第十七話 飛躍(胡桃視点)



 僕は組合長と二人きり、何も起こらないわけもなく……、レイにされた話を聞いていた。


「そんな……」


 僕も知ってしまった。取り返しのつかない事をしてしまった事を……そして、自分の手で知っている人を殺してしまった事を。


「残念ながら、事実だ。」


「あ、あぁ………」


 胡桃は罪悪感とその他諸々が押し寄せて来て落ち込みはするが、過呼吸にはならない。

 基本的に誰が見てもそれは喜ばしい事だが、胡桃はそうは思っていなかった。

 

(何で!何で過呼吸にならないんだよ!!レイは自分に責任があるって分かっているからなったんだ!それなのに、僕は!!)


 胡桃は心の中で叫ぶ。何故自分は過呼吸にならないのか、何故自分はこんなにも無情なのかと。

 そして、心の中で叫ぶ内に、胡桃は理解した。

 僕は最低だと。


「……すみません。ちょっとこの場から離れます。」


「あぁ、分かった。いつ頃戻って来るかい?」


「……明日で…」


「まぁ、落ち着いたら戻ってこい。その調子じゃ明日また顔を見せるのは難しいだろうからな。」


 組合長は長を務めているだけあって、かなり優しい。

 でも、必ず明日には帰って来る。レイが困ってしまうからね。


「それじゃあ……失礼しました。」


 扉を開け、部屋から出る。

 そして、僕はすぐに、そこから駆け出した。周りから見れば部屋から逃げ出した様にしか見えないだろう。

 でも、僕はダンジョンへ向かう為にそこから駆け出したのだ。レイと痛みを分かち合えるほど、強くなる為に。



***



 ダンジョン前に着くと、既に沢山あった死体は消えていて、特殊清掃員の人々が道についている血液を綺麗に拭き取っている最中であった。


「確か、ダンジョンに入る際には必ず配信をつけなきゃ行けないんだったっけ。えっと………ライブサーチャー」


 僕は組合長が言っていた重要な事を思い出して、配信の画面を開く。

 自己写真はパパッと撮った為、ホラー写真が出来上がってしまった。


「名前はテキトーにヒーラーでいいや。」


 レイが教えてもらっていたのを直で見ていたので、配信の設定はすぐに終わってしまった。

 配信ボタンをポチッと押して、そのまま一人でダンジョンへと入っていく。


「今は1階層が6階層か。」


 坂道を降りながら呟く。


「いや、正確には11階層か」


 2回ダンジョンブレイクが発生しているならば、合計10階層がなくなっている事だろう。

 そこまで考えた事ではっと気づいた。


「新人の死者数が1階層が一番多いのって、あそこが本来なら6階層だったからか!」


 そんな一人事を言いながら降りきると、グレーケイブの灰色の壁がお出迎えしてくれる。

 一応懐中電灯を持って来てはいるが、きっと使うことはないだろう。僕は配信をつけてるお陰で辺りが少し照らされて見えるのだ。

 ちなみに、配信画面をチラチラ見ているが視聴者は一人も来ない。やっぱり写真の影響だろうか。


「ふぅ、ここは少し怖いな。」


 モンスターが急に飛び出して来ないか心配で、聞き耳を立てながら歩いていく。


「(キュキュ〜)」


 少し歩いた時、前方に見える暗闇から小さく高い声が聞こえて来た。

 あの声はスモールケイブバットのものだ。スモールケイブバットはステータスだけで言えばゴブリン以下だ。

 だが、侮ってはいけない。あのモンスターは体力が半分以下になると、超音波を出し、何体か仲間を引き連れて来るのだ。


「良し、攻撃しにいこう。」


 でも、僕の狙いはそこにある。上手く利用すれば無限にレベル上げが出来るじゃないか。舐めてる人が多いと思うが、僕のステータスなら一応スモールケイブバットを倒す事が出来るのだ。………ギリギリだけど。


「ていっ!!」


 落ちている石を利用して、ケイブバットに投石をする。

 ケイブバットには当たったかは分からないが、ケイブバットはこちらに飛んできた。


「えい、えい!」


 ケイブバットがこちらに攻撃する為に、近づいて来る。僕はそれに対して、拳でカウンターを決めている。

 他に武器は無いのかって?常識的に考えて、囮役に武器はいらないだろう。じゃあ買えばよかったんじゃないかって?僕の所持金は今の所ゼロだ。


「はぁ、はぁ、そろそろだよね。」


 全攻撃にカウンターを決めていると、ケイブバットが上空で奇声を発した。

 胡桃はその場でカウンターの姿勢を続ける。


「まぁ、そうだよね。」


 ケイブバットは奇声を発するとすぐにこちらに向かって捨て身の突撃をして来た。

 胡桃はケイブバットに綺麗なアッパーを繰り出し、ケイブバットを行動不能にした。


「次はすぐに来るよね。」


 少し遠くに目線を向けるとケイブバットの群れ(4体)が、こちらに向かって来ていた。


「やってやる……」


 次はカウンターでは無く、戦闘の姿勢でケイブバットに突撃していく。

 もちろん、ダメージを沢山受けるわけだが、全て回復させる。そして、数を一匹、また一匹と減らしていく。

 全てのケイブバットを倒した時には、マナは30を切っていた。

 

「ふぅ……一回、瞑想しにセーフティポイントに戻るか」


 ケイブバットがこちらに向かって来てるのを確認して、セーフティポイントに駆け出した。追いつかれたらひとたまりもない量のケイブバットが視界に映ったからだ。

 そう言えば、久々に画面を見ても視聴者数は0人だった。そこから、画面を意識する事がなくなって行った。


「はぁ、ギリギリ追いつかれずにすんだ……。」


 セーフティポイントの入り口でぺたんとへたり込む。後ろに目をやると去っていくケイブバットが見える。数はざっと15匹だろうか。


「ふぅ………。」


 安堵のため息をつき、目を閉じて瞑想をする。30分でもしたら、マナは最大まで増えているはずだからだ。

 そして、マナが溜まってから目を開け、ケイブバットを探しに出かけた。



***




 ケイブバットを狩るそして、瞑想をする。これの繰り返しをする事20回、胡桃のレベルは、この様になっていた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 名前: 二川胡桃(16)

 職業: ヒーラー

 レベル:15


 HP  100/100

 MP  700/700


 ATK   37

 DEF   30

 MATK  40

 MDEF  18

 AGI   34

 DEX   25

 EVA   41


★スキル


 [言語理解][瞑想][ヒール][キュア]

 [クリーン][ブースト][身体知覚]


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 ステータスの上がり方は基本的に、レベルが上がった際に酷使していたものがあがりやすくなっている。

 例えば、拳を使いまくっていたらATKが上がりやすくなるという風に。

 何故ここでその事を説明したのか分かるだろうか。

 そう、この胡桃のステータスはこの街の中で中の上くらいになっているのであった。

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