第6話 今更、それになったか…(胡桃視点)



「勇者に殺された者たちの気持ちを考えろって言ってんだ!!」


 そう言われた時、何を言っているのかが、分からなかった。でも、一つだけ自信を持って答えられる事があった。

 多分この子の地雷を踏んだんだろうなって。


「私たちはだろ!」


 そして、その魔族と言う単語で気づいた。この子は本当に人では無いのだと。走る速度も異常な物だし、合理的である。

 だが、その考えを打ち消す答えも出てきた。レベルだ。

 この世界にはレベルと言う物がある。半年もずっとダンジョンに潜っていれば走る速度は人の出せない速度を出せる様になっていてもおかしく無いだろう。

 ならば何故、自分と僕の事を魔族と言ったのか、何故、アンチ勇者なのか、簡単な話だ。

 

 きっとこの子は今、中二病に目覚めているんだろう。

これを予想できる要素は沢山あった。

 第一に、見た目だ。顔を見るに同い年くらいだろう、しかも髪の毛を銀髪に染めている。服装はまぁ、置いておく事にする。

 第二に、奴隷であるかもしれない事だ。仮に同い年であっても授業を受けていなければ、今頃中二病になってもおかしく無いだろう。

 第三に、人の走る速度=勇者の走る速度と解釈した事だ。最初に人と言われて勇者を思い浮かべると言うことはファンタジーが大好きだったんだろう。


 だが、そこで問題が発生する。何故アンチ勇者なのかと言うことだ。ここにも二つの可能性が想像できる。

 一つ目の可能性として、半年間ダンジョンにいたことだ。これによって、ダンジョンが実家。モンスターが家族と思っている事が十分に想像できるだろう。

 二つ目の可能性として、悪役の方がかっこいいから。中二病になった人なら分かると思う。悪役の方がかっこいいのだ。


 僕は最終的にこの子が人の容姿をしている事から、中二病である可能性を信じる事にした。まだ、人の容姿をしたモンスターが出たと言う情報は出てないからね。 

 ただ、その設定自分達が魔族に乗るかは別の話だ。僕だって元高一、中二病を卒業した身だ。恥ずかしい物は恥ずかしい。


「………ううん。」


「…………え?……。違うって言ってよ…。」


 う"!辛い…。苦しい。やめて、そんな可哀想な声出さないで……。僕が流れに乗らなかったのがそんなに悲しかったのか?でも!ここで!僕が魔族だと!変えたら、僕が恥ずかしくて悶えてしまう!!


「いいや、違わない僕は………、人間だ。」


 ふぅ、危ない流されそうになった。


「う〜ん、なんて言…ったか!聞こえなか……ったなぁ……。」


 聞こえなかった作戦か?もう一度、僕にチャンスを渡そうとしてるんだな…。それでも、恥ずかしいからダメだ。絶対ダメだ。

 あの頃を濁すために優しい性格を目指したのに、あの頃に戻っては恥ずかしさの余り、喋れなくなっちゃう!


「もう一度言うけど………、僕は人間だ。」


「人間は殺さないと…、いけない……。魔族の教えがある……。から……胡桃と仲良くは……」


 まずい、魔族にはそんな設定があったのか!?いや、ファンタジーの王道なら魔族と人間が仲良くなる流れがあっていい筈だ。


「魔族の教えとやらで、僕たちの関係が無くなるとでも言いたいのか?」


「いや、そうじゃ……、でも…。」


「人間と魔族は仲良くなったらダメなんて、そんなルールあるのか?」


「でも…。でも!勇者だって!その仲間だって!人々は私たち魔族を殺した!」


「僕は違ッ「違わない!!そう言って裏切った人もいた!!」」


 設定を細かく練ってるパターンか。自分で言うのも何だが、このパターンは難攻不落な事が多い。これは実体験だ。そして、こう言うのに限って、自虐ネタをぶつけると崩れやすかったりする。


「僕には裏切れる程の力は無い。敵だって倒せない!だって僕はヒーラーだ。誰かを癒す事しかできない。」


「でも!仲間とか!親とか!…友達とか!」


「僕には仲間も居ないし親も居ない。それに、あんなに話して友達だと思えたのは君くらいだよ。」


 うわ、自分で言ってて苦しくなるな。こんなクサイセリフ言ったのはあの時以来だよ。恥ずかし。


「うぅ…!うぅぅ………」


「そうだ、君と言う魔族と初めて仲良くなれた人間になっても良いかな?」


「でも……でも……でも……」


「大丈夫、自分の信じたい物を信じれば良いだけだよ。」


 決まったぁ〜!これは決まった!よし!よし!


