転生男装王女の死後

風宮 翠霞

第1話 私の死

(私の努力、無駄になったなあ)


私は、眠る様に死んでいる自分の顔をぼんやりと眺める。

顔が蒼白いのは、死んだからだろうか?


(まさか、妹に毒を盛られるとは)


ずっと、悪意から守って来た妹。信じてたし、信じてもらえてると思っていた。


(多分、王妃とかそこらに唆されたんだろうけど、ほっといたら勝手に死んだのに)


私の余命は、持病や、子供の時から何度も盛られた毒によって、既にあと三年にまで縮まっていたのだから。


(みんなは上手く逃げれたかなあ?帝国まで頑張ってくれたら、あとは“彼”がなんとかしてくれるだろうけど)


ずっと、冷遇されていた私についてくれていた側近のみんな。私と共に冤罪をかけられてしまった。

どうか、“彼”の元まで逃げ切ってくれることを祈るばかりだ。

“彼”には本当に感謝しかない。


(迷惑をかけちゃう事だけは、謝りたかったなあ)


今となっては、叶わぬ事だが。

「全く、何をしてるんだ。二重三重に策を練らないからそんな事になるんだ」

とか、ぶつぶつ言いながらも手伝ってくれている“彼”が目に浮かぶ。


(好き、だったのかなあ?わかんないや)


願わくば、いつまでも笑い合える関係でありたいとは思ったが。


(多分、恋じゃなくて友愛だったんだろうと思うなあ)


まあ、今となってはどちらでもいいとは思う。もう、全てが遅いのだから。


『やあ、クリスティーナ。いや、来栖の方がいい?』


ぼんやりと座って考えている私の横に、流れるような銀髪と、吸い込まれそうな水色の瞳を持つ男が現れ、私と同じように座る。


(どっちでもいいよ。両方“私”の事だからね。……それにしても迎えが遅いよ、待ちくたびれた)


彼は私の待ち人だ。迎えに来ると、そう言っていたから私も待っていたのに。


『ごめんね。君が気にしてる結果が出るのを待ってたんだ。』


(そう、みんなは無事?)


『ああ。ちゃんと帝国まで逃げたよ』


(なら、よかった。死んだ甲斐があるわ)


『……本当に、ごめんね。君にばかり、辛い思いをさせて』


いつもの飄々とした笑みの中に、苦さが含まれているのがわかった。彼には彼の苦悩があったのだろう。この世界の管理を任される、彼なりの。


(今更じゃない。それに、貴方の提案を受け入れたのは他ならぬ私なんだから、私が恨むなら貴方じゃなくて過去の私だわ。それに、私は完璧には出来なかったから。ごめんなさい)


『いいんだよ、君は約束を守った。僕も約束を守ろう。……それとは別に、何か僕に頼みたいことはある?』


(……一つだけ、お願いしても良いかしら?––––)


私は一つ、彼にしか出来ないであろうお願いを託した。それは私の、心残りだったから。


『わかった、あとはに任せてよ。それじゃ、君はしばらく、ゆっくりお休み』


いつになく優しげに微笑んだ彼がそう言った途端、私は心地よい眠気に誘われて、ゆっくりと目を閉じた。


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