第一篇 チェインナイト篇

第1話 変化

 あの日から俺の生活は変わった。期末テストは明日からなのになぜ俺はここにいて勉強して人を待っているのだろう。そう思いつつも待つ。普段の予習復習のおかげか問題がスラスラ解ける、不思議だ。

「ねえ、君が近江君。すごいんだってね。私はナルミ。」

「うっす。すごくないっすよ。」

 少しだけ謙遜してしまったが緊張のせいだ。そう決めつける。なぜだろうか謙遜するのが癖なのに最近謙遜する自分が嫌いだ。

「まあでも能力面とかすごいっすよ。」

「なに。その自己顕示欲ありまくりの返事は。オモシロイね」

 笑われた。でも嬉しい。後悔なんてない。

「そういえば柊慧学園に通ってるんだって。エリートだね。将来はエリート街道まっしぐら。」

「エリートかもっすけど。俺は自分の道を切り開きたいんで。この力のこともあるっすから。」

 何故だろう。自然に出てきてしまった。

「そうだ。舞乃そろそろ着くって。他のメンバーもね。」

 ドアが開く。音を立てた。

「近江君もう来てたの。勉強もしてるのね。レイ、桂場、この子がレクイエムこと近江岳斗君よ。」

「よろしくっす。」

 俺は軽いノリであいさつする。

「舞乃とナルミの親友のレイです。よろしく。近江君」

「僕ちんは都立千代崎高校に通う桂場元吉だ。よろしく頼むんだぜ。リーダーからいろいろ聞いてるからなよ。」

「何かあったら聞きますっす。レイさん、桂場さん。」

 やはり敬語のほうがいい。そう身に染みた俺だった。

「そうだ。舞乃今日の招集は何。」

「近江君との対面。だけじゃなくて依頼よ。東京都足立区内荒川河川敷にて非対応魔術反応確認だって佐々井さんも急行してるからみんな準備して。」

「結構危なそうですな。一応僕ちんと舞乃とレイで現場検証ですな。ナルミと岳斗君はその魔術を扱う魔術師を特定し見つけ次第戦闘を頼む。」

「大丈夫よ。桂場。魔術師は天聖本部附属正六令室所属のシス。魔術は水式<渦水>ね。水を渦のようにし戦う。私と桂場とレイは第二号車にナルミと岳斗君は第三号車ね。」

「了解」

 なんだろう。それっぽいと俺はワクワクしている。でもこれは本当の戦いで躊躇や葛藤などは許されるわけないはずだ。行き先には魔術庁所属捜査官の佐々井さんがいるらしいから大変だ。ナルミさんの足を引っ張らないように。そう思う。

「おい、夢で能力紹介と戦闘法教えたよな覚えとるか。」

「ギルティ、死んでも覚えてるわ。あんなの」

 心の中で怒りつつギルティとコミュニケーションを交わす。こういうのも大事なのだと感じる。夢の中でしっかりできたから戸惑う必要なんてない。いつも通りこなすそして最低限以上貢献する。そう決めたんだ。だから。

「近江君。張りつめすぎよ。私に任せなね。佐々井さんもいるし。」

「パニッシュメントはわかりませんが罪過で貢献してみせます。」

「頼もしいじゃない。そろそろ着くってよ。」

「了解です。」

 住宅街で俺らは車から降りる。右耳のイヤホンからだった。

「荒川河川敷付近高居ビルにて犯人確認。急行せよ。」

「あそこだ。ナルミさん。」

「わかってるよ。」

 突如として左から急いできたかのような足音が聞こえてくる。

「佐々井合流。君が近江君。よろしくね。」

「よろしくおねがいします。佐々井さん。ナルミさん俺拡張能力使います。」

「わかった。」

「え。」

 ギルティが心の中でささやく

「お主できんて。言っとたやろ。」

「やろうって意志ができた。飛べるやつないの。ギルティ、加速するやつでもいい」

「やるなら覚悟しろよお主。ジャンプするなら<跳>加速するなら<速>そして自身の体力を犠牲にし一時的な物凄い力それが<絶>だ。他にもあるがな。」

罪過クライム<跳>」

 決意。唯一つだった。俺はジャンプし戸惑わず高居ビルへと向かう。わずかな調整はできなくても誰かのために俺は戦う助けるって決めたから。俺は窓を突き破る目の前には硝子破片と渦となった水を放つ青年。

