわけでゆっくりと左へと伸びた通路を歩いていく。できるだけ音を立てずに、重心移動に気をつけながら。


(んー、相変わらず下手だねえ静は)


(うるせーお前が歩きたくないっていうからだろーが)


(あ、そうだった。ごめんごめん......なんかどら焼きたべたくなってきたなぁ)


(自由か!!)


しかしそういう俺も腹が減っている事に気がつく。いつから食べてないんだろう。空腹具合的に一日とかは経ってないような気がするけど。


(そういえば露)


(んー?)


(人間の気配は無いのか?)


(この辺りでは気配も匂いもないね。腐敗臭は少しするけど)


(腐敗臭.....食べ物でも腐ってるのか)


(それもある)


(それもって......他になにがあるんだよ)


(人の死体の可能性もあるね)


(は!?マジで!?)


(可能性だよ、可能性。私人の腐った匂いとか嗅いだこと無いし)


(あ、そうか......まあ、そうだよな)


(とりあえず生物の腐った匂いはする)


(じゃあ人の死体って言うなよ)


(あはっ、ビビってる静が可愛くて♡ごめんよ)


(......お前な、って、あ。扉だ)


そこには普通の木造の扉がある。観音開きでおそらく大部屋へと通じているのだろう。


俺は扉の取っ手へと出かけた。


その瞬間、嫌な予感がした。露がわくわくしているのが伝わってきたからだ。


(露......お前、なんか隠してる?)


(えーなんで?)


(なんか興奮してない?)


(さあ、どーでしょう?まあこんな怪しげな古城探検してて興奮しない冒険家はいないでしょう)


(お前はいつから冒険家になったんだ......)


(あはっ、いいから開けてみなよ。調べなきゃでしょー)


(責任取れよ)


(よろこんでぇー!!)


(喜ぶな)


(はあ?喜ぶでしょ!好き同士なんだから......でしょ?)


(いやまてまて、今の話の流れ的におかしいって意味だぞ)


(あ、そっか。ごめんごめん......でも約束忘れてないよね?私以外の女を好きになったら、わかってるよね?)


(そりゃ勿論)


(だよねー、よかったぁ♡)


俺は扉をゆっくりと引く。昔のものだからか割と重い。いや俺が非力すぎるのか?


木のきしむ音。やっとの事、顔一つ分の隙間があいた。


(どれどれ、中は......)


そこから中の様子を伺う。一応窓から中を見ようとも思ったが、俺達が最初にいた部屋同様、なにかで黒く塗りつぶされ中が見れなかった。




ココココ、と謎の音がする。というか、臭え!露の言っていた腐敗臭では無いけど、なんか生臭い!!




その瞬間、体が後ろへ吹き飛んだ。いや、露が体の主導権を奪い後ろへ飛び退いたのだ。ズザァーと地面にソールでブレーキをかけ、姿勢を低くする。俺の高かったスニーカーがあああ!!ってそれどころじゃねえ!!


(なんだなんだ!?どうした露!?)


「ごめん、しくった」


(は?)


首元が熱いことに気がつく。そしていつのまにか左手で露はその首元を抑えていた。なんかぬるぬるする。てか、え?


足元にボタボタと赤黒い液体が滴っているのが視界に入った。


「熊より疾かった......ごめん」


露の見据える先、扉の向こうに鎧の男がぼーっと突っ立っているのが見えた。ここの警備かとも思ったが、よくよくその顔をみることでそいつが普通ではないことに気がつく。いや、顔だけじゃない。腕、脚、おそらく鎧の中まで骨。




「......あれってさぁ、あれじゃん?魔物って奴?」


(いや、ありえねえだろ......)


でも、あれは......どうみても手品や仮装の類じゃない。本物だ。




「まじで、ごめん......もう、意識が」


視界が暗くなってきた。露はドサッと膝から崩れ落ちる。


(いや、俺のせいだ。気にするな)


俺は露から肉体の主導権を奪う。愛する人に死の苦しみを味あわせるわけにもいかないだろ......あ、意識が......。




全てが黒に塗りつぶされた。




「......あれ」




目を覚ます。あたりは闇。いや、闇というよりも黒だ。


「露......いるか?」


(いる)


心臓がバクバクと鳴っている。悪夢をみたかのように汗がポタッと頰を伝い石畳へ落ちた。


「なんか、変な夢をみたんだけど」


(私もみたよ......)


俺はおそるおそる聞く。


「それってもしかして、鎧を着た骸骨に殺される夢だったりする?」


彼女は戸惑いながらも答えた。


(首の頸動脈切られた)


俺は首を触る。噴き出た血液どころか切られた跡すらない。


「どうなってるんだよ、これ」






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【お礼】

お読みいただきありがとうございます。

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こちらの作品は好評であれば続けていきたいと思っております。





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