呪物の作り方

九十九 千尋

■■■■■■■の場合


「今回のKACのお題は『はなさないで』か」


 趣味で小説投稿サイトカクヨムに投稿を始めて早数年。俺より年が若くて書籍化する奴が居るこの小説投稿サイトで、俺は鳴かず飛ばずの底辺作家だ。

 主にホラーやファンタジー作品を書いているが、どれも週間ランキングは芳しくなく、PV数も多くない。まあ……Xとかで作品のツイートとか出来ていないのもあるのだろうが、きっと俺には運が無かっただけだ。


 これは俺の自論だが、作品の知名度を上げるのにKAC、カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップは有効だ。カクヨム運営が定期的に開催する「短期間でお題に合わせた小説を書く」このお祭りは大変だが、横のつながりも増えるし練習にもなって一石鳥かの効果があって、できうる限り参加している。

 そうして、今回のKAC2024にも参加して早五回。

 今回のお題はかなりホラー向けだと、さっそく俺はネタを集めるためにネットの広大な海へ漕ぎ出した。


 だが、あまり使えそうなネタはない。

 今回のお題は「はなさないで」なのだから、例えばホラーな現象に合っている男が恋人の手を離さずに走り続けるも彼女の手を掴んでいるわけではなかった話とか……いや、定番でありきたり。何より過去にそういうホラーノベルゲームがあったはずだ。あるいはお題を「離さないで」ではなく「話さないで」とすれば、語ってはいけないホラーの話などになるだろう。例えば聞くだけで呪われる話など……これもまた定番だ。そして肝心の“話してはいけない内容”はまた決めねばならない。そこに毎回悩んでいるのだから、また締め切りギリギリまで苦労する未来しか見えない。


 ふと、俺はネットの海を漂う中で気付いたことがある。

 世の中に「聞いてはいけない」系のホラー話は多くあるが、その話はどうしてネット上にも転がっているのだろうか? 例えば、聞いただけで死ぬような内容の怪談であれば、語り手はあの世から語っているでも無ければ説明はつかない。言わずもがな、創作が故に、ということなのだ。

 しかしそうとなると、「はなさないで」を「話さないで」と解釈して語ってはいけないホラー話などにして、果たしてそれは恐ろしいのだろうか? 創作が故の安心を感じながら読むホラーに何を期待しろというのか……どうしたものか。


 そんな時、ある作品に出合った。その作品は作中に作家本人を出し、日本各地で調べた怪異怪談話を「作中で作家の家の周辺で怪異が起きたこと」として書いて出したらしい。

 するとどうだろう。その作家の家の周囲で本当に怪異怪談が発生し、ついには作家は狂い死んだという。

 これだ。俺はそう思った。


 すなわち、語ってはいけない話「話さないで」とはこれのこと、実在する怪奇現象の引き寄せ方というわけだ!


 作中に実在の怪異怪談の類を登場させ、しかもそこに実在の人物を虚実織り交ぜて登場させる。すると、作家の周囲ではマジの怪奇現象が発生する! つまり、が書けるということになる!

 これはいわば、自身を呪う行為にあたるのだろうが、俺は呪いなんて信じてないし、ホラー現象だって今まで見たこともない。実際にあるならそれをネタに書けばいいだけのことじゃないか。

 件の作家はホラー作家だというのに恐怖に負けるなんて、余程ホラー作家として適性が無かったに違いない。

 だが俺は違う! 今までは運が無かっただけだ。しかしこれからは、ノンフィクションでホラーを書いているのだと締めせれば、間違いなくネット上で大ヒットするはずだ! ついでに怪奇現象をカメラに収めて動画をSNSで流そう。俺は伝説になれる!



 というわけで、次回から俺の周囲で起きた怪奇現象を元に書いていこう。

 次の更新を楽しみにしていてくれ!


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