第21話
ログアウトした俺が一階に降りると、もう舞が夕食を作り始めていた。
こちらに気づいた彼女が、笑顔とともに振り返る。
「あっ、兄貴! 一旦休憩?」
「ああ。そっちも配信終了したのか?」
「うん。さっきちょうど終わったんだ。兄貴のおかげで、めっちゃ攻略進んで最高だったよ! ありがとね!」
舞の笑顔が見られて、俺も最高だ。
やはり地球に戻ってきてよかった……。
長い勇者の旅を思い返しながら、俺はテーブルを拭いたり、箸を並べたりしていく。
料理はすぐにできあがり、俺たちは向かい合うようにして座り、いただきます。
「兄貴ー、今どこまで進んだの?」
「ん? さっき、第二の街についたところだ」
「第二の街!?」
お行儀悪いぞ。でも可愛いからオッケーです。
口から少しお米をとばした舞だが、そのお米を食べたい気持ちをぐっと押さえつつ、俺はテーブルを拭いていく。
舞は驚いたような顔をしたあと、目をキラキラと輝かせる。
「あ、兄貴……凄いよ! ていうか、あの森超えたってことだよね!?」
「森?」
「そうそう! 村の先にある森だよ! 山まで見えてたけど、あそこらへんのナイフモンキーのレベル高くない!?」
「ああ。あいつらは、まあ突破したぞ。その先にも行ったな」
俺が答えると舞は笑顔とともに相槌を打ってくれる。
「さすが兄貴。兄貴の攻略情報は皆で共有してるんだけど、マジで助かってるんだ。あたしたち、『ディメンション』の攻略班だからね。あっ、今はトップ攻略組でもあるんだけど」
「へぇ、そうなのか」
「いやまあ、兄貴が真のトップ攻略組なんだけどね。今、配信界隈凄いんだよ? 『リトル・ブレイブ・オンライン』の配信者は皆凄い同接なんだけど、あたしたちは元々のファン+トップ攻略組ってことで常に十万人以上超えてるんだよね!」
「それって凄いのか?」
「うちの事務所だと快挙だよ! うちは大手よりの中堅って感じなんだけど、今凄い勢いなんだよ!」
「舞のためになったのなら良かったよ」
嬉しそうな笑顔を浮かべる舞を見て、俺も幸せな気持ちになる。
これからもお兄ちゃんさらに頑張らないとな。
舞はそれからも楽しそうに声をあげる。
「もうほんと兄貴のおかげだよ! 斧と槍のおかげで、めっちゃ火力上がったんだよ! 兄貴さまさまだよ」
「ていうか、装備できたのか?」
「結構ステータス偏っちゃってるけどね。あたしと、レイちゃん……あっ、槍使ってる子がメイン火力って感じなんだ。でも筋力にばっかりステータスを振っちゃったせいであんまり動けないんだけどね……」
それだと、確かにナイフモンキーとは相性悪そうだな。
あいつは敏捷を活かしたタイプなので、反応が遅れたら攻撃喰らいまくるよな。
必死に斧を振っている舞の姿を想像して微笑ましい気持ちでいながら、問いかける。
「じゃあ、この後の配信で次の街を目指す感じか?」
「うーん、今日は流石にそこまでは無理かな? とりあえず皆のレベル上げていこうって感じ。あっ、そうだった。兄貴についての質問が色々あったから、聞いておこうと思ったんだ!」
「は? なんで俺の質問?」
「今のあたしたちの配信でコメント欄に兄貴の名前めっちゃ出るもん!」
「ええ……武器を納品してるからか?」
嫌われていないだろうか?
舞の配信をざっと見たときに思ったが、結構男性ファンが多そうだったからな……。
それで舞の視聴者が減ったり登録者数が減ったりなんてしたら……ああ、俺が異世界で身につけたスキルを駆使して、全力でサブ垢を大量に作って補填しなければならない……!
「そうそう。兄貴トップ攻略組だし。あとなんか村でオーク討伐の依頼とか受けた? 村の人たちめっちゃ兄貴に感謝しててあたしは誇らしかったです」
ふふん、と胸を張る舞。
ああ……ここは天国だろうか? 舞に褒められて俺は天にも昇る気持ちだった。
若干昇天しかけたが、女神と再会したくないので現世に戻ってきた。
「まあなレベル1のときに討伐したらなんか称号手に入るかもって思ってやってみたらSランク称号手に入ったぞ」
「ええ!? レベル1で!? 凄い! そうそう、あと視聴者から、配信とかしないの? ってめっちゃ聞かれたんだよ! どうですか兄貴!」
「いや、別にやるつもりはないな」
「えー。今うちの事務所、男性ライバーの一期生を募集中だし、どう? 応募しない? あたしもみたいなー」
舞のためだけにやりたい気持ちが出てきたぞ?
いやでも、いくらトップ攻略組だからといって、新人がやってもそんなに視聴者はつかないだろう。
でも、お金が少しでも稼げるなら、舞の推し活費用を捻出できるかもしれない……。
一向の余地ありだな。
「そういえば、あの森抜けたらもう第二の街に着くの?」
「いや、山を越えていくか、ダンジョン突破のどっちかでいけるな」
「ダンジョン、あるんだ……脳内メモメモ」
「ちなみにそのダンジョンで槍の武器がドロップするんだよ」
「そうなんだ……そこで手に入る武器を二刀流してたら、そりゃあ強いよね」
「まあな。俺はこの後新しい武器を求めて旅立つんだが、あとの人たちは何の武器使ってるんだ? 拾えたらまた納品するぞ?」
「えーと、ホムラちゃんが刀で、セイナちゃんが杖だよ!」
「ほぉ、了解。見つけたら送っておくわ」
「ありがとね! 攻略組、頑張ります!」
敬礼する舞がとても可愛い。
俺はこの可愛い舞を甘やかすために魔王を倒した……。
ああ、これからもたくさん貢いでお礼を言われるんだ……!
―――――――――――
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
楽しかった! 続きが気になる! という方は☆☆☆やフォローをしていただけると嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます