⑦『メイクアップ』さかやくみこ(にじのいもーと)著(手)

時は2124年 

メイクやファッションの流行

移り変わりが激しく

顔だけでは表現がたりなくなり

メイクアップの表現のパレットは

手足にまでのびてきた


毎朝毎朝手足に色塗るのほんとめんどくさいなあ いいなあ昔の人は顔だけで。でも、なにも塗らないなんて裸みたいなものだもんなあ。


自然派のわたしは植物や野菜が原料の色素を使って顔手足をそめる


街ゆく人の手足はとても色鮮やか

子供達の手足も、ベビーカーの中の赤ちゃんでさえ色付きクリームでほのかに輝いている


ふと、色にうんざりしてきた

でも、何も整えずに外に出るなんて、警察につかまっちゃうかも


法律違反とまではいかないが

老若男女、手足に色をつけていないひとなどいない


メイクに興味があるとかないとかではない

身だしなみ、もはやマナー、もはや圧力、もはや法律。

とりあえずみんな色付けている

センスも何もなく、艶もなく、ガサツに塗っている人をみると

まるで自分の心の中を見ているようで、押さえつけている自分の心の葛藤を目の当たりにしているようで胸の奥がきゅーっと痛む。

人目ばかり気にして、うんざりしてくる


え?!


ふと見上げると、そこにいたのはベージュのかたまり。


は?!


全身ベージュのかたまり。


目を疑った。警察、、よぶ?


裸?なの?


いや、裸なわけがない。

とても綺麗な艶がある。

光沢がある

かつて見たことのない感動的な美しさがある。


こ!これは!

100年ほど前に流行った、ナチュラルメイクというもの?!


いや、あの有名なナチュラルメイクの時代は、基本的に顔にしか色はつけなかったときいてる


そうか!ループ!

ファッションはループするんだ。


ループしながら、進化する。


わたし、これ、、すきかも!!


「あ、あの、、?」


思い切って声をかけてみる。


、、、。


「それ、、

あの、ごめんなさい、

そのメイク、すごくいいなと、、思って。


わたし、色にうんざりしてて、、

塗る時間も、、匂いも、、

けど、そのかんじ、いいなって思って。」


「ありがとうございます。これ、すごく簡単なんですよ。

まず、保湿用化粧水と、スチーマーで整えて、パックをしてから美容液を三種類、その上にコントロールカラー、リキッドのファンデーション、コンシーラーでととのえて、ブラウンとレッドとオフホワイトを調合して素肌に近い色味を作って、、って思うかもしれないんですけど」


はあ、、


「実は、美味しいご飯食べて、ゆっくりお風呂にはいって、あー幸せ!ってひとことつぶやいたらこうなるんです。」


は?!なにいってるのこのひと。


「なにいってるのこのひとっておもったでしょ」


、、、。


「ぼく、ある日うんざりして、ぜんぶやめたんです


そしたら身体中ガサガサになっちゃって

色をつけられない体になって


その時、もう、どうなってもいい、

でかけなきゃいいんだ、人に会わなきゃいいんだっておもって、なにもかもすてたんです


で、髪ものびほうだい、部屋も散らかり放題だったんですけど、ふと鏡をみたら、滲み出るツヤというか、、


あ、これでいいのかもって思って


あの、銭湯って、しってます?

昔の人は、何十人何百人と言う他人同士が、一緒の大きなお風呂に 素肌ではいっていたらしいですよ


なんか、いいですよね、そういうのって」



頭の中がぐるぐると混乱しながらも、この、艶々とした謎のひとをガン見する


毎朝うんざりしながらメイクしていた私の目から、安堵の涙がでていた


涙で落ちたにんじん色の塗料の下には

みたこともない綺麗なベージュがのぞいていた


ビルの外は大雨

なんだかとても気持ちよさそう


どろどろになりながら、

気づけば2人で雨の中を大騒ぎで走っていた

赤の他人と、へんなの。

自分でも不気味だ

体から流れ落ちる気持ちが悪いほどのカラフルな液体

吐きそうになる野菜色

こちらをみる他人の目など目に入らない


今日あった出来事に思い出し笑いしながら

とびこむようにお風呂にはいった

いつもの完全栄養食はやめて

ご飯を炊いてみた

とても美味しくて

頬の内側がきゅんとする


言ってみたかったあの言葉を

口に出してみた。


鏡を見ることも忘れるほどの

美しい私がそこにいた。



※原文のままで掲載!





――――――――――――――――――――

OASOBI


姉がいじる。勝手にいもーとの原稿をちょいっといじる。


GO!