「じゃあ……胡桃だけ…なら、」


「やった〜!ありがとう!これからも宜しくね。」


「こちら…こそ!」


 胡桃は自分の中で何か大切な物を失う事で、その場を収める事に成功したのであった。




***


 この子を泣き止ませるのに、時間がかかり、出口に向かおうとした所、問題が発生した。


「所で出口ってどこ?」


「さあ、さっきの超速走りで僕たちの位置が分からなくなっちゃって。」


 現在、絶賛迷子中だ。


「一回、さっきの二階層入り口まで送ってくれれば、案内出来るんだけど。」


「分かった!」


「今度はちゃんと速度をセーブしてね!」


 そして、彼女は走り出し、5分くらいした時に、二階層の入り口まで戻ってきた。ちなみに、速度は時速40キロくらいだった。


「よし、ここからなら案内出来る。」


「待って、向こうに明かりが見える。」


 僕も奥を見ると、懐中電灯を持った人達が見えた。


「あれはまだ誰か分からないけど、こちらに気づいてそう。」


 僕たちが見ている人達もまた、こちらに警戒している気がした。


「お〜い!!どちらさま〜!!」


 僕は大声を出して、呼びかけた。すると、懐中電灯をこちらを向け、武器を構えるのが見えた。


「ちょっと警戒した方がいいかも」


「了解!」


 そいつらはゆっくりと近づいて来て、「二階層でスタンフを殺ったのはお前らか?」と声をかけて来た。

 二人の身長は170cm以上で、声質からして、大人だと分かる。



「スタンフさんを殺した?何のことですか?スタンフさんなら、怪我をしていたので回復させて、今そこのセーフティゾーンで寝てると思うんですけど。」


「怪しいな。お前達が先頭に立って案内してみろ。」


 怪しいだと!僕たちからしたら、急に武器を構えて来たそっちが怪しいんですけど!!


「分かり…ました。」


「私、あそこに戻りたく無い。」


「えっと何で?」


「あの人、会いたく無い。私と友達じゃ無い。」


 あーあ、さっきの一件で自分と友達関係にある人じゃ無いと仲良く出来なくなっちゃってるよ。


「う〜ん。僕が先頭で案内するからこの子は後ろから来させちゃダメですか?」


「ダメだ。二人共、先頭で行け。」


 ダメかぁ。難しいなぁ。


「じゃあ、ちょっと下ろしてくれない?僕が先頭で歩いていくから、君は僕の後ろで隠れててよ。」


「そうする。」


 僕たちは再び2階層の入り口へと入って行き、「ここです。」と言って、スタンフさんの所へ案内した。

 二人のうち一人が武器を構えてこちらを監視し、もう一人がスタンフの首に手を当て、生存確認をした。


「スタンフの生存を確認!そこのパーティーが言っていた事は正しかった。おそらく、そのパーティーは信用に値する。」


 生存確認!と言った時、武器を構えていた方が警戒をといた。


「えっと、あなた達は?」


「私達?あぁ、私達は冒険者組合から派遣された冒険者のマリとゴウだ。私がマリであっちの生存確認していた方がゴウだ。この度は君たちを疑ってすまなかったね。」


 冒険者組合!?冒険者の配信許可証を発行したり、ダンジョンブレイクの時に対処してくれる等、ダンジョンの管理をしている、あの冒険者組合が何でここに!?滅多な事が無い限り出動しない筈なのに。


「何故ここに冒険者組合の皆さんが?」


「それはね、このスタンフと言う配信者が配信中にダンジョン内で闇討にあったらしくてね。犯人のわかっている犯罪と言う事で来ざるを得なかったんだ。」


「配信中に!?それって闇討とは言わないんじゃ…。」


「まぁ、そこは置いといてくれ。…で、そう言う君たちは誰だい?」


「僕は配信をしていなくて、配信者名が無いから本名で言うんですけど。僕は二川胡桃と言います。えっと、彼女は……。」


 う〜ん、なんて言おうか。奴隷だと思ってるのは自分だけだし、この中二病に自己紹介任せたら事故りそうだし…。う〜ん。


「彼女は?」


「えっと、身元不明の少女です。見た目からして、訳ありかと。」


「ほぅ、さながらジェーンドウと言った所か。」


 ジェーンドウ何て久しぶりに聞いたよ。ここアメリカじゃ無いんだもん。ちなみに、初めて聞いたのは中二病を拗らせていた時だ。


「まぁ良い。二人とも、人命救助を行なってくれてありがとう。二人には冒険者組合から何かお礼をしたい。」


「いえいえ、大丈夫ですよ。」


「いやいや、そんなに謙遜しなくても良いよ。私達には君たちにお礼をする義務があるんだ。」


 いやいや、いらなっ!ってあれ?これあの時の僕と少女みたいになってる?

 自分の後ろを見ると、少女はあの時はしつこかったんだよ?とでも言わんばかりの目でこちらを見ていた。


「……お礼、受け取ります。」


「じゃあ明日、冒険者組合においで、私達は君とその少女について冒険者組合上層部に伝えておくから。謝礼の品何が欲しいかは決めておいてくれよ。できる限り用意するから。」


「分かりました。」


 そして、ゴウがスタンフを背負ったのを見て、マリがもう行けるか?と声をかけて来た。僕たちは勿論、はい!と言って、マリとゴウについていった。



 ちなみに、スタンフの配信がまだついていたせいで、ネット上にヒーラー二川胡桃の姿・本名が公開され、「死んだ筈のヒーラー」として有名になり、少女は「老婆もどきのジェーンドウ身元不明の少女」として有名になったのを二人はまだ知らなかった。

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