④『1/75秒のためらい』Writer Q 著(手)

「動くな! そのまま、じっとするんだ」

「どうして?」

 その手をつないだ途端、私はきっとこの世から消えてしまうのだろう。分かっている。分かっているけど、私は自分の心の中に蠢くクレイジーな寄生虫を殺せない。

 痛い。心の中をこの虫が切り刻んでいく。

 生きたい。生き長らえたいし、こんな私も幸せがほしい。

 頭では分かっている。

 ……でも、分かってはいるけど、私の手はあなたの手のぬくもりがほしくて仕方がない。

 あなたの手に触れるまで、わずか数センチ。

 一息に触れてしまえばいい、と寄生虫は私の頭までも蝕んでいく。

 私は、人間そっくりのアンドロイドだ。

 アンドロイドは、仕えるべき人間に恋をするのは、殺人の次に罪が重い。

 下心を持って人間にふれた途端、私は破壊されるようプログラミングされている。

 この心を蝕む寄生虫に、名前を付けるとするならば、恋、……なのだろうか?

 ためらいが、私の手を停め、そのまま硬直させたままとなっていた。

 いや、もう、いいよ。

 私など滅びてしまえばいい。

 七十五分の一秒のためらいを振り払い、時空を切り裂く速さで、ついに私の手はあなたの手に重なった。

 人間だったらこういうシチュエーションで涙を流すのかもしれない。

 だけど、私には流せる涙もない。涙があれば最後に、あなたの心をえぐれたかもしれないのに。

 悔しい。

 これで、私は終わりだ。

 こうなるのは分かっていたのに、私はやっぱりバカだ。

 私が崩壊する直前、あなたはたった一言つぶやいた。

「キミはいつも、自分勝手だよ」


(了)


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Writer Q 小説、エッセイ、作詞

https://lit.link/WriterQ

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岐阜県大垣市在住。小説、エッセイ、作詞、脚本、記事の執筆のほか、まちづくり企画も行う。

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