――――――――――――――――――――


『メイクアップ』


 時は二一二四年――メイクやファッションの流行は移り変わりが激しく、顔だけでは表現がたりなくなり、メイクアップの表現のパレットは、手足にまでのびてきた。

 今日も、鏡に映るわたしの肌は、にんじん色だ。

「毎朝毎朝、手足に色塗るの、ほんとめんどくさいなあ。いいなあ、昔の人は顔だけで。でも、なにも塗らないなんて裸みたいなものだもんなあ……」

 自然派のわたしは、植物や野菜が原料の色素を使って顔手足を染めている。

 街ゆく人の手足はとても色鮮やかで、子供達の手足も、ベビーカーの中の赤ちゃんでさえ色付きクリームでほのかに輝いている。

 ふと、色にうんざりしてきた。

 でも、何も整えずに外に出るなんて、警察につかまっちゃうかも。

 法律違反とまではいかないけれど、老若男女、手足に色をつけていないひとなどいない。

 メイクに、特別に興味があるとかないとかではない。

 身だしなみ、もはやマナー、もはや圧力、もはや法律。

 とりあえずみんな色を付けている。センスも何もなく、艶もなく、ガサツに塗っている人をみると、胸の奥がきゅーっと痛む。

 人目ばかり気にして、抑えつけているわたしの心の中を見せつけられているようで、うんざりしてくる。

 ――えっ⁉

 ふと見上げると、そこにいたのはベージュのかたまりだった。

 ――はっ⁉

 全身ベージュのかたまり。目を疑った。警察、よぶ? 裸? なの?

 いや、裸なわけがない。とても綺麗な艶がある。光沢もある。かつて見たことのない感動的な美しさがそこにある。

 ――こっ、これは……っ! もしや一〇〇年ほど前に流行ったナチュラルメイクというもの⁉

 いや、あの有名なナチュラルメイクの時代は、基本的に顔にしか色はつけなかったはずだ。そこまで考えて、わたしは気づいた。

 ――そうか! ループ!

 ファッションはループするんだ。ループしながら、進化する。

 わたし、これ、すきかも……!

「あ、あの……」

 思い切って声をかけてみる。

 ……。

「それ……、あの、ごめんなさい、そのメイク、すごくいいなと、思って。わたし、色にうんざりしてて……、塗る時間も、匂いも……、けど、そのかんじ、すごくいいなって思って……」

「ありがとうございます。これ、すごく簡単なんですよ。まず、保湿用化粧水と、スチーマーで整えて、パックをしてから美容液を三種類、その上にコントロールカラー、リキッドのファンデーション、コンシーラーでととのえて、ブラウンとレッドとオフホワイトを調合して素肌に近い色味を作って……、って思うかもしれないんですけど」

 真剣に訊ねたのに、彼は途中で急におかしそうに表情をゆるめた……。

「実は、美味しいご飯食べて、ゆっくりお風呂にはいって、『あー幸せ!』ってひとことつぶやいたらこうなるんです」

 ――は⁉ なにいってるのこのひと! あー幸せってなに!?

「なにいってるのこの人って思ったでしょ」

 ……。

「ぼく、ある日うんざりして、ぜんぶやめたんです。そしたら身体中ガサガサになっちゃって、色をつけられない体になって。そのとき、もう、どうなってもいい、でかけなきゃいいんだ、人に会わなきゃいいんだって思って、なにもかも捨てたんです。で、髪も伸び放題、部屋も散らかり放題だったんですけど、ふと鏡をみたら、滲み出るツヤというか……。あ、これでいいのかもって思って」

 頭の中がぐるぐると混乱しながらも、この、艶々とした謎のひとをガン見していた。

「あの、銭湯って、知ってます? 昔の人は、何十人何百人と言う他人同士が、一緒の大きなお風呂に素肌で入っていたらしいですよ。なんか、いいですよね、そういうのって。ねえ、そう思いませんか?」

 毎朝うんざりしながらメイクしていた私の目から、安堵の涙が出ていた。私の涙で落ちたにんじん色の塗料の下には。みたこともない綺麗なベージュがのぞいていた。

「雨が降っていますね」

 彼は、ほら、と腕を伸ばし、わたしをビルの外へ誘った。外は大雨で、とても気持ちよさそうだ。

 どろどろになりながら、気づけばふたりで雨の中を大はしゃぎで走っていた。

 ――赤の他人と、変なの。

 自分でも不気味だった。体から流れ落ちていくカラフルな液体――吐きそうなほどの野菜色。潰れて腐ったにんじんの色。

 もう、こちらをみる他人の目など目に入らなかった。


 今日あった出来事を思い出しながら、わたしはとびこむようにお風呂に入った。

 いつもの完全栄養食をやめて、ご飯を炊いてみた。とても美味しくて、頬の内側がきゅんとする。

 彼が教えてくれた、とっておきのあの言葉を口にしてみると、鏡を見ることも忘れるほどの、美しい私がそこにいた。



(おわり)

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