第15話【元家族side】鳴り止まない通知【六槻】





 それは伍がアスタリスクのPV撮影の仕事を終えた夜のこと。



 六槻の部屋にて。


  

 『Prrrrrr、Prrrrrr』



 部屋に電子音が響き渡る。



 「うっ、せぇな……誰だよ!」



 六槻はスマートフォンの着信音で目が覚める。

 寝起きに機嫌が悪いのはいつものことだった。




 『六槻さん、やっと出てくれましたか!! 大変なことになってます!!』



 電話を掛けていた相手は新人マネージャーの播磨里麻だった。

 その声色は非常に焦っていた。




 

 「あ? 新人じゃねぇか、人が気持ちよく寝てたのになんだってんだよ」



 『え!? 今起きたんですか、もう夜ですよ! まさか、一日中寝てたんですか……?』



 「だったらなんだってんだよ!」




 六槻は伍から解放され久々に酒を飲んだということもあり、あれから丸一日寝ていた。

 当然、学校はサボっていた。

 



 『い、いえ。なんでもありません……仕事はOFFですもんね……。そんなことよりも昨日六槻さんがフォトスタグラムに上げた写真がネットニュースになってます!! それがやばいんです!!』




 「お! マジかよ! やったじゃねぇか!」




 『そういうことじゃな……』




 話を続けようとしている里麻をよそに、六槻は通話を切った。




 「よし! ネットニュースになったってことはバズったってことだよな! やっぱりオレが選んだ写真の方が間違いねぇんだな、あのポンコツに任せてたのが馬鹿らしいぜ」




 昨日、自分が上げた自撮りがネットニュースになったと聞いて、里麻の話を聞くよりも先に自分の目でその記事を確かめようとしていた。

 そして、伍にアカウントの運用を任せていたことを後悔し、罵倒した。



 

 「どれどれ……アスタリスクのPVのティザー映像が公開? 芦屋明日花が可愛すぎる、だぁ?」




 ネットニュースのサイトにアクセスした六槻の目に飛び込んできたのは、アスタリスクのティザー映像についてのネットでの反応をまとめたものだった。



 

 「いつもよりも完成度が高く、フルバージョンを見るのが楽しみだ。いつも完璧な芦屋明日花が初めて見せる、照れてはにかむような自然な笑顔が印象的。だと!? はぁ?」




 アイドルの中で1番を目指す六槻は、アスタリスクのことを倒すべき敵だと認識していた。

 中でもそのグループのセンターである明日花には並々ならぬ感情を抱いていた。




 「この笑顔だって計算され尽くされたもんなんだろうがよ! くそが!」




 そう言ってスマホをベッドに叩きつける、明日花が褒められていることが相当気に食わなかったらしい。




 「ま、まぁ、あいつのことは今はどうだって良い。オレだってバズってんだ!! ……は?」




 スマホを拾い上げ、再びネットニュースに目を通す。

 そこで目にしたものは六槻の想像したものとは全く逆のものだった。




 【プリズムプリズンの天ヶ咲六槻、未成年飲酒か!?】



 記事の見出しはこうだった。



 

 内容は、昨日六槻がフォトスタグラムにあげていた自撮り写真にビールの空き缶が映っているということだった。




 伍は六槻の危機管理能力の低さを知っていた、ましてやSNSなんて六槻に任せていては何かの拍子で炎上しかねない。

 そうならないようにこれまで細心の注意を払っていたのだ。




 伍がいなくなったいま、六槻の危機管理能力の低さが最悪の形で世間に出てしまった。



 

 「か、隠したはずなのに。鏡に反射してて写ってたのかよ。酔ってて細けぇとこまで目がいかなかった……、やばいやばい早く消さないと……」




 焦りと寝起きで頭が働いていないこともあり、六槻はすぐにその写真を消した。




 「ふぅ、これで良いだろ」




 

 そして、また里麻から電話があったので六槻はそれに出る。




 『途中で切らないでくださいよ! 昨日あげた写真がネットニュースにのった件で、どういう対応をするかお話を……』



 「あぁ、そのことか。だったら消しといたぜ」



 『え、消しちゃったんですか! それはまずいですよ。何も言わずに消したら認めたことになっちゃいます!』



 「……あ!」



 気づいた時にはもう遅かった。

 対処の仕方などいくらでもあったはずなのに、その中でも1番やってはいけない選択肢を取ってしまった。





 ただの憶測が、確信的な黒に変わってしまった瞬間だった。





 ピコン……。ピコン、ピコン、ピコ、ピコ、ピコ、ピピピピピピ





 

 「なんだよこれ……」




 

 アプリの新着音が鳴り止まない。

 コメントが雪崩のように降り注ぐ。




・消したってことは認めたってことですか?

・未成年飲酒とかバカですか?

・悪ぶってるだけだと思ってました、本当に悪いことしてたなんて……

・幻滅しました

・未成年者飲酒したアイドルが居ると聞いてw

・ムツキちゃん、ウソですよね?

・アイドル人生終わったな

・天ヶ咲姉妹ってみんなこんなのかな

・教育どうなってんの?

・飲酒アイドルとかヤベェ

・スクショしてたから消してもムダだよーん

・アイドルだったら夢を見させてください

・酒飲まなきゃやってられねぇってことだろ

・アイドル業界ってそんなにやばいん?w

・アイドルやめろ

・応援してたのに……

・裏切られました





 普段は通知をオフにしており、先ほどまではアプリを開いていなかったためなにもわからなかった。

 しかし、たとえ通知をオフにしてもアプリを起動しているときに届くコメントからは目を背けることが出来なかった。




 これまでの投稿には、未成年飲酒したことについてのコメントで埋め尽くされていた。





 「なんなんだよ! どうなってんだよ!?!?!?!」





 失望と悪意といったマイナスの感情が六槻のもとへダイレクトに届く。





 六槻はこれまでこのような炎上や誹謗中傷とは無縁だった。

 それは伍がそうならないように立ち回っていたり、現場で六槻の代わりにお偉いさんに謝っていたからだ。





 「はぁ、ふざっけんなよマジで!! オレ様は一般人とはちげぇんだ。だからなにやってても許されるはずだろ? なぁ……」




 

 どんなに偉い人だとしても法律を破ってはならない。

 それは当たり前のこと。




 その当たり前がマヒしてしまうくらいに六槻の感覚はもう後戻りできないところまで来ていた。




 

 「やめろよ!! やめろ!!」




 

 そうしている内もコメントは鳴り止まない。




 

 「やめてくれ……やめてくれよぉ」





 人当たりが強い六槻だが、他人から強く当たられることには慣れていなかった。




 

 「なんでオレがこんな目にあわなくちゃいけないんだよぉ……」





 通知音が鳴り響く部屋で、六槻はひとり寂しく膝を抱えて、耳を塞ぎ、ついには動けなくなってしまった。



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