第40話 普通の青春



 



 「つむつむー、その卵焼きちょうだーい」


 

 「いいよ景凪、はい、あーん」


 

 学校の屋上で僕らはお昼ご飯を食べていた。



 「ダ、ダメよ伍! そうやって景凪を甘やかすから堕落していくんじゃないの!」


 

 「そうだね……、明日花さんのいう通りかも。景凪、卵焼きはあげるから自分で食べてね」




 「えー、なんで明日花の言うこと聞くの? つむつむのケチ」




 「そんなこという人には卵焼きあげないよ?」




 「ごめんなさぃ……」



 景凪はしゅんとうなだれてしまった。

 

 


 「景凪ちゃんがあのランウェイを歩いていたのと本当に同一人物か、疑わしくなる時があるよ」


 


 「そうだね、神戸さんってば普段は違うんだから面白いね」



 

 その様子を見ていた宝塚さんと姫路さんが楽しそうに笑っていた。




 

 「そういえばガルコレから少し経ったけど、三華のことをすっかり見なくなったわね」

 

 


 「まあね、あの映像はなかなかに衝撃的だったもんね。動画のコメントを見て病んじゃったのかもしれないね」





 ガルコレの三華さんが転倒して担架で運ばれていく映像はネットを駆け巡りかなりネタ扱いされていた。


 これまではネームバリューもあったため雑誌の撮影に使わざるをえなかったようで、修正してどうにかごまかしていたらしい。


 ライブ配信という誤魔化しの効かない、公の場に出てしまって醜態をさらした三華さんを使う雑誌はもうないだろう。





 フォトスタグラムも修正された箇所の指摘が大量にされてしまったため、いつのまにかアカウントも削除していたそうだ。




 「それに彼女のブランドもなくなったようだな」


 


 「うん、西脇が独断でやって三華さんのせいではないとはいえ、自分でデザインをしていたブランドって世間で言ってたからね……」



 今回、ガルコレが終わったあと三華さんのブランドのルックと僕のブランドのルックが酷似しているとネットニュースになった。


 幸いにしてクオリティや様々な仕掛けのおかげで世間では僕たちがパクられた側であるということになった。




 

 そしてデザインをパクったのは三華さんがブランドのデザイナーとして雇った西脇にしわきあつしの独断による犯行だったが、自分でデザインをしていると謳って商品を売っていたので、自分がパクってないというためには自分がデザインをしていないということを公表しなければならず、どちらを選んでも批判されることは間違いなかった。



 



 結果としては、自分がデザインしていないこと、パクリはデザイナーの独断であったことを公表して三華さんのブランドは消えた。



 



 「にしてもあの時は笑っちゃったよ。つむつむがデザインしている服を知らずに絶賛してたのに気づいたあのおばさん、白目剥いて倒れちゃうんだもん」


 


 「はは、気の毒だけど僕もあれはちょっと笑った」




 西脇が連行されたあとに、三華さんがあることに気づいたのだ。



 挨拶の時にとっても自信がありますわよ。と僕たちに言っていたこと、それはつまりパクられた元の僕の服のデザインが良かったと言ったことに他ならない。




 『ワ、ワタクシがこの男の服を褒めていただなんて……し、信じられませんわ』


 



 そう言い残して白目を剥いて倒れたというわけだ。

 あれから三華さんを運ぶのには苦労したなぁ……。



 




 「というか三華だけじゃなく天ヶ咲事務所ってここ最近いい噂聞かないわよ。六槻はずっと謹慎してるし」


 

 

 「一桜さんも役者の間では名前を聞かなくなったな」


 

 「どれも逆瀬川くんがいなくなってからだよね」

 



 「つむつむがいて成り立ってたんだよ、あの事務所って」


 


 「そうなのかな……」


 


 

 「そうよ」「そうだぞ」「そうだよ」「そうだよぉ」 






 みんなが口を揃えて僕を肯定してくれる。



 みんながここまで言ってくれるなら、元家族の人たちに僕がしていたことは少なからず意味があったのかと思う。





 


 (あれから色々あったな……)


 

 



 僕は、ふと空を見上げる。


 



 

 裏方でサポートしてた芸能一家である実家を誕生日に追い出されてからのことを振り返っていた。



 僕は芸能学校から普通の学校に転校して、その先で氷の女王と呼ばれている姫路月夜さんに出会って、彼女が人気Vtuberなのを僕だけが知っていたりして。

 

 

 そこから、なぜかトップアイドルグループ『アスタリスク』のセンターである芦屋明日花さんや歌劇団の男役のトップスターである俳優の宝塚鈴さん、そしてスーパーモデルの神戸景凪が続々と転校してきて普通の青春から遠ざかって困っていた日もあったけど。


 



 ずっと一人で食べていたご飯をいつしか二人で食べるようになって、今では五人にまで増えて、あっちゃんは別の学校だからここにはいないけど僕は誰かと一緒にご飯を食べる暖かさや美味しさを知った。




 そして認めてもらえることの喜びを徐々に知りつつある。




 

 

 こうしてみんなと学校の屋上でお昼ご飯を一緒に食べていると肩書きも忘れて、みんな仲良く友達だ。



 そこには上も下もないし、誰かを特別扱いすることもない。



 

 


 もし誰かがこの光景を見たらきっと普通じゃないと言うんだろう。

 こんなにもすごい人たちに囲まれてるなんて普通は考えられないはずだ。






 

 

 だけど、これが僕の普通の青春なんだと思う。







 


 

 だから僕は、これからも、この普通の青春を謳歌したい――。





―――――――――――――――――――

【あとがき】

お読みいただきありがとうございます!

これにて一章終了です!


「楽しかった!」

「まだまだ続きが読みたい」


と思ってくださいましたら下の+⭐︎⭐︎⭐︎から作品を評価、レビューで応援していただけると非常に嬉しいです!!


『お知らせ』

そして本日はお知らせがございます。

こちらの作品、コミカライズが決定いたしました!!


マンガUP!にて5/5から連載開始予定です!


伍や月夜、明日花、茜、鈴、景凪のみんなが漫画で登場するなんて最高です…!




 

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