「やはり来たか。恐るべしだ。魔術庁とはこんな高度なんだ。唯狙いが自分からくるなんて。アホ。」

「アホだっていいじゃない。俺は人を守るレクイエムだからな。」

 前に進めよ俺。初めてでも頑張れ。全身を使って。

罪過クライム<剣>」

 剣が出てくる。パニッシュメントに比べれば弱いらしいがこの剣は何か好きだ。双剣というんだろうか。まあいい。

「倒す。」

「十分強気だが。君を捕まえて天聖本部現総帥のもとへ連れて行かねばならんのよ。」

 飛んできた水を斬る。飛び散った。ただ隙を作ってしまった。

「初めてだから隙だらけなんだよ。」

 奇声が伴う鬼の形相は水を弾丸のようにし飛ばす。一か八か飛んでよける。まるで体操選手のように。意識して。

「気持ちワリい避け方。」

 渦状の水を拳に纏わせた。近接戦だ。

 まるでカッターかのように頬を霞める。血だ。ポタポタと。俺は剣をかっこつけて回し眼をめがけて突き刺す。早く早く。もっと。

「うっ。眼を狙いやがって。でもあと少しだ。この傷くらいどうってことない。」

 立ちなおしこちらへ向かう。何を狙うのかわからぬまま狙われる。

「近江君。水の弾丸。」

 後からの急襲。よけるも髪の毛が僅かに舞う。

「お仲間か。雑魚二匹増えたところで。」

 笑う。笑っている。また奇声だ。

「気ぃ持ち悪ぃな。」

 心の中の言葉がふと出た。どこかの線がプッと切れた。

罪過クライム<速>」

 俺は剣を持ち圧倒的な速さで追う。殺す殺す殺す殺す。

「殺す殺す殺す。殺してやる。」

 暴走した。俺のすべてが。

「お主。暴走すればまともじゃなくなる。だが、威力が増す。あいつを有罪と判決するならば。」

 そうか。そういうことか。罪過クライムそしてレクイエムの

「ルール分かったぜ。」

 俺は笑い加速する。

「俺の最大でお前を気絶させる。」

 拳からありったけの渦状の水が飛んでくる。知らねーよ。突き進むだけなんだよ。掠って血が出る。大量出血でもいいじゃん。俺の裁く力を込め剣を放つ。

「死ね」

「うっと。死にかけるじゃねえかよ。血が出まくりだ。本気で行くから覚えとけよガキが。」

「俺のルールに従いお前を有罪と判決し厳正なる処罰をこの力を持って下す。」

 手が禍々しきオーラを纏う。

「パニッシュメント」

 黒い剣。さっきのとは全くもって違う。これが処罰。ならば。

「すごいな近江君。俺、弾丸放つわ。」

 その弾丸は水を斬る。掠めた。隙ができた。

「ここだ。」

 キル。水は飛び散る。すごい血。

「なんて力だ。だが。諦めるわけには。」

 一直線となった鎖がこちらへ飛び奴の体を貫通し確実に命を絶たせた。


「叶、まだ行かないほうがいいだろ。真の標的はいないぽいし。」

「良い死にっぷりね。レクイエムの力があそこまでだと。だいぶ厄介ね。」

「そうか。まだまだだし成長するとは決めつけらえなさそうだぞ。」

「だめねシュベルツ。パニッシュメントが顕したオーラ、裁く力は絶大ね。そしてあの技量は確実に成長する、そして基のポテンシャル。罪過を使い分けるなんてね。ギルティはもう既に彼、レクイエムのもう一つの魂だわ。」

「すげー洞察力。早く戦いテー。」

「ちょっと待ちなさいよ。命令に従わないといけないでしょ。アンタは。」

「はいはい。」


 何だよ。この鎖。

「仲間じゃないよな。」

「絶対違うわ。多分天聖本部所属の結構すごい魔術師だわ。」

「そうだ。放った奴がどこにいるかこちらからわからない。相当腕前あるぞ。」

 俺の心の中に突然とし既視感を感じた。記憶の中に、、、

「終わった?手掛かり探してたら遅れてさ。」

「丁度終わったところだよ。」

「やったのは佐々井さん、それともナルミ」

「舞乃違うんだな。決定打を入れたのは近江君なんだよな。」

「俺が見込んだだけあるね。さすが近江。」

 桂場さんは自慢げに語る。だけど鼻につかない。何故だろうか。どこかで、、、


「近江君いつまで寝てるの。」

 俺の目の前には舞乃さんがいた。寝ていた。どれくらいだろうか。こんなに意識がなく夢も見ず日が経つのはあの日ぶりだろうか。

 ふと

「今何時ですか。」

「朝の五時。みんなはもう帰ったよ。」

「舞乃さんは何で帰らないんすか。」

「いいじゃない。こんな部屋にあなた一人はかわいそうだと思って。」

 よく分からない理屈だし家大丈夫なんだろうそうふと心配にもなりつつも迎合してしまう。俺は甘えていいのだろうか。

「俺帰ります。学校行かなきゃなんで。」

「今日は休みなよ。お風呂入ってないだろうし傷も痛むでしょ。」

「こんくらい大したことないですし。お風呂ありますねよ。ここ。」

 俺は気づいていた。舞乃さんの肌が潤っていることに。

「うっ。洞察力のある少年。入ってきなさい。」

「舞乃さん俺と一緒にいたかったんすか。」

「違うよ。」

 即答だ。なんとも思ってないけどなんか傷つくわ。そう思いつつもシャワーを浴びる。沁みる。

「いてぇー」

 声が零れる。この傷、あれは本当だったのか。まるで嘘のようであったが確かにこの手にあの時の感触と思いは残っている。俺の手は噓をつかない。風呂に浸かったのはいつぶりだろう。確かあのホテルに泊まった時以来-だろうか。一人暮らしだからってシャワーだけにしていた自分はかなり愚かあだったのだろう。その時初めて身をもって感じた。-でもあの時の発言は本気なんだよな。俺。

「近江君朝ごはん。」

「舞乃さんがつくったんですか。嬉しいっす。」

「頑張ったのよ私。」

「あ、そうすか、頂きます。」

 美味しかった。外食はあっても人にご飯を作ってもらうなんていつぶりなのだろう。記憶にすらない。いや、感傷に浸ってる場合じゃないよな。学校にも行かなきゃ出し宿題は終わってる。今日から期末テストだし。大変すぎるだろ。でもここ案外集中できるから自習室に良いな。最高だぜ。

「ごちそうさました。皿洗うっす」

「近江君偉いね。」

「いや常識っすよ。大丈夫すか。せっかく飯作ってもらったんで」

 俺はいつも通りかのように皿洗いをこなす。テストは一日3教科って先生が言ってたから大丈夫だな。今日は、、、そんなことを思う。昨日とは一線を画すほど違う。

「いってきますね。舞乃さんさん。」

「近江君いってらっしゃい。」